85000番ゲットあかね様リクエスト:あのですね〜、欲張って「甘ヤバ」でお願いしたいな。
   ムフフは欠かせないです。やっぱし。それから、場所は、スリルがあるところ。
   例えばShacho室とか、楽屋で紅天女の打掛を着たマヤちゃんと、とか・・・あーやっぱり怪しい・・・私。
   それと、ユーリさまの大ファンの私としてはお話の中にユーリさまを出演させて欲しいのです。
   (例えば女性管理職とか、女医さんとか、学者さんとか)かっこいい役なら何でもOKです。だめかしら〜?
   お話の具体的内容はユーリさまにお任せしたいのですがーどうでしょうか?
 ※ということで、以上の条件を満たした、短編で参りたいと思います(笑)。あかねさんの妄想に忠実にですね(笑)




大都劇場、『紅天女』初演。

試演直前、真澄との想いを遂げ、試演を勝ち取って、月影千草から上演権を譲り渡されたマヤにとって、
長年の宿願だった、3カ月の本公演だった。

「いつか、紅天女を演りたい」
それが、マヤのこれまでの演劇生活のすべてを支えてきた。そして、苦しみ抜いた、真澄への想い。
試演直前、真澄の手で、マヤは「阿古夜」に導かれた。真澄も、それを機会に、婚約を解消した。こちらは難題を多く抱えていたが、
マヤが大都で『紅天女』を上演する、まずはその条件が満たされたことで、速水英介もひとまず上演を見届けることには納得した。
英介にしたところで、『紅天女』を大都で上演する、それは、千草亡き今となっては、英介の生涯に残された、唯一の心の拠り所であるといってもいい。
月影千草の死は、マヤ及び周囲の役者達には極秘にされていた。本人の遺言である。
まずは、『紅天女』を、演劇界に再び甦らすこと。
そのために、試演の後、黒沼組をメインに、小野寺組からも選出されたキャストは、マヤを筆頭に、1カ月の新たな血の滲むような稽古を繰り返した。
殊にマヤには、戯曲場面の稽古の他に、日に4時間、オフの日には日に12時間の、日舞の稽古が一流の指導陣によって徹底的に課された。
マヤが独自にインド舞踊を参考に身につけた「天女の動き」の他、日舞の技術や所作事は、和物演劇にとって、必須である。
和物の着物衣装の着こなし、裾さばきから、動きにつれた袖の動かしかたまで、すべて日舞の基礎が、ものをいう。
マヤにとっては、今では何の苦もなく集中し、身につけることができる、それは充実した稽古だった。
一方、亜弓は、目の手術が無事成功し、失明の危機を間一髪、逃れた。そして、ハミルに伴われて、静養を兼ねて、フランス、ニースに発っていった。



 やがて迎えた『紅天女』初日。
大都劇場ロビーは、かつてない興奮に湧いていた。30数年ぶりの、幻の名作、再演。おりしも、文化庁芸術祭、開催中。
この作品も、参加している。
演劇界要人、梨園はもとより、およそ芸能各界注目のすべてを集めた初日であった。
“亜弓さんは…心を掴めば出来るでしょう” “マヤ…あの子は、己をなくせばいいのよ”
千草が生前、言い残した、マヤの紅天女への助言。いつかしら、マヤは知らず知らず、それを我がものとしていた。
マヤの自我は、役の彼方に遠く去り、スタンバイの頃には、マヤは既に紅天女であり、神女としての阿古夜であり、阿古夜としての紅天女であった。
開演アナウンス。
やがて、運命のその緞帳が開いた。北島マヤ主演による、『紅天女』上演である。
大都の俊英舞台スタッフ、その総力を結集した、大舞台が始まった。



