涙の理由

written by sugar様











 
 人魚姫は 朝日を浴びながら
 王子様の事を思いながら
 泡になって
 海に帰っていった。

 その瞳に
涙を溢れさせながら・・・・


 「王子様の事を思いながら・・か」

 どんな事を思っていたんだろう。

 「アナタにめぐりあえただけで幸せでした・・
 私は消えてしまうけれど
 どうか
 お幸せに・・」

 「声を引き換えに
 命をかけたのに・・
 辛い・・悲しい・・苦しい・・」


 「・・(−−)う〜ん・・どっちもアリかも」

 難しいなあ・・。

 だって私、まだ本当の恋を知らない。


 クラスメイト達は
 彼氏が居る子も多いし
 
 「頑張ってゲットする!」
 って、燃えてる子もいる。

 私・・?

 ソレ所じゃないって感じかな・・?

 お芝居が楽しくて 楽しくて
 夢中なんだもん。





 「人魚姫の涙の理由・・理由・・」

 「ちびちゃん、どこに行くんだ?」

 出たぁ!あの声は・・・・なんでココに!?

 「こ・・こんにちは!ご無沙汰しています!!速水社長!」

 反射的に声がでた。

 確か・・反射って習ったよね?

 そうそう、条件反射!!

 え〜と・・・・パブロンの犬?だっけ??


 「学校帰りかい?」

 「はい、速水社長は・・?」

 「ポッカリと時間があいてね。気分転換をしようと・・ちびちゃん、
  何だかブツブツ言っていたようだが・・?」

「・・・あ・・」



 『お茶とケーキ』という言葉に誘惑されて
 すぐ近くのホテルの喫茶ルームに連れて行かれた。



「何か悩み事があるようだな。」

ギクッ! さすが、鋭い。

・ ・・・速水さんなら恋の経験が多そう・・。

 でも、男の人だから
 考えが違うかも知れない・・。

 でも、芸能会社の社長さんだし
 色々知ってそうだし・・

 うん!

「実は・・・・」
 覚悟を決めて私は話しをする事にした。





「人魚の涙の理由・・か」

速水さんが
タバコを手に
呟く。

真剣な表情

笑い飛ばされるかと思って居たけど・・

意外


「ちびちゃん、『人魚の涙』を知っているか?」

―――――― 『人魚の涙』・・? ――――――

無言で首を横に振る。

「じゃあ、見に行こう」

「え・・?」

見れる・・?

戸惑う私に優しい微笑を向けながら
速水さんが席を立つ。

私も続いて追っかけた。


ホテルの中にあるショッピング・アーケード

おみやげ物から
夜会服
高級な物が並んでいる。

「わぁ・・凄いですね」
「そうかい?」
「何だか、別世界ですよ〜?ホテルでお茶も初めて、お店を見るのも初めてです」
思わずきょろきょろしてしまう。

速水さん、笑っているけど
仕方ないじゃない。
速水さんみたいに
「普段通り」じゃないんだもん。

「ちびちゃん、こっちだ」

「・・・・え・・」
ココだと言われた店を見て驚いた。

宝石店・・!!(白眼)

「は・・速水さん!こ・・ここ宝石店じゃ・・」

「・・?・・そうだが?」

「な・・『何を言ってるんだ?当たり前じゃないか』って表情で見ないで下さい!!」
 思わず叫んでしまう。

「『人魚の涙』を見たいんだろう?」

ちょっと意地悪く笑みを浮かべているのが解る。

「ぐっ・・」相変わらず、イジワルなんだから・・!

そ・・そうよね。見るだけなんだ!速水さんが居るから良い機会よね?
私だけじゃ、こんなお店入れないもん。

こういうときは・・そう!

―――― 「速水さんって使える男」よね? ――――

良かった〜。
使い方の意味が今ひとつ解んなかったから・・。

「・・・・」
(相変わらず、コロコロと表情が変わって飽きない子だ・・)

速水さんがクスクス笑っている。笑いがこみ上げて仕方ないって感じで・・。

「何が可笑しいんですか?」

「いや、何も。どうぞ、お姫様」
そう言いながら
そっと手を差し出してくれる。

速水さんって王子様みたい・・

ハッ!!私ったら何を!?

