「Shion」100000番ゲットsakura様リクエスト:結婚してから1年くらいの激甘いちゃいちゃが読みたいです。

sakuraさんよりリクエストいただきますのは実に「桜の森の満開の下」以来です。ありがとうございます。
激甘いちゃいちゃ…?現在の私にとりましては以下のようなものなのですが。






'Amazimg Grace'
Amazing grace, how sweet the sound,
that saved a wretch like me.
I once was lost, but now am found,
was blind, but now I see.

'Twas grace that taught my heart to fear,
and grace my fears relieved;
how precious did that grace appear,
the hour I first believed.

Through many dangers, toils and snares,
I have already come.
It's grace that brought me safe thus far,
and grace will lead me home.

When we've been there ten thousand years,
bright shining as the sun.
We've no less days to sing God's praise,
than when we first begun.

Amazing grace, how warm the sound;
that gave new life to me.
He will my shield and portion be,
His word my hope secures.

我をも救いし くすしき恵み 迷いし身も今 立ち返りぬ。
懼れを信仰に変え給いし 我が主のみ恵み げに尊し。
苦しみ悩みも くすしき恵み 今日まで守りし 主にぞ まかせん。
我が主のみ誓い とわに固し 主こそは我が盾 我が命ぞ。
この身は衰え 世を去る時 喜び溢るる み国に 生きん。







今宵の月は二日月。
西空の彼方、銀の弓は煌めく。
宵の明星、金星は、濃い夕闇に燦然と明るく輝いた。

ああ、日本だわ…。

長かった海外での仕事を終えて帰国したマヤは、成田空港からの帰途の高速、
車中から黄昏の空をしみじみと眺めやった。
仕事は充実しマヤも十分力を尽くした。
だが、夫となった真澄と遠く離れて過ごす日々はやはり酷く心許なく、寂しく、
ひとり異国で過ごすどの夜も、マヤは切なく真澄を恋い焦がれた。
夜ごとにマヤに訪れた、恋しい真澄の抱擁の幻影。
夢にまで見た、真澄の腕。
真澄の胸。
真澄の声。
真澄のぬくもり。
真澄と交わす、唯一つの愛の交歓の夜。その儀式。
恋しくて募る想いは、夢の虚空を茜色に染めて行った。
そして漸く、念願の帰国。

会える、やっと。速水さん。
ああ、会いたかった、
あたし、寂しかった。
速水さん…。
速水さん…。




「奥様、お着きですよ。」
運転士の声でマヤは軽いうたた寝から目覚めた。
黒塗りの車は音もなく速水邸の玄関に滑り込む。
マヤには久々の速水邸。
失われた空白の時間は瞬く間にマヤに甦る。
「お帰りなさいませ、奥様。」
使用人らが笑顔でマヤを迎える。
「社長がお部屋でお待ちです。奥様、どうぞ。」
「ほんと?ありがとう。」
旅装の荷ほどきは使用人に任せ、マヤは急いで階段を駆け上がった。

夫婦のリビングの扉を、マヤはそっとノックする。

速水さん…!

さっと扉を開けて、マヤはリビングに駆け込む。

「やあ。奥さん。お帰り。」
懐かしい、真澄の涼やかな声。その響きはこのうえなく甘くマヤの耳に優しかった。
真澄の笑顔が輝いて眩しい。
広げられた真澄の両腕に、マヤは迷わず飛び込んだ。
真澄がしっかりとその両のかいなにマヤを抱き竦める。
マヤは真澄の胸に頬をうずめた。
煙草と幽かなコロンと清潔なシャツの真澄の馨。
真澄の暖かな胸の確かなそのぬくもり。
外つ国を流離ってようよう帰るべき処に遂に帰ってきた。
真澄の腕の中で、マヤはその喜びをしみじみと噛み締めた。
ひたひたとマヤの胸を満たす、念願の再会のその幸福の実感。
万感の思いで、マヤも真澄に縋りつく。
つと、真澄の腕に力がこもった。
マヤは真澄を見あげる。
マヤを見おろす真澄の瞳の和やかな光輝。
真澄の美しい長い指の指先でそっとマヤのおとがいが持ちあげられれば、それは接吻の誘い。
話すことなく語ることなくその声も聞こえないのに、真澄の心の言葉はマヤに伝わる。
マヤはゆっくりと瞼を閉じた。
ひと刹那、重なり合うふたりの、くちびるとくちびる。
巧みに思いを伝える、真澄の変化に富んだくちづけ。
真澄のくちびるに、マヤの小さな赤い脣は、触れればすっと溶けていきそうだ。
それを逃すまいと、真澄は更に熱情こめてマヤに接吻を贈る。
どれほどの時を隔てようと、
どれほどの空白に割かれようと、
ひとたび抱き合えば、一瞬でふたりは互いに満たされる。身も心も。
ふたりの築いた確かな絆はたとえ神の鉄槌によっても、もう二度と分かたれることは無い。
この世で、これほど愛おしいものが他にあろうか。
この世に人として生きて、愛する者を抱き締めるその幸福。
真澄はいま一度力強くマヤをその胸にかき抱くと、くちびるを離した。