 終演後、客席は静まりかえり、ヒソリとも音がしなかった。だが、間もなく、嵐のような大喝采が湧き起こった。
緞帳が降りて、舞台袖に引っ込んだマヤには、自分が何者なのか、はっきりとは自覚できなかった。
“私は…誰?私は…天と地をつかさどる者…私は…紅天女…?”
「よくやった!!」
黒沼に肩を揺さぶられて、マヤは、ハッと我に帰った。
「あ、黒沼先生…」
「カーテンコールだ!行ってこい!」
「は、はいっ!」
他の役者の役順のカーテンコール登場の間、
マヤは早変わりで金冠に打ち掛けを纏った登場時の天女衣装に着替え、オーラスのカーテンコールに登場した。
万雷の拍手が、客席から寄せられる。
そして、初日挨拶。マヤは暗記したセリフのように滞りなく、挨拶を終えた。続いて、各役者の挨拶。
マヤは真澄の席にちらりと目をやった。真澄が大きく頷いた。
“よかった…成功だったんだわ…”
真澄の合図で、ようやくマヤは、燃え立つような熱い演技の感覚から、「自分」を自覚した。
4度のカーテンコールのあと、ようよう、客席が点灯され、終演アナウンスが館内に響く。客達の興奮のさんざめきが、
劇場から遠のいていく。
英介は、側近に支えられて、客席から最後に席を立ち、そのまま自宅へ戻っていった。


 楽屋裏は、人波でごった返していた。
真澄はマヤにひと声かけようと、マヤの楽屋に足を運んだ。すでに楽屋は関係者で一杯である。
マヤはまだ舞台衣装のまま、人々の祝辞を受けていた。が、真澄の姿を見つけると、マヤは自分から真澄に歩み寄った。
「速水社長……ありがとうございました…。」
「よくやったな。これから、3ヶ月だ。長いぞ。身体に気をつけて、さらにいい舞台にしていってくれ。」
「はい…。頑張ります。」
真澄はマヤの手をとって、ぐっと握手に力を込めた。
真澄の手は大きく、暖かく、力強かった。
そして、真澄は、ほんの僅かの間、ふれあった肌を惜しむかのように、手を離すのを引き延ばした。
ふたりの目が合う。真澄の眸が、強い光を放った。マヤはそれに一瞬引き込まれた。
舞台衣装のままのマヤ。綺麗だ…。真澄はつくづくとマヤに見惚れた。



 マヤの紅天女は、日々練達と錬磨を繰り返しながら、滞りなく上演されていった。
舞台とは、生き物である。二度とはない、唯一無二の、瞬間瞬間の連続。そのかけがえの無さ。
英介は、暇さえあれば、客席に通い詰めた。そして、マヤを通じて、亡き月影千草を偲んだ。マヤは、若い頃の月影千草によく似ていた。
月影千草こそ亡きものの、英介にとっても積年の夢が叶った、舞台である。
常々、没入型の演技をするマヤは、日に2回公演の日などは、寝ても覚めても、阿古夜・紅天女から己に戻ることは無かった。
意識は常に、演技、つまり役のままなのだ。
中日を過ぎるあたりから、そうしたマヤの演技は、さらに神秘性が高まっていった。
観客の前を、まるで梅の香がひと刹那行き過ぎていったような、動き。
神女・阿古夜の神性はいっそう神々しく、恋する村娘・阿古夜は初々しく可憐で、観客の誰もが皆、阿古夜に恋をした。
クライマックス、一真との対決は、神と仏の凄まじい葛藤を、演劇空間に深く、忘れがたく刻み込んだ。
そして、日本人なら誰しも、どこか深いところで我知らず知悉している文化伝統を、観客個々の心に強く思い起こさせ、観客を揺さぶった。
紅梅の木の精であり、天と地とを司る姫神、紅天女。
これほどの舞台が今まで世に埋もれていたことが、いかに惜しまれることだったのか、と、観客は誰しも、その深い感慨に捕らわれた。
そして、みごと、師弟の長い苦闘の末、再演にこぎつけだマヤのその価値を、観客はいたく、思い知った。



