南国にて

「チュニジアの夜」

銀の星 煌めく
遙かな空 燃える
恋人を見つめる
チュニジアの夜

 瞬く星屑
 あなたの髪 照らす
 身を焦がす ひと時
 チュニジアの夜

くちびるを 重ねて
あなたの肩 触れる
悩ましく 過ぎゆく
チュニジアの夜




あなたの瞳 溶けるような
身を灼く愛 忍び寄る時

  燃えている愛の火
  暗闇に迫る
  狂おしく危険な
  チュニジアの夜

あなたのすべて 奪うような 
激しい愛 燃え上がる時

  待ち切れぬ口づけ
  甘く胸に残る
  狂おしく求める
  チュニジアの夜



星屑の誘惑
熱く燃える愛よ
狂うほど妖しい
チュニジアの夜…… 

〜“A Night In Tunisia”〜


Music by John”Dizzy”Gillespie and Frank Paparelli(1944年)

Song by Yuu Todoroki
in 1995(c)TCA





 「海にいくか。」
 「え? これから?」
 「夕食にはまだ時間はたっぷりだ。少し歩いてこよう。」


 名もないオセアニアの小島。
コテージに着いて現地人ガイドが一旦帰ると、真澄は荷ほどきもそこそこにマヤを誘った。旅の疲れも、今は忘れた。

  婚約を公にしてからというもの、やれ取材だ、ワイドショーだ、と、俄に二人の身辺は喧噪もひとしきり騒がしくなり、
真澄もマヤも、否も応もなくうんざりするストレスに晒されていた。
マヤの福岡公演千秋楽を待って、真澄のスケジュールを調整し、二人は短いながらリフレッシュの休暇を確保した。
とにかく日本を脱出。
人に知られていない、さほど観光地化していないこのオセアニアの島を、真澄は選んだ。
直行便空路から車、ボートの海路を経て孤島に上がり、少し車で走って、簡素なコテージタイプの宿が宿泊先になる。

  コテージ玄関の階段から外を見渡すと、先刻までの目の覚めるような青空から少し曇ってきてはいるが、遠くに椰子の木が散在し、草原を遠く遙かに、砂浜と水平線が霞んで見える。
東京の日常からは全く逸脱した、他の人間の介在しない、天然の自然が、二人の目の前に広々と開けていた。
南国の空気は、香しく甘く暖かく、胸一杯に吸いこむと、別人に生まれ変わるような気が、真澄にはする。

  真澄はマヤの手を取って木造の急な階段を降り、海岸まで広がる低い下草一面の草原へ、足を向けた。
何しろ、この二人以外に、全く人間は居ない。
心が晴れ晴れと、この自然に向かって、解放される。
正解だったな、と真澄は思う。
日常の雑多に忙殺されて、見失いかけていた自分自身を、この天然の自然は思い起こさせてくれる。
忙しい、とは、心を亡くす、と、書く。
しがらみに捕らわれて生きざるを得ない日常から、たとえ一時でもこうして別天地へ歩み入れば、
確実に、心の垢は洗い落とされ、清々しく本来の自分に戻れる思いだ。
二人とも南国の旅の軽装で、海へと足を向けた。


  暖かい向かい風が、海の香りを運ぶ。
草原を走る風は、柔らかい下草をあちこちへ薙ぎ倒す。
空はどこまでも高く、風に乗って遠くから波音がさざめいて響き伝わってくる。
マヤの腰を抱いて、真澄は歩を進めたが、
 「くっついてると暑いわよ、速水さん。」
笑ってマヤは真澄の手をふりほどき、一目散に草原を駆け出した。
 「おい、こらっ、待てっ、転ぶぞっ!」
 「平気よっ、あははは…。」
笑いながらマヤが駈けていく。
真澄はやれやれと見やりながらマヤの後に歩を進めたが、やがてすぐ言わずもがな、マヤが転んだ。
真澄は駆け寄った。
 「ほら、だから言わんこっちゃない。怪我はないか。」
女優の体には傷があってはならない。
 「平気、平気。」
声を立てて笑って、マヤは子どものように草原をゴロゴロと転がった。
 「こら、やめないか。」
真澄は身を屈めてマヤに覆い被さった。
自分の体で、転がって遊ぶマヤを押しとどめる。くすくすと、真澄の下でマヤが笑う。
 「いや、暑い。速水さん、どいて。」
真澄はマヤの横に身を横たえた。
草いきれが、むせかえるようだ。
自然の、かぐわしい匂い。
雲の多い空が、遙かに高い。
いい気分だ。傍らで、マヤが思い切り身体を伸ばす。