「久しぶりだったな。」
「会いたかったの。」
「俺もだよ。」
「会いたかったの。」
「元気そうで良かった。」
「…会いたかったの…。」
真澄を恋うるマヤの慕情は、瞠ったマヤの瞳をしばし潤ませる。
「うん?どうした。」
真澄が微笑む。
マヤにはもはや語らいは出来ない。小首を傾げて、また再び真澄の胸に頬寄せた。
どれほどか、この胸が恋しかったことか。
限りなく暖かく広く、マヤの総てを包み込んでくれる、愛しいひとのがっしりと逞しい、その胸の温もり。
抱き寄せられれば、もう何も、言葉は要らない。
時はこのとき暫し黙して、失われていた時間をふたりに取り戻させるべく、音もなく流れて行った。



英介も加わって、真澄とともにマヤは久々に自宅での食卓を囲んだ。
マヤの土産話も弾み、真澄の熱い視線に晒されて、マヤの笑顔はひとときあでやかに輝いた。
速水家の心尽くしの食後の珈琲は芳香もかぐわしく、マヤの鼻孔を擽った。


食事を終え、ふたりはリビングに戻った。
真澄は飲み物を部屋に運ばせた。
真澄にはプランデーを、マヤには秘蔵のワイン、バーガンディのゾレ・30年。
マヤはそのワインの芳醇な味わいに舌鼓を打ち、あらためて帰宅の喜びの感激に浸った。

並んで腰掛けたソファから、真澄が立ち上がる。

「なあに?」
「モーツァルトだ。マヤが帰ったらふたりで聞こうと思ったんだよ。」

そのMDは真澄がマヤのために選曲して自ら編集した約30分程のモーツァルトの小曲集であった。
超一流の名演のみを厳選して、真澄はレーベル・ロンドン原盤から抜粋していた。
真澄はオーディオセットに歩み寄ってMDをセットし再生させた。そしてソファに戻る。
モーツァルトらしい、清澄な天界の調べもかくやという前奏が静かに流れた。
それは知る人ぞ知る、モーツァルト作品の中でも珠玉の聖歌の一曲。『Laudate Dominum』。
オックスフォード聖歌隊の荘重な合唱がリビングに響いた。
マヤは真澄の肩に凭れて、その貴重な音楽に聴き入った。
ラテン語の歌詞は詩篇第117篇。夕べの祈りのその楽曲。
「綺麗…。」
夢見心地で、マヤが呟いた。
真澄は柔らかくマヤの肩を抱く。
続いて『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』K.525第二楽章、ロマンツェ。
モーツァルトの天才の証明のごとき完璧性を持つ弦楽セレナードであるが、
このロマンツェの天上の甘美さは通俗性の及ばないところである。
その音楽美は、鋭くマヤの感性に迫った。
『ディヴェルティメント ニ長調』K.334第三楽章、メヌエット。
全六楽章中最も有名であり通称“モーツァルトのメヌエット”と称される。

「これ…」
「なんだ?」
「速水さんが選んでくれたの?あたしのために?」
「そうだ。もちろんだとも。家でゆっくりモーツァルトを聴くのもいいだろう?」
「嬉しい…。一番のご褒美だわ…。」
どんな労りの言葉を尽くすよりも、真澄の労いの心遣いはマヤの胸に沁みた。