 爆発的な高評のうちに、無事公演は進み、やがて、千秋楽の日がやってきた。
真澄はこの日は早くから観劇を予定していた。
着々と、千秋楽の、ひときわ高い創造的な緊張漲る舞台は進み、関係者誰しもが間違いなく成功の予感を高めていった。
 桜小路・一真の、渾身の斧が、梅の木のセットに振り下ろされる。
一真は、一瞬早く姿を消した阿古夜の衣装を、かき抱く。そして、暗転。
読経の効果音が小さく響いてくる。語り部が、その後の一真を語る。
そして、すべての装置が取り払われたホリゾントに浮かぶ、紅天女。
まるで空気のように、真っ暗な舞台中央に進み、一本のスポットで、照らされる。
まごうかたなく、そこに、紅梅の木の精・「世界」を司る者・紅天女が佇んだ。そして、溶暗。
緞帳が、音もなく降りた。
客席は、一瞬静まりかえり、そして、万雷の拍手が贈られる。
音楽とともに、カーテンコール。
マヤの登場で、客席は大いに湧いた。「北島!」と、客席から掛け声もかけられた。
真澄は深い満足を覚えていた。
やがてマヤの千秋楽挨拶。続いて、役付け順に挨拶が続いていく。
このあと、カーテンコールは止まず、この日大都劇場の緞帳は、4度、上がっては下りた。

 この千秋楽の日は、帝国ホテルで打ち上げも予定されていた。
真澄は、早くから社員に命じて、終演後のマヤの楽屋に人払いをさせていた。この時ばかりは、他人に邪魔をされたくはない。
そして、自ら紫のバラの花束を手にして、マヤの楽屋を訪れた。
「しばらくは誰も入れるな。今後のことについて、北島と打ち合わせをする。楽屋口を塞いでいてくれ。」
真澄は楽屋扉の番に立つ社員に言い残した。言われて、社員は楽屋口に向かった。



 真澄が後ろ手で鍵を掛けて楽屋に入ると、化粧前で、マヤは舞台化粧は落としたものの、カーテンコールの衣装のまま、茫然と座り込んでいた。
所狭しと、胡蝶蘭の鉢が飾られている。一流の大女優の楽屋のようだ。
「まだ夢の世界を漂っているのか?」
真澄はマヤに声をかけた。
ハタ、とマヤは我に帰って振り返った。
「あ…速水さん…。」
「千秋楽、おめでとう。ほら。よく頑張ったな。」
紫のバラの花束を、真澄は自らマヤに手渡してやる。みるみる、マヤの瞳が涙で潤む。
「ああ、とうとう終わった、…ありがとう、速水さん…ほんとに…。」
「あたし…ここまで来られて…信じられない…」
「よくやった。みごとだった…」
真澄はゆっくり両腕を広げてマヤに差し出した。マヤは、迷わず衣装のまま、その腕に飛び込んだ。
被り物の金冠が、チリンチリンと幽かな音を立てる。
真澄はその顎紐を解いて、被り物をそっと外してやる。そして片手で化粧前に置いた。
マヤは真澄の胸に、しっかりと抱きとめられた。その、広さ。暖かさ。
真澄がマヤの顎を指先でそっと持ち上げる。そして、マヤを思い切りのけぞらせて、真澄はマヤに深く口づけた。

思えば、試演前の伊豆の夜以来。マヤのくちびるが、微かに震える。
自分が贈った打ち掛けを纏ったマヤ。愛おしさが、真澄を熱く焦がす。
深い、熱い大人の口づけを、真澄はマヤに贈った。マヤは全身の力が抜けて、がくりと膝を折った。
真澄はしっかり、そのマヤの身体を支える。真澄の裡で、俄に欲情が高ぶった。互いの愛情を確かめ合った男女には、よくあることだ。
まして、真澄には、マヤが高校生の時からの長い時に耐え抜いてきた、それは愛情である。一度ふれあえば、躰ごと愛したい。
ふれあうごと、想いは熱くつのる。

