〜Part2〜



  皇居前・パレスホテル、ローズルーム。
この宵は、とある音楽監督がこの年の演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞した記念のパーティが盛大に催されていた。
映画音楽、テレビドラマ、レコード作品、と幅広い活躍で知られてきた、甲斐正人氏。日本の演劇界においては、オリジナルミュージカル・芝居の作曲、
ミュージカル音楽監督、宝塚歌劇団公演の作曲等、演劇音楽の第一人者として広く活躍している、時の人である。
最近では主にT芸能の一大ヒットミュージカルの音楽監督として、一般観客の高い支持も受けている。
真澄もこの宵、芸能社絡みの人脈で、パーティに列席していた。
煌めくシャンデリア、さんざめく人の声。触れ合う食器の音も、宴会場の高い天井に反射して、キラキラと響き渡る。
演台での本人挨拶、来賓の祝辞も済み、パーティは盛会になった。総勢三百名余り。
ホテルマンが人混みをより分けて、訥々と給仕に当たっていく。
真澄は、芸能社関係者らと、いつも通り、ソツなく、典雅な社交辞令に徹して、社長業の「仕事」を成し果(おお)せている。
パレスホテル…。ここは、マヤと密会の夜の時を過ごしている、真澄にとっては格別の意味のあるホテルである。
だがしかし、ここのところ、互いのスケジュールのすれ違いで、もう何ヶ月もまともにこのホテルで夜を明かすこともなく、過ぎてしまっていた。
その真澄の焦燥と行き場のない煩悶を、まるで徒(いたずら)に煽り立てるかのような、今日のスケジュール。
いつもなら、このホテル階上のダブルルームで、マヤと濃密な夜の時間を過ごしていたものを…。
“くそっ…まったく…。”
真澄は些か自暴自棄気味に、早いピッチで酒を呷(あお)っていった。
そんな真澄の胸中を推し量るわけではないが、
「真澄さま、あまりお過ごしなさいますな。お体に毒ですわよ。」
付き従っていた水城は、それとなく真澄を諫める。
「ああ。判っている。」
憮然と、真澄はそれに答えて、立食パーティ会場の人波を、関係者ごとに巡っていく。
主賓の甲斐正人への挨拶も、如才なく済ませた。
そして、立食のテーブルについて、ひとしきり煙草を燻らせ、ブランデーを舐め尽くして一息ついた。
それから、何気なく、会場の反対側に真澄は目をやった。
すると、突然光の帯が、サッと床に伸びたような気が、真澄にはした。
その帯の先に、マヤの姿があった。
“…マヤ!”
声にならないその真澄の驚きの声が聞こえたかのように、パッとマヤが振り返った。
マヤの瞳が、大きく見開かれる。
“来ていたのか…!”
マヤも女優業の「仕事」で、ここにいる成り行きらしい。
そういえば、前回のマヤの舞台、音楽は甲斐正人だった…真澄は思い返した。
「…水城くん、悪いが、ちょっと外すぞ。あとは任せた。」
そう、水城に言い残して、真澄はマヤに向かって、一直線に人波を泳いで行った。
水城は、真澄の歩く先に視線を投げる。
“あら…マヤちゃんじゃないの。…もう、真澄さまったら。まったく、しょうがないわね…”
水城は内心、諦めの溜め息をついた。


マヤも、談笑していた人の輪から抜けて、真澄に向かって真っ直ぐ歩いてくる。
それが、まるでスローモーションを見ているかのように、真澄には思えた。
長い髪をアップにまとめ、マヤに最もよく似合う薔薇色のシルクサテンのイブニングドレスを身に