でも、そうよね?
そんな動作も全然キザじゃない

背が高くて
ハンサムで
カッコいい

そんな事を思いながら
差し出された手をとりながら
お店に入った。

「いらっしゃいませ」
お店の人が笑顔で挨拶してくれる

私はギクシャクしちゃって
何も言えないのに

速水さんは
堂々としていて

幻想的な光りを放つ照明や
その下で
キラキラしている宝石の中で

立っていても
凄く絵になる。

「カッコいい・・」

「え・・何がかっこいいんだ?」

ギョッ!!
私、声に出してたみたい!
危ない
危ない・・。

「うっ・・いえ、別に・・!」

「普通は『綺麗だ』とか『素敵だ』とか言うもんじゃないのか?
宝石店に来て『カッコいい』なんて言うのは、フッ・・君くらいだろうな」

ピキッ!

ムカツク〜!!相変わらず嫌味虫なんだからっ!

「良いじゃないですか!最近はカッコいいのもあるんですから!」

・ ・うっ・・・・・あるのかな・・?(冷や汗)

「クックッ・・そうか、君たちの年代ではあるのかも知れないな」

そう言いながら、
噴出しているのがマルバレなんですけど!!

「こんにちは」
店員さんが素敵な笑顔で
挨拶してくれる

店員さんの見る眼が凄く優しい

速水さんと
私のやり取りを
優しく
見守ってくれているような・・

気のせい?

「彼女に『人魚の涙』を見せてやってほしいんだ」
速水さんが、店員さんに伝えると

笑顔で
ある宝石を出してくれた。

「ちびちゃん、見たまえ」
速水さんに呼ばれて
ガラスケースのそばに
速水さんの横に
足を進めた。


「これが人魚の涙だ」
見せられたその先には
大粒の真珠が・・

何ともいえない光沢
優しい光りを
その珠から滲み出している

「これが人魚の涙・・・・」

「天然の真珠は貝の中に異物が入り、その周りに真珠層が巻かれることで完成するんだ。普通は苦しくて吐き出してしまう事が多い。つまり、偶然に出来たものということだ」

「偶然に・・」

「はい。だから、天然物はかなりの希少価値となります」店員が続いた。

形がいびつである事が当たり前で
ほぼ球形な物となると、さらに奇跡に近いものらしい。

「美しい球形の・・よく見られている真珠は養殖が多いですね。
天然物はいびつであるため
『バロック・パール』と言う名前で知られています」

バロック・パールを見せてくれた

色々な形をしていて
小粒だ。

それをいくつもつないで
そのいびつさを楽しめるように
ネックレスなど
作られているそうだ。

「養殖の真珠・・・・」

養殖の真珠も美しい球形に出来上がるのは
100個に1個の割合らしいと聞き、更に驚いた。

「日本人が世界で初めて養殖真珠を作り出したのは知っているよな?」

ギクッ・・!

「・・・・人工的に核を入れて、貝に抱かせる。そうするとあとは貝が真珠層を巻いていく・・まあ、天然物と同じだな」

(ちびちゃん、やっぱり解っていなかったか・・まあ良いだろう・・)

「それも・・難しいんですね?」

「はい。貝が途中で死んでしまったりするのです。異物を入れられたショック・自然環境・・赤潮、水温の上昇や低下・・色々な原因があります。
今、お見せした物は5年もので最高品質の物です。」

「5年!5年もかかるんですか!」

何気なく身に付けられている物が、5年もかかって作られた物だったなんて・・

「他の宝石は、地球誕生までさかのぼることが殆どだぞ?」

「ち・・地球・・・・」(白目)

こんなに綺麗なものが海からの贈り物なんて・・

初めて真珠を見つけた人は驚いただろうなあ・・・・


「つけてみるか?」

突然
かけられた速水さんの声で
我に返った。

「え!?」

「どうぞ」
店員さんがネックレスを手に持ち
微笑んでいる

「そ・・そんな・・と、とんでもない!!私なんかが・・そ・・そんな高価な物を!!」

うろたえる私を
おかしそうに見つめながら
速水さんは言う。

「付けたからって、買わなくてはいけないことは無いんだぞ?」

笑いながら店員さんの方に視線を移動させていく。


私は
何だか恥ずかしくて
ギュッと目をつぶり
首を振っていた。

顔が熱くなって
緊張していると

首元に
優しく
触れるものがあった。

そっと眼を開くと

襟元に
優しい光沢をたたえる
大粒の真珠のネックレスが・・・・

「ほら、じっとして・・」

速水さんが優しく微笑みながら
ゆっくりと
ネックレスを
留めてくれる


速水さんの大きな手
綺麗・・
男らしくて
ガッシリした感じなのに
滑らかに
繊細に動く指

かすかに触れられて
何だか
ドキドキするような・・
触れられると
安心するような
そう・・
こんな手に
守られていたい・・

「まあ、お似合いですよ・・肌の美しさが際立っていますね」
店員さんの声で
我に返る。

ハッ!