「マヤ…声をたてないでくれ…」
真澄は、打ち掛けを押し開き、襦袢の下の腰巻きの中にそっと手を入れた。そして、その下は裸の、マヤの秘所を、長い指で探った。
「…あ…はや…みさ…」
「静かに…」
「素晴らしい紅天女だった…マヤ…愛している…」
真澄が、甘く、マヤの耳元に囁く。
真澄は衣装ごと、マヤを楽屋の畳に静かに横たえた。幽かに打ち掛けの衣擦れの音がした。

今日でひとまずはマヤと共に役目を終えた打ち掛けを敷物にして、真澄はマヤを組み敷いた。素早く指先の愛撫の手を早める。
まだ行為に慣れないマヤは、羞恥に耳まで赤くなった。そして、必死に真澄にとり縋った。
ややあって、真澄の指先がわずかに湿った頃合い、真澄はズボンのベルトを外した。そして、漲り勃つ熱い尖端をマヤに潜り込ませた。
まだ、不慣れなマヤには、それには痛みを伴う。思わずマヤの躰に力が入る。
「力を抜いてくれ…長くはしないから…」
真澄の囁きは、このうえなく甘く、優しかった。マヤは素直にくったりと、躰を真澄にあずけた。
真澄はマヤの片脚を高く掲げて、素早くマヤとひとつになった。
抉られるような、ざらついた痛みが、瞬間、マヤを襲う。が、次第にそれは退いていく。
真澄はマヤに苦痛を与えないようゆっくり腰を動かしながら、マヤと結ばれた喜びに、心からひたひたと浸された。
「マヤ…マヤ…ああ…」
真澄が深い悦びに満たされているのが、マヤにも判った。愛されている…。その胸躍る、ときめき。幸福。
マヤにはそれだけで充分だった。
マヤの内部で、急に圧迫感を増した真澄が、息を詰めて、二度、三度、激しく動いた。そして、マヤの奥深く、真澄が弾けるのを、マヤは感じた。
真澄の呼吸が荒い。
「マヤ…愛している…」
真澄は言って、マヤをかき抱いた。
「速水さん…好きです…」
マヤの頬を、涙が一筋、伝った。
真澄は指でそれを拭ってやり、思いこめて、マヤに口づけた。だが、今日は時間切れである。真澄は時計を見た。
「時間がないな…。マヤ、支度して出ておいで。打ち上げだ。俺は先に行っている。」
「はい…。」
真澄は身を起こすと、手早く身支度を整えた。
「着飾ってくるんだぞ。今日の主役だからな。」
半身起き上がったマヤの頬を、真澄は軽く撫で上げた。
「じゃあ、また後で。」
マヤは頷いて、楽屋を出る真澄を見送った。立ち上がると、真澄がマヤに注ぎ込んだものが腿に溢れて流れるのに、マヤは驚いた。
ああ、愛し合うって、こういうこと…。
マヤは化粧前でそれを拭い、舞台衣装を脱いで片づけた。打ち掛けが、また幽かに衣擦れの音を立てた。



 打ち上げも盛大に済み、翌日から、マヤには取材やら出演依頼やらが、立て続けに殺到した。芸術祭審査にも、加えられている。
大都芸能からは、まだマヤ個人のマネージャーは決定してはいず、ひとまずは水城が以前のようにマヤ回りの情報を整理にあたった。
そうしたある日。