『クラリネット五重奏曲 イ長調』K.581第三楽章メヌエットとトリオ。
殆どあらゆる全ての室内楽中の白眉とも言える名作であるが、
この中間部の美しさは比類を絶する。
この音楽美に心委ねれば、そこは天の園。
真澄とともに手を携えて赴く、遥かなる時空の彼方。
マヤは真澄に寄り添って、そっと瞼を閉じた。
『ロンド イ短調』K.511。ピアノ、ヴィルヘルム・バックハウス。
晩年のモーツァルトがピアノのために書いたロンド。これこそ神品と言うべき佳作。
『交響曲第41番 ハ長調』K.551“ジュピター”第二楽章、アンダンテ・カンタービレ。
モーツァルト最後の交響曲。かの『40番』ののち僅か2週間で作曲された。
この第二楽章も夢幻と気品に満ちた傑作である。
悠久の昔から流れ続けるドナウ河。幾世紀も変わらぬウィーンの石畳。
さまざまな時代を包括する現代ウィーンの裏町の一隅に、
今もなお、モーツァルトの生きた時代はひっそりと息づいている。
そして真澄が最後の一曲に選んだのは、『Ave Verm Corps』であった。
モーツァルト晩年の有名な名品であり、全宗教曲中の最高峰と評される傑作中の傑作聖歌。
僅か2小節の完全な前奏からすぐに始まる合唱の崇高な霊性。マヤは鳥肌が立った。
器楽も良いが、声楽を始めたマヤには、人間の声での合唱の持つ力は殊更に圧倒的だった。
我知らずマヤは涙を流し、真澄に肩を抱かれて、その澄明な音楽に酔いしれた。
音楽を通じて、ラテン語の歌詞の意味さえ、マヤには理解できるような気がしていた。
“Ave, ave,verm corps.natum de Maria virgine,
Vere passum, immolatum in cruce pro homine;
Cujus latus perforatum unda fluxit et sanguine,
Esto nobis praegustatum in mortis examine,
in mortis examine.”
最後の歌詞がリフレインされ曲が静かに終曲を迎えた時、マヤは真澄の胸に縋って涙した。
そうしたマヤに満足げに真澄は穏やかに微笑み、マヤの長い髪を柔らかく愛撫してやった。
音楽の感動に打ち震え、真澄の胸で啜り泣くマヤに真澄は、
幼な子をあやすように、そっとその細い肩を揺さぶってやり、頬を撫でてやった。
「マヤ…?」
真澄は笑って、マヤの顔を覗き込む。
嗚咽を抑えて、マヤが涙ながらに真澄をふり仰いだ。そのくちびるは小さく震えていた。
マヤが双眸に湛える涙を、美しい、と、真澄は思った。

「あたし…嬉しい…速水さん…。あたし…幸せよ…。」

「約束しただろう?一生かけて、俺はマヤ、きみを幸せにする、と。」

「速水さん…。」

真澄は指先でマヤの頬を伝った涙を拭い、両の掌でマヤの頬を包むと、軽くマヤに接吻した。
酒の酔いも程良く回ってきた。
音楽もまた、ふたりには媚薬。愛の行為の、こころの前戯。

「さて。寝るか。奥さん。」
「あ、待って。」
「なんだ?」
「さっきの最後の曲。なんて言うの?」
マヤの無邪気な問いに真澄は我が意を得たりとばかりに愉しげに答えた。
「気に入ったか?“アヴェヴェルムコルプス”だ。」
「“アヴェヴェルムコルプス”…。」
マヤは感慨も深くその曲名を口にしてみた。
「あたしも歌いたい。速水さん、楽譜、手に入る?」
「ああ。社の音楽担当にすぐに用意させるさ。」
「さあ、マヤ。我が家の風呂でゆっくりしてくるといい。久々だろう。それとも、一緒に入るか?」
真澄のその軽い揶揄を含んだ問いに、マヤはパッと頬を染めた。
「う、ううん、いい。ひとりで。あたし…。じゃ、入ってくるね。」
羞恥に俯いてひらりと身を翻し、マヤは着替えへと私室へ飛び込んだ。
真澄はリビングでひとり笑うと、ブランデーグラスの底に沈む僅かの残りを口に含んだ。

今夜はまだ時間も早い。
いいだろう、俺も待った。十分すぎるほど待った。
今夜は…。
待っていろ、マヤ。
存分に、抱いてやる。


真澄もまた、シャワー室へと消えた。










続く






『Ave Verm Corps』のご紹介webpageはこちら。ラテン語対訳も素敵ですよ。
ちなみに、文語訳は以下です。
「尊しマリヤのみ子イェスのみからだ 世のため身を裂き十字架につきて
流るる血潮に罪をば洗いて 死をもて救いと常世の命を 我らに給いぬ。」


2005/6/16



 

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