画・SS シェリー様
その日の速水は、ひどく仕事の能率が悪かった。 そわそわと落ち着きがなく…かと思えばなにやら遠くを見て物思いにふけっている。 彼の秘書は、速水の手が止まる度に態度や言葉で注意を促していたが、一向に改善する気配はなかった。 彼がこうなった原因をよく知る秘書はため息を隠せない。 2月20日。 この日は彼の恋人の誕生日なのであった。 しかも付き合うようになってから初めての。 いい歳をした、しかも日頃から仕事の鬼と称されている男が一体何を…というような理由であるが、こと恋人に関して彼はとことん不器用であった。 まったく情けない様ではあるが、片手の数では足りない年数を片想いで過ごした末に手に入れた恋人であることを考えれば致し方ない…… と、彼の秘書などは思うようにしている。 その恋人の誕生日における彼の悩みが何かというと、恋人への誕生日プレゼントのことであった。 随分とベタな悩みのように思われるであろうが、今回の彼の場合、普通の「何を贈ろうか」というような悩みとは少し違う。 実は昨年のクリスマスの直後、彼は恋人から「プレゼント禁止令」を言い渡されていたのである。 想いが通じてからこっち、浮かれっぱなしの速水は、事ある毎に恋人へ贈り物を贈った。 イベント事はもちろんのこと、何の理由もなく思いついたら即…といった調子で。 その量、値段、そして頻度に、慎ましい彼の恋人は喜びを通り越して戸惑うばかり。 もっとも速水の目には、その戸惑う様子でさえ可愛いと映っているのだから始末に終えない。 そして、恋人同士にとって最大のイベント事であるクリスマスは当然のごとくその内容がエスカレートし… 結果、「しばらくプレゼントは禁止!」と、はっきり言い渡されてしまったのだった。 そんなわけで1月の間は贈り物をしたい欲求をひたすら我慢した速水であったが、2月は恋人の誕生日。 誕生日は構わないだろう、とプレゼントの準備に取り掛かろうとした矢先、 「もう誕生日の分まで充分貰ったから、今年は誕生日のプレゼント要りませんからね!」 と、釘を刺されてしまった。 さすがに誕生日にそんな訳にはいかない、と速水は食い下がったのだが、それに対して彼の恋人は 「プレゼントより……一緒に居てくれるだけでいいです」 と、頬をほんのり染め、伏目がちに呟いた。 恋人の誕生日は当然ながら一緒に過ごすつもりで、何ヶ月も前から秘書にしつこく終業時刻から翌日にかけての予定を空けておくように言い含めていた彼であるから、恋人のこの言葉はお願いでもなんでもなく当然のことだった。 それをこんな風に、しかもそんな様子で言われてこれ以上議論出来る男がいるだろうか!? こうして「誕生日は一緒に食事に行くだけ」という約束を交わしてしまった速水であった。 しかしそれならそれでと素直にいかないのが、この男の困ったところである。 何とか喜ぶ物を贈って恋人を驚かせたい喜ばせたい。と、無駄に悩むこと数週間。 だが彼に思いつく物といえば、高価な装飾品に服に……これまでの経緯から考えて明らかに恋人に断られそうな品ばかり。 そうしてぐずぐずと悩んでいるうちに当日が来てしまった。 それでも往生際の悪い彼は諦めがつかず、結果仕事にまで支障を来たす始末。 そしてとうとう、秘書の手によって終業時刻が来る前に社長室から追い出されてしまった。 会社のトップたる社長に何たる仕打ちと思いはしたが、今の自分が使い物にならないことを一応理解していた速水は、大人しく会社を出ることにした。 恋人との待ち合わせの時刻はまだしばらく先。 街に出て色々見てまわれば、何か良い贈り物が見つかるかもしれない。 2月も半ばというのに、寒さは厳しさを増すばかり。 黒いコートをきっちりと着こんでぶらぶらと街を歩く。 普段車で通り過ぎるだけの景色は、久々に歩いてみてみるとがらりと印象が違った。 幾分物珍しい心地で通りすがりの店を覗いてみるが、どのような店に入ればいいのかはさっぱりわからなかった。 そうしてふらふらと、どの店に入るでもなく歩いているところ、視界の隅を掠めた白い影。 