 マヤは、思いあぐねて、水城に相談を持ちかけることにした。
それはというと――
『紅天女』本公演に入ってからの3カ月、マヤは無月経に陥っていたのだ。
公演中は、夢中で、マヤ自身も気づかなかったことだ。
水城には、独断でマヤを大都タレント専用の医者に診せるのは憚られた。
水城は真澄の時間を空けさせ、マヤを真澄のもとに連れて行った。
真澄のいる社長室に、水城に伴われて、マヤは複雑な心境で入っていった。
水城の説明に、真澄は一度では理解できず、
「え?なんだって?」
マヤにはいかんとも羞恥に耐えがたい二度目の説明を、水城は繰り返した。
「ですから!」
「マヤちゃんは、女性の月の障りに異常をきたしているんです。真澄さま、まさかとは思いますが、お心当たりはございますの?」
他ならぬマヤの体調のことである。真澄は咄嗟に絶句した。
「あ、ああ、いや、それは…。」
歯切れ悪く言葉を濁す真澄に、水城は内心舌打ちをしたい思いだった。(心当たりがあるわけね…真澄さまともあろうものが…)
「ああ、悪いが、しばらく彼女とふたりだけにしてくれ、話を聞く。指示はあとから出す。ここへは誰も入れないように。」
「かしこまりました。…真澄さま?お気持ちはお察ししますけれど、場所柄をおわきまえ下さいませ。よろしいですね?」
「…何のことだ。とにかく、話してからだ。」
「では、のちほど。いつでもお呼び出し下さい。」
ふたりの会話が見えていないマヤは、ひたすら怪訝な顔で、真澄と水城を見比べていた。



 真澄は水城が去っていった重厚なドアに内鍵をかけると、さっとマヤを抱き寄せた。
そして、マヤがもの言いたげに真澄を見あげたその唇を、素早く奪った。
ふたりきりになれば、いつもまず、“逢いたかった”と言うように、真澄はマヤを抱き締める。
伊豆の夜から、まだ、ほんの数回のことだ。
真澄の素早さにマヤは呆気にとられながら、抱き締められて、上着を脱いだ真澄のワイシャツごしの腕の温もりに、
胸のつかえもゆっくり溶けていくようだった。
少しのあいだでも、ふれあっていたい。
真澄の真情が、そう行動させる。
真澄のくちびるはマヤのくちびるを離れ、耳朶へ、頬へ、首筋へと、そっと下がってゆく。
ふれあったら、確かめたい。男の熱情が、真澄を満たしていく。
真澄はマヤを軽々と抱き上げると、社長室奥の、広いソファにマヤを運んで横たえた。
「こういうことをしないように、水城が釘を差したんだよ。」
悪戯っぽく微笑みながら、真澄はマヤに覆い被さった。
「だが、俺の会社だ。俺の部屋だ。誰に文句も言わせるものか。」
「速水さん…あたし…」
「ああ、どうしたんだ?まさか、あの別荘の夜のことじゃないだろう?」
「うん、それは絶対…違う。でも、あたしこんなこと、初めてで…。」
「腕のいい女医がいる。うちの女性タレント専属の医者でもある。あとで、水城に連れて行かせよう。しっかり診察してもらうといい。」
「それって…婦人科なの…?」
「そうだ。」
「あたし、婦人科なんて、罹ったことないのに…。」
「女優は身体が第一だぞ。それにきみの身体は、もうきみだけのものじゃない。俺のものでもあるんだ。大事にしてくれ…。」
真澄の言葉の最後は、甘い囁きになっていた。マヤの胸が、甘酸っぱく疼いた。
「俺は…一生きみの影だと…そう思っていた。だが、もう今は違う。マヤ、俺はきみのものだ。そして、マヤ、きみは俺のものだ、俺だけのものだ…。」
「そうだろう…?」
そっと囁かれて、マヤは静かに頷いた。
「あたしも、速水さんが好きって気づいてから、ずっと苦しかった…。忘れなきゃ、って、でも、今はもう、そんなこと、信じられないわ。夢みたい…。」
「過ぎた過去のことは、もう終わったことだ。済んだことだ。これからは、ずっとふたり一緒だ…。そうだな?」
マヤはコクリと頷いた。そのしぐさが愛らしくてたまらないというように、真澄は思いきりマヤを抱き締め、口づけの嵐をマヤに降らせた。
長い苦難と遍歴の末、やっと手に入れた、愛の宝石。珠玉のような、その貴重さ。かけがえのなさ。真澄の想いが、熱く燃えたつ。
真澄はそのしっとりと弾力のあるくちびるで、マヤに熱く口づけた。
まるで食べてしまうような、貪り尽くすような口づけ。
マヤが真澄の身体の下で、僅かに身を捩る。が、じきに身体からすっかり力が抜けてしまう。

