真澄さんへ
 

                    〜マヤを恋焦がれる真澄さんに捧げます〜
 

                  白 壁                      島崎藤村

                           たれかしるらん花ちかき
                           高楼(たかぞの)われはのぼりゆき
                           みだれて熱きくるしみを
                           うつしいでけり白壁に

                           唾にしるせし文字なれば
                           ひとしれずこそ乾きけれ
                           あゝあゝ白き白壁に
                           わがうれひありなみだあり

  
                   〜晴れて想い遂げた日の真澄さんに捧げます〜
 

                 彼の隅窓
  
                          彼は想いの楼上高く張り出し窓にすわり
                          おのれに並ぶ者を知らぬ
                          これほどの高みを望みはしなかった
                          しかも達したのだ

                                彼は虚偽を信じない(たとえ自らを救うためでさえも)
                                高みに達した時から
                                もはや彼の心の扉には鍵は無い
          
                          窓はつぎつぎに舞台の光景を彼に示す
                          そしてそれらの光景を額縁にはめる
                          彼はその前にすわり 穏やかにほほえむ
                          そして傷心することを好まぬ

                                彼はほほえむ 二人が幸福だから
                                ただ時として 彼は囁く
                                「ああ この時の流れがどこか大海に注がぬものか」

                          水平線の彼方に燃える
                          おそい朝焼けに 彼は惹かれる
                          生と死とに 彼は惹かれる
                                そしてその二つのわかつものに

                                           原作 ケストナー『従兄の隅窓』小松太郎訳「人生処方詩集」より戯作
                                           武宮恵子・増山法恵著『変奏曲』参照
 

                風                     谷川俊太郎

                              風が吹き
                              あのきびしく大きな風が吹き
                              いつか 幼い雲たちは逃げてしまった
                              ただ苦しいだけの追憶を残して
                                   白い炎暑
                                   静かな弦楽
                                   底のない成層圏……
                                困難な風土のなかで僕は知り始めている
                                もう小さな神話の時代を懐かしむのはよそう
                                今は。
                                僕はひとりであるということだけが正しい
                              風が吹き
                              あのきびしく大きな風が吹き
                              僕は一つの海をめざしている
 
 

               ヘッセ書簡集より

                               幸福をおいかけているあいだ、おまえは幸福であり得るだけに、
                               成熟してはいない。
                               たとえ最愛のものが みな
                               おまえのものになったとしても。
 

                リルケ ドゥイノーの悲歌より
                                
                                愛しながら
                                愛するものから身を解き放ち
                                戦きながら
                                そのことに堪えぬくときが来ているのではないか
                                  ちょうど
                                  張りつめた弦(いと)に堪えぬいた矢が
                                  集中した力をもって飛び立つとき
                                  自分「以上のもの」になっているように。
            
                   リルケ 後期詩集より

 
                               自分に打ち克つことなど 究極のことではない
                                 どんな苦しいこと 腹の立つことにも
                                 最後には私たちを包んでくれる
                                 あの穏やかなもの
                                 優しいものを感じとるような
                                 そういう中心から
                                 静かに愛することこそ
                                 究極のことなのだ
                   

                 リルケ 第一詩集より

                                 これが私の戦いだ
                                 憧憬(あこがれ)に身を清め
                                 日々をつらぬき進むことが。
                                 それから深くしっかり幾千の根をはって
                                 生に深く喰い入ることが。
                                 そして苦しみを通して成熟し
                                 はるかに「生」から立ち出ることが。
                                 はるかに「時間」から立ち出ることが。
 

                    紫のバラの人のメッセージカード リルケ 『若き詩人への手紙』より

                                  あなたは憶えておいででしょうか。子供時代をぬけ出して
                                  どんなに「大人」になりたかったかを。
                                  私にはわかるのですが、
                                  今、あなたの生は、その大人から、
                                  さらにもっと大きなものに憧れているのです。
                                  だからこそ、
                                  あなたの生は困難であることをやめないのです。
                                  しかしまた、だからこそ、
                                  成長することもやめないのです。

                 リルケ 「愛」より                                         片山敏彦訳
                                  愛は、どんな風にして君にきたか?
                                  それは照る日のように、花ふぶきのようにきたか?
                                  それとも一つの祈りのようにきたか?
                                  ―――話したまえ。
                                     「一つの幸いが、輝きながら空から解(ほど)け落ちて
                                      翼をたたんで、
                                      わたしの花咲く魂に大きく懸かったのです!」

                     「赤い小さな口もと」   ハイネ                              番匠谷英一 訳
                                 
                                  赤い小さな口もと
                                  あまいすずしい目の乙女よ
                                  わたしのかわいい小さな乙女よ
                                  わたしはいつもおもえを忘れない
                                  この長い冬の夜を
                                  わたしはおまえのそばにいたい
                                  あのしんみりした小部屋の
                                  おまえのそばにすわって話したい
                                  おまえの小さな白い手を
                                  このくちびるにおしあて
                                  泪でぬらそう
                                  おまえの小さな白い手を

                  新約聖書『コリント人への第一の手紙』第13章“愛の讃歌”より

                                  愛は寛容であり、愛は情け深い。また、妬むことをしない。
                                  愛は高ぶらない、誇らない、不作法をしない、
                                  自分の利益を求めない、いらだたない、
                                  恨みをいだかない。
                                  不義を喜ばないで、真理を喜ぶ。
                                  そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、
                                  すべてを耐える。愛はいつまでも絶えることがない。
 
 

                     少 女 に                          寺 山 修 司

                                  だれでもその歌をうたえる
                                  それは五月のうた
                                  ぼくも知らない  ぼくたちの
                                  新しい光の季節のうた


                                  郵便夫は愛について語らない
                                  花ばなをよみ
                                  ぼくの青春は  気まぐれな
                                  雲の時を追いかけていたものだ


                                  ああ  ぼくの内を一つの世界が駆け去ってゆき
                                  見えないすべてのなかから
                                  ぼくの選択できた唯一のもの 少女よ


                                  ぼくはかぎりなく
                                  おまえをつきはなす
                                  かぎりなくおまえを抱きしめるために


                 万葉集    作者不詳
 

                                  ぬばたまの 汝が黒髪 今夜(こよい)もか
                                      わが無き床に 靡(なび)けて 寝(ぬ)らむ

                                  〜〜顔を傾げるたび左右に揺れたあの美しい髪をとこに散らせて、
                                     あの女(ひと)は今夜もひとりで寝ているのかな〜〜

                   高円侍
                                  わすれじの 行く末までは 難(かた)ければ
                                      今日を限りの 命ともがな


                                  〜〜ゆくすえまでを誓うことは叶わずとも、せめて今、きょうこの日は熱い想いを……。〜〜




                                           




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