 「ああ、いい気持ち…、ね?」
 「そうだな。」

空に、体ごと吸いこまれるようだ。
虚空高い澄み切った南国の空を見あげて、真澄もマヤも、この開かれた天地で心ゆくまで、開放感を満喫した。

風が、マヤの長い髪をなぶって、真澄の顔にかかる。
真澄は頬杖をついて、もう片方の手でマヤの髪を梳き整える。
陽は雲に翳ったが、空は眩しい。
白浜からそよいでくる風。
草原から続く渚は遠浅の真っ青な海に、どこまでも続いていく。白い鳥が空を横切る。

“人間よ、自然に帰れ。”
そんな名言が、思うともなく真澄には思い起こされる。
自分もまた、この生けるものの世界、森羅万象のほんの一部。
目を閉じれば、どこか深いところから、ゆっくりと忘れかけていた何かが、目覚めてくる。

  真澄は傍らに悠々と寝そべるマヤの躰に手を伸ばした。
南国の風の熱を帯びて、マヤの頬は、仄かに熱い。
上体をマヤに重ねて、真澄はマヤに口づけた。
二人だけの、この天地、自由の草原で。
奔放な気分が一気に高揚する。

 「…ん……」

マヤは始めは真澄の唇から逃れようとしたが、両腕を押さえつけられて、あっさり抵抗を止めた。
真澄の大胆な口づけに、マヤもまた、誘われる。
真澄は深く口づけながら、マヤのコットンシャツをめくり上げ、後ろ手でブラジャーのホックを外した。
マヤの晒された素肌を、風と草も、愛撫する。
真澄の緩急に富んだ唇と舌が、マヤの性感を誘う。
乳房の尖端が、敏感に固く窄まってくる。ブラジャーが邪魔だ。真澄はそれも捲り上げる。
大きな空の下、マヤの豊かな乳房が露出する。
熱した口づけを交わしながら、真澄は乳房に手を伸ばした。大きく、鷲掴みにする。
真澄は掌で、マヤの乳房をひとしきり愛撫する。感じやすい乳首を、指先で弄んだ。
真澄の愛撫に、マヤの感覚も鋭敏になり、喘いで身を捩る。

  天然の草原の褥(しとね)。
真澄の欲情に誘われるまま、マヤも性感を高めていった。熟練した愛撫に反応してマヤの下腹部が疼き、
熱を持ってくる。
  真澄はマヤのスカートをめくり下着に手をかけ、素早く引き下げて脱がせた。
そして、愛撫を待つマヤの秘やかな色情の部分に、指を這わす。
真澄はマヤの乳首を巧みに舐り、感覚が連動する女の秘所へ同時に指で愛撫を施す。
マヤがひとしきり腰を揺らして嬌声をあげる。
感じる箇所を的確に攻めたてられて、マヤの気分も淫奔に乱れる。
いつかしらしっかりと覚えさせられた、真澄の愛戯の術。
何度愛されても、充実に向かうマヤの若い肉体は、飽くということを知らない。
前戯もそこそこに、この自然界に目覚めた野性が導くまま、真澄はことを急いだ。

軽装のズボンから充分漲り切った己れを自由にし、マヤの腰を抱えて、一気に深くマヤを貫いた。
マヤが思い切りのけ反り、甲高く叫ぶ。

ふと、俄に空が暗くなった。
涼しい風が、さあっと吹き抜ける。
じき、生暖かい雨滴が一滴、また一滴と、落ちてくる。南国特有の、急なスコールだ。

一帯に急激な雨が降り始めた。
草が緑の匂いに香り立ち、人間の鼻孔をくすぐる。
草原一帯の視界が、雨にぼやける。
雨滴が、二人に激しく降り注ぐ。
構うものか。
豪雨もまた、自然の営み。