「…ん…」
真澄は片手で、マヤのブラウスのボタンを外していく。そして、後ろ手で器用にブラジャーのホックを外した。
白い飾り気のないブラジャーを、真澄はめくりあげる。まだ見慣れない、マヤの豊かな真っ白い乳房が、半分露わになる。
その頂きは淡い桜の花の色に色づいて、ようやく熟しかかっていた。
真澄は掌一杯に、その乳房を包み込む。絹のような、その肌の柔らかさ。
「ダメ…」
真澄がくちびるを離すと、マヤが恥じらって小さく呟いた。
「見せてくれ…マヤ…。」
ブラウスの前をはだけ、ブラジャーをすっかりめくりあげると、若々しく花開いた両の乳房が、真澄の目の前に零れた。
「綺麗だ…」
真澄は両掌でそっと、マヤのその魅惑的な女の華を愛おしんだ。そして、羽のような軽い口づけの雨を、その絹の乳房に降らす。
それから、頂きを柔らかく口に含み、巧みに舌先で弄んだ。
マヤが小さく、呻きをあげる。甘く痺れる快感が、鋭くマヤの躰を駆け抜けていく。
真澄は愛おしさのまま、存分にマヤの乳房を愛撫した。そして、その愛撫を、今度は片方の太腿に移す。
膝頭から内腿を、真澄は指先ですいと撫で上げた。マヤがびくりと身を震わせる。
真澄はマヤのスカートに手を入れ、ストッキングごとするりと下着を脱がせた。
マヤは急に下半身が心もとなく薄ら寒く、小さく体を震わせた。
そして、真澄が愛撫の手をマヤの花芯に伸ばそうとすると、思わず両の脚を硬く閉じた。
そんなマヤに、真澄は、やさしく、囁いた。
「こわく…ないから…」
そして、柔らかく接吻した。
マヤは、その甘い誘惑に、瞼を閉じて、真澄に縋りついた。
真澄は片手でマヤの乳房を包み、利き手で、マヤのまだ固い女の蕾を押し開いた。縋りつくマヤの腕に、力がこもる。
指先で、ゆっくりと丹念に、真澄はマヤの花芯に愛撫を加える。
マヤには覚えのない感覚が、鋭く研ぎ澄まされていく。
知らなかった興奮、知らなかった快感が、マヤの内部に俄に高まる。
真澄の指先が、ようやくいくらか露にまみれた頃、真澄はズボンのベルトを外した。
そして、耐え抜いた官能にそそり勃つ己を、外に取り出した。
マヤの苦にならぬよう、真澄はマヤの片脚を大きく挙げて入り口を押し広げると、マヤの躰の入り口に、その熱い尖端を宛った。
「あ…!」
貫かれる…!予感がマヤの裡に奔る。真澄はゆっくり、マヤに躰を進めた。
マヤが、唇を噛んで、きつく眉根を寄せる。頬が紅潮していた。
「まだ痛いか…?済まない…じきに慣れる…じきに、きっと、よくしてやるから…」
宥めるように、真澄はマヤの耳元に囁いた。
マヤは涙する思いで、真澄にとり縋った。
まださほど濡れない、きついマヤの内壁に、否が応でも、真澄の方が官能を高めてしまう。
真澄の自制心も、限界に来た。
「マヤ…頼む、少し我慢してくれ…」
真澄はマヤの両膝を抱え込むと、一気に激しくマヤを突き動かした。
マヤは必死で、声をこらえる。
だが、痛みとともに、痛みとはどこか違う、別の感覚が、真澄の激しい律動につれてマヤの情念を揺さぶっていった。
「マヤ…ああ…愛している…」
真澄の深い情のこもった睦言。
力強い真澄の腰に躰ごと突き上げられて、マヤは感動に近い思いにとらわれた。
やがて、真澄の激情が俄に勢いを増す。
「…いくぞ…」
真澄は達することをマヤに告げた。マヤは夢中で真澄にしがみついた。
「…くっ…」
低く呻いて、真澄が、マヤの奥深くに熱情の飛沫を迸らせた。
呼吸を弾ませて、真澄はマヤをかき抱く。マヤはそんな真澄が、ひたすら慕わしかった。