「雪…」 その瞬間、彼の脳裏を過ぎった懐かしい記憶。 雪降る夜の街に浮かぶ、可愛らしい苺柄。 思わず顔が綻んだ。 ふと気づけは大手百貨店の前まで来ていた。 百貨店なら気軽に見てまわれるかと考えた彼は、人の流れに合わせて中へと入った。 入ってすぐの売り場は、ハンカチや鞄、手ごろな値段の装飾品等、女性向けの雑貨が所狭しと並んでいる。 先ほど思い出した記憶のせいか、彼は何気なくとある雑貨の元へ向った。 そう、本当に何気なく。 そうそう都合よく、思い出を彷彿とさせる品があるとは思ってもいなかったから。 だから多くの品の中からそれを見つけたとき、普段は現実主義者で目に見えるものしか信じない彼も、意味のある偶然というものを信じてみたくなった。 ふらふらとゆっくり歩いていたせいか、百貨店を出た頃には待ち合わせに丁度よい時刻だった。 店に入る前は降ったり止んだりを繰り返していた雪であったが、日が陰るにつれて段々と降りが酷くなってきているようだ。 早足で歩く彼の肩や髪に触れた雪が溶け、そこがゆっくりと湿り気を帯びていく。 彼は手元を見てしばらく逡巡したが、結局そのまま歩き続けた。 待ち合わせの建物が見えてきた。 逸る気持ちを抑えつつ先を急ぐ彼の視界の中で、段々と大きくなる人影が一つ。 建物の入り口の前で静かに佇んでいる。 それに気付いた瞬間、彼はドキリとした。 大切な大切な、自分の恋人。 待ち合わせ場所は建物の中だったはず… しかも待ち合わせの時間はもうあと数分後。 この寒い中、自分を外で待つ理由など無いはずである。 「一体何をしている!?」と大声を上げそうになった彼だったが、空を見上げる恋人の表情に気付き、言葉を失ってしまった。 先ほど雪に気付いたときの自分と、よく似ている気がしたのだ。 あまりに思い上がった考えだと思いはしたが、それでも動悸は治まらない。 彼はもう一度手元を見て、今度は迷うことなく手の中のそれを広げた。 そして恋人に気付かれないようにそっと背後へまわる。 それから静かに、それを恋人の頭上に傾けた。 「どうしたんですか、その傘……」 「街を歩いていたら雪が降って来たんでね。通り掛かったデパートで購入した」 「……この柄を、速水さんが?」 「……たまたまこれしか良さそうな物が無かったんでな……」 「………」 「でもこの柄じゃ、普段俺が使うには少し体裁が悪い。 …だから貰ってくれないか?」 「………やだって言ったら?」 「む………」 「ふふっ。もう速水さんてば……仕様が無いなぁ。 確かにこの傘は速水さんには似合わないから、仕方なく私が貰ってあげます」 「ありがとう」 「私こそありがとう…… 懐かしいね。 あのときはこんな誕生日が来るなんて思いもしなかったなぁ…」 「そうだな…… さあ中に入ろう。二人っきりの誕生会の始まりだ」 Happy Birthday! シェリー様より この絵でちょっとネタ思いついたので、性懲りもなく書いてみたです。 思いっきりタイミング逃してるけどしょうがないよね。 終わった後に思いついちゃったんだモン〜(´▽`;) 「懐かしのイチゴ傘をプレゼント☆」という妄想を形するべくこじつけた結果、 えらい情けない社長になってしまいました(´д`;) でもまあやることに意味があるよね☆ 2月20日に間に合えば最後少しはカッコついたのにな…orz(そうか?) 紫苑より お絵描きもSSジカキもオッケーなシェリーさんvウラヤマ〜〜(笑)萌えの自家発電できていいですねえ。 マヤたんにベタ惚れ&弱み見せまくりの困りマスがカワイイ〜〜♪ ツボ!ツボ! 私の真澄さんではこうは行かないっす。 マヤちゃんの決めぜりふもらしくて素敵。 私もペンタブ買っちゃったりして、ヒマヒマにお絵描きのお勉強始めそうな自分がコワイ(^_^;) 手を抜くところはサッパリだがミョーなところで凝り性だし私も。くわばらくわばらであります。<やめなさい、自分 シェリーさん、このたびは誠にありがとうございました! |
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