速水さんの手に見惚れるなんて・・
私ったら
どうかしてる!!

・ ・・・え?

速水さん?
ど・・どうして
そ・・そんな眼で私を見ているの?

何だか・・
何だか・・

やだ!恥ずかしいよ
顔が赤くなっているのが解る。
熱いよ
ドキドキしてきちゃった!!



(マヤ・・
少女だと思っていたのに・・
真珠の優しい輝きが
君のその純粋さ
清純さを際立たせている・・

その中に
少女から大人の女性へ
成長し始めた
片鱗が見え隠れしている・・

ちびちゃん
そんなに見つめないでくれ
そんな風に見つめられると
俺は・・・・)



速水さん・・
何だか困ってるみたい・・
そうだよね・・
やっぱり私
こんな大人っぽいもの
似合わないもの・・

 速水さんの周りの女性は
高級な宝石とか
きっと似合うんだろうな・・
そう
亜弓さんなら
きっと似合うわ


 「お似合いですよ」
笑顔で言ってくれた店員さんに
 何度もお礼を言い
真珠のネックレスを返し
速水さんと
店を後にした。


「少しは参考になったか?」
速水さんが問いかける。

「はい・・。」

「・・・・参考にならなかったようだな・・」

返す言葉が無い・・

何だか胸が寂しい
なんだろう
この感じは

私ってば・・せっかく速水さんが協力してくれたのに
お礼も言わないなんて・・

でも・・
でも・・

何だか苦しい
切ないような・・

やりきれない様な・・

お芝居しかとりえが無いのに
こんなに悩んでしまうなんて・・・・


「ちびちゃん・・」


速水さんが驚いている
でも
でも
涙がどんどん溢れてきて
止められないよ


私、どうしちゃったんだろう?


人魚姫はとてもきれいな声をしていた
その声と引き換えに
足を手に入れて
地上へ

自分の大切な物と引き換え・・

私だと
『お芝居が好き』ということ

これと引き換えに
王子様のもとに行ったら・・・・

そばに居るのに
自分の想いは伝わらない
それでも良かった・・

王子様が
他の女性に恋をするまでは・・

人間のお姫様は
とても魅力的で

王子様の横に居ても
とてもお似合いで

そして

二人とも
愛しあっている・・

そんなところに
自分が入り込む隙間も無い・・。


速水さんと王子様が
私と人魚姫が

いつの間にか

重なっていた。


私、速水さんが好きなの?
ううん、
あんな奴
好きであるはずが無いわ。

ただ、
人魚姫の涙の理由を考えていて
王子様って
こんな感じかなと思ったから

そう

それだけ・・。



涙の理由



戸惑う速水さんを見て

王子様も
涙を流しながら
朝日の中
泡になり
海に帰った人魚姫の
姿を見ていたら

こうだったのかな?

人魚姫の気持ちを
想いを知ったのかしら?

愛する幸せ
愛される幸せ

どちらも感じてくれているのかな・・


私、愛されなかったと思っていたけど

人魚姫は
王子様に
愛されていたんだね。

愛の形はいろいろ

そう

王子様は
妹の様に
愛していたんだね。


仕事の鬼
冷血漢
やり手の若社長

速水さんにとって
私は
きっと
妹のような感じ?

麗が言ってた
速水さんの
言葉の端々に
優しさを感じる・・と。

よく解らない
でも

もしかして
いい人?

泣くじゃくる私を見て
戸惑っている速水さんって
本当に
意外・・

知らん顔して
行っちゃうと思っていたのに

やっぱり
恋心って
よく解らない。

だから

今の私の解釈で
妹のように
愛されてしまった人魚姫を

演じることにする

いつか
本当の恋を知ったとき

もっと
人魚姫の
涙の理由が理解できたら

その時には

演技も変わると思う。


今の私の
涙の理由も

もっと
もっと
理解できるはず

人生に無駄なものは一つもなく

イジワルで
嫌味な仕事虫に

出会った意味も

相談した意味も








終わり











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