「はやみさん…好きです…」
額に滲む汗を手の甲で拭って、真澄はマヤにやさしく微笑んだ。そして、思いこめて、口づけた。
しばらく、ふたりは結ばれたまま、余韻に浸って抱き合っていた。
「悪かったな、こんな場所で。」
真澄はゆっくりマヤから躰を離した。
そして、身を起こすと、手早く自分とマヤの後始末を施す。
「恥ずかしいから見ないで…。」
「あ?ああ。」
マヤは背を向けた真澄の後ろで、身支度を整えた。真澄も着衣を直す。
「もう、いいか?」
「…うん…。」
振り返ると、真澄はあらためてソファに座り、マヤの肩を抱いた。
「今度から、夜、ホテルをとろう。一晩、一緒に過ごすんだ。ふたりで。いいな?」
消え入りそうな声で肯んじると、マヤは頬を上気させて、俯いた。
こうして、この後、ふたりは夜ごと、ホテルでの逢瀬を重ねていくことになった。
「ああ、行かせたくないな…。ずっとこうして、マヤとふれあって居たい…」
率直なその真澄の言葉に、マヤは少しはにかんで、それでもマヤも同じ思いを口にした。
「あたしも…ずっと速水さんと居たい…」
「マヤ…」
真澄は心から愛おしげに、マヤの頬を撫でた。
「…駄目だ、こうしていると、またマヤが欲しくなってしまう。…しかたないな、今日は。」
真澄は思いを断ち切るように、マヤから身体を離し、立ち上がった。
「水城くんを呼ぶ。医者に連れて行かせるから、きちんと診察を受けてくれ。報告はあとで水城から聞くよ。」
「はい…。」



 水城は社長室に入るなり、ジロリと真澄を鋭く睨みつけた。
「長いお話は、もうお済みになりましたの?では、マヤちゃん、行きましょう。」
「社長、芳田女医ですね。では、行って参ります。」
「ああ、頼んだ。」
(やれやれ、お見通しか…。まったく彼女にはかなわん…)
内心、真澄は肩を竦めた。そして、胸ポケットの煙草に手をやった。



 水城の車で、社から10分ほどで、そのクリニックに到着した。
医院は小綺麗な瀟洒な造りで、一見して婦人科医とは見えなかった。
「マヤちゃん、保険証は持ってきているわね?」
「はい、水城さん。」
「じゃあ、行きましょう。」