真澄はマヤを組み敷いて雨滴からマヤを庇いながら、烈しく腰を動かして、マヤを翻弄した。

 「あっあぁ…そんなにしたら…あたし…」
 「ねえ、…ダメよ……お願い…あっぁ…」
マヤの懇願も、真澄には甘い誘惑だ。
行為に滲む汗も、雨が洗い流す。
ずぶ濡れになりながら、真澄は不思議ないっそうの官能の高まりに、思うさま身を躍らせた。
真澄は半身を起こしてマヤの片脚を高く掲げ、自分の肩に乗せる。
生暖かい雨粒が肌を打つ刺激。
そのリズムに合わせるように、真澄はマヤを大きく揺り動かす。
真澄が素早く腰の突き上げるごとに、マヤの剥き出しの乳房がゆらゆらと弾む。
雨粒が、マヤの素肌にはじけ飛ぶ。
それも、まるで、空からの愛撫を受けているような、肌への不思議な刺戟。
真澄はマヤの内部の最も感じやすい箇所を、大きく己れを抜き差しして、強く摩擦した。
マヤが激しく喘いで嬌声をあげる。
 「ああっ、そこっ……」
 「感じるか…?」
 「…いいの、…いい…」
マヤもまた夢中になって、陶然と訴える。
雨音は一面の広野に海に、遠く響き渡る。
真澄はマヤの上体を抱き起こし、脚を交差させ、後ろ手に手をついて向かい合わせに座る格好をとらせた。
紅潮するマヤの顔が、よく見える。そしてこの姿勢も、マヤの感じる部分を充分刺戟する格好だ。
巧みに腰を揺らして真澄は、マヤの内壁を擦りあげる。
眉根を寄せ、快楽に深く籠絡されるマヤの官能的な女の表情が、真澄には悦びである。
降り止まぬ南国の雨に打たれて、すでに二人とも衣服はずぶ濡れだ。
それすら意に介さぬほど、二人は互いの躰に没頭していた。

  真澄はマヤの腕を取り仰向けになった。
マヤを自分の上に跨らせて、マヤの腰に手を添える。
真澄が腰を突き上げるたび、マヤの長い髪から、雨しぶきが滴った。
それが、真澄の顔にかかる。
マヤを下から勢いよく突き上げながら、真澄は乳房を掌で揉みしだいた。
両の親指で、興奮した乳首を撫でさすってやる。
甘い呻きをマヤが漏らす。
真澄はマヤの腰に添えた手で、マヤ自らが動くように導いた。
マヤは下草に両手を付いて、膝を立て、真澄を絞り上げながら連続して上下に動いた。
熱中がマヤを、より積極的にしていた。
蕩けるような瞳で、マヤは真澄を見おろす。
 「ああ、それでいい…続けてくれ…」

長い髪から滴る雨。
マヤの額に頬に、髪が濡れて乱れる。
熱く真澄を包み込むマヤの内部の感触が次第に狭まり、マヤの呼吸が荒く激しい。
マヤにしても、自由に感じるように動けるのだ。
マヤの官能は一気に高まり、じきに最初の短い痙攣が、マヤを襲った。
 「ああっ、だめっ、……」
真澄は今度は自分が動いて、マヤを絶頂に誘ってやる。
 「あっ、あぁぁぁぁ………」

マヤの女が真澄を包み込んで、呑み込むように大きく収縮した。

がっくりと、マヤは真澄の胸に頽(くずお)れる。
マヤの絶頂を受けて、真澄もまたマヤの内部で、大きく屹立し硬度を増していた。
絶頂感のあとの内部のその真澄の感触は、マヤにはたまらない。

 滝のような雨足は幾分和らいだが、周囲の視界をぼやかす雨は、まだひとしきり止む気配はない。
 真澄は荒い息遣いのマヤを抱きとめて、結ばれたまま、今度はマヤを下に組み敷いた。
しとどに濡れた髪がマヤの顔に貼りつくのを、指で払いのけてやる。
絶頂の後の官能に戦くマヤは、真澄には愛らしく、愛おしい。
感情が高まると、連れて真澄の欲情も昂ぶる。
くちびるを重ねて、マヤを屠り尽くしてしまいたい、そんな強い衝動に、真澄は憑かれる。
貪婪に、真澄はマヤの唇を貪った。
絶頂感の後にはどんな刺戟も、マヤにはひたすらの快楽。
呻いて、真澄の飽くなき深い口づけに反応する。
この唇に受ける感触がまた、マヤの内奥に熱い震えを誘い出していく。