 クリニックには、他の患者はいなかった。受付で初診の手続きを終え、じきに診察室に呼ばれる。
水城も、共に診察室に入った。
デスクに腰掛けた女医は、水城によく似た髪型で、金縁の眼鏡をかけていた。真っ直ぐ椅子に座る背筋がきちっとしている。
「北島さんですね。今日はどうされました?」
「あの…しばらく…生理が無くて…」
「最終月経はいつでしたか?」
「えっと…4カ月と半月前です。」
女医は、サラサラとドイツ語でカルテに記入する。
「では尿検査を。そちらがお手洗いです。採尿したら、内扉に出してください。」
きびきびとした、有無を言わさない指示だった。マヤは言われたとおりにするしかない。
直に、看護婦が検査結果の用紙を女医に渡す。
「妊娠反応はありませんね。蛋白も糖も正常。北島さん、無月経の間、体重が激減したようなことは?」
「ありません。ただ、舞台を3カ月のロングランでやってました。夢中で、気がつかなかったんです。」
「役柄は?」
水城が説明した。
「先生、『紅天女』ですわ。」
「ああ、なるほど…。北島さんの男性経験は、いかがかしら?もう、長いことになりますか?」
少し語気を和らげて、女医は尋ねた。
「あ、あの、いいえ…ごく…最近、少しだけです…」
「基礎体温表は…その舞台ではつける習慣はないでしょうね。」
「あ、はい…ないです…」
「今日は、内診は必要ありませんね。水城さん、おそらく、役柄からくる、精神的な黄体ホルモン異常でしょう。
 女性ホルモンがまだ不安定なんですよ。北島さんの場合は。
 個人差はありますが、もう2、3年経って性生活が安定すれば、どんな役柄でも、自然に影響は受けなくなりますよ。」
女医は今度はマヤに確認した。
「人間でない役をおやりになったのね。あまり男性経験も無くて。」
「はい、そうです…」
「では、明日から、基礎体温表をつけるようにして下さい。しばらく続けていただいて、様子を見ましょう。
 これが、基礎体温計。最短の時間で計測できます。自然に元の周期に戻っても、続けるようにして下さい。」
「では、自然回復を待つということですか?」
水城が尋ねた。
「そうです。舞台が無くても無月経が続くようでしたら、ホルモン剤を内服していただきます。今日は、特に薬は処方しません。
 自然に周期が快復しなかったら、またご来院下さい。役柄にのめり込み過ぎたのね。」
水城が返答した。
「承知しましたわ。では、今日はこれでよろしいんですね?」
「ええ。結構です。お大事に。」

 水城に促されて、マヤは席を立った。待合室で、水城が会計を済ませるのをマヤは待った。
そうか…、紅天女のせいなんだ…。マヤには、大いに納得できる説明だった。
「家まで送るわ。マヤちゃん。よかったわね、たいしたことなくて。」
「はい。ありがとうございました、水城さん。」
「はい、これ。体温計と表。自己管理も、女優の大事な仕事の内よ。」
「ほんとですね。気をつけます…。」
水城の車で、マヤは家まで送ってもらった。
「真澄さまには私がよく報告しておきます。心配要らないわ。それより、マヤちゃん。」
「はい、?」
「今後、妊娠して堕胎、なんてことになったら、誰が許しても私は許さなくてよ。心しなさいね。」
マヤは咄嗟に絶句した。
「…大丈夫です!あたし…ちゃんと自己管理します!」
「そう。女優の身体よ。大事にしなさいね。」
「…はい。水城さん。」
マヤは一礼して、車から降りた。



 その夜遅く。マヤのマンションの電話が鳴った。出ると、真澄だった。
「あ、速水さん…!」
「報告は聞いた。よかったな。特に異常なくて。ホッとしたよ。
 お互いの都合を調整して、今度、夜に逢おう。マヤ。一緒に夜を過ごそう…」
「ええ、ええ。速水さん…。」
「じゃあ、おやすみ。よく眠るんだぞ。」
「はい。速水さんも…。」
「マヤ、愛している…」
真澄が囁いた。マヤの胸がときめく。
「あたしも…速水さん…」
「ありがとう…。また連絡する。じゃあ。」
「はい。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ。」
名残惜しく、電話は切れた。
マヤはベッドにもぐり込むと、真澄とのふれあいを、ひとり、思い出し、反芻した。真澄の口づけ、真澄の愛撫。
真澄の力強い腕が、自分を抱き締める、あの感触。そして、痛みだけではなかった、何かが呼び覚まされるような、
身体の奥深くの感覚…。真澄の、優しい微笑み。口づけ。睦言。真澄の、弾んだ呼吸。
『いとしい、おまえさま…』
いつかしら、マヤはセリフを口にしていた。真澄の全てが、慕わしい。
次に演じる阿古夜の恋の演技は、全く別の演技になるような、予感がマヤにはした。
真澄とふれあい、真澄に抱かれて眠りに落ちる夜を夢見て、マヤはいつかしら、微睡みに落ちていった。





終わり






2001/9/23

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