  しのつく雨に薙ぎ倒された草原。天然の褥は、情交に没頭する二人を柔らかく大地に受けとめる。
スコールが和らぎ、またしばし勢いを増す。
この天地自然が、二人を無垢の性の境に導き出す。
心身とも、二人はすみずみまで解放されていた。そして、互いを性で堪能する。

  真澄は膝を立て、マヤの両腿を抱え上げる。そして、勢いも激しく腰を揺らし、マヤを奥深く刺し貫く。
真澄の尖端の括れが、マヤの入り口のきつい締まりに、熱く擦れる。
真澄も、憚らぬ快楽の呻きをあげる。
 「…マヤ…締まる…」
 「速水さん、感じて…あたしで、感じて……!」
 「マヤ……」

いよいよ、二人の快感は限界に高まり、ともに最も待ち受ける恍惚のひとときを熱望していた。
真澄はマヤの片脚を交差させ、マヤを横向かせた。
これが、マヤにも真澄を巨きく感じる姿勢だ。
 「速水さん…好き…」
 「マヤ…」
感極まった睦言は、甘く真澄の胸に響く。
互いに呼び合い、高め合い、狂わんばかりの快楽に、手を携えて、溺れてゆく、二人。

 「ああ、もう、いく…あたし…速水さん、早く…」
 「お願い…頂戴……あぁっ!」
 「マヤ…一緒に…」
 「速水さん…あぁぁっ…」

真澄はマヤの緊迫する収縮に合わせて思い切り深くマヤを貫き、奥深い糜爛に向けて、最も強い欲望を一気に解き放った。



  互いに激しく息を弾ませて、降りしきる生暖かい雨の中、二人は目眩く快楽を共にした。
深い、満足が、二人の間にもの倦く漂う。
しばし、しっかりと、真澄はマヤを抱き締めた。そして、整わぬ呼吸のまま、マヤの横に、身を横たえた。
雨は二人の行為に合わせるように雨足を弱めていた。
滲む汗も、しのつく雨が、洗い流す。
雨滴が、熱した二人の身体に、心地よかった。天然の、シャワーである。

真澄はまだ剥き出しのマヤの乳房に手を伸ばした。
ゆっくりと、愛撫する。マヤが身をくねらせて、余韻に浸る。溜め息が、熱い。

 このまま、この大地と同じものになってしまえたら、とふと真澄は思う。
心地よさが、気怠い眠気を誘う。瞼を閉じれば、すうっと眠りに落ちそうだ。
全身、隅々まで感覚が解放された、この絶品の心地よさ。
海に続く空の下。けぶる青草。性を営めば、自分自身も、この自然の一部であると思える気が、真澄にはする。
マヤもまた、同じ共感を感じているようだ。
人間も、奥深いところで、この大地、この自然と結びついていよう。
真からの全身の開放感に、しばらく二人はそうして身を横たえていた。



  雨が上がった。
暖かい風が、また自由自在に草原を渡ってゆく。
二人は徐に起き直って着衣を直した。

 「海は、夜に出直そう。」

真澄は濡れて水滴る髪をかき上げながらマヤに言う。

 「お部屋に帰って、まず服の洗濯だわ。」

マヤが笑う。



南の国の海の果て。
二人だけが満喫する、広大な自然と世界が、二人に束の間の休息を、確かに約束していた―――






終わり






2001/2/26
ある読者さまのシチュエーションリクエストによります短編です。
リクエスト内容は「真澄さんとマヤが野外で思いっ切りムフフ、それも雨の中で」でした(笑)ギョギョ(^^;ゞ
リクエスト下さったかた、いかがでしたでしょう(笑)。このあと、彼らは現地料理の夕食を済ませて、夜の渚でも、散策するんではないでしょうか(笑)
ちなみに「人間よ、自然に帰れ」とは、ご存知ジャン・ジャック・ルソーの格言です。J・J・ルソーといえば、池田理代子の漫画『ベルサイユのばら』で後半、
オスカル・フランソワが『新エロイーズ』を読んで涙した、18世紀の啓蒙思想家です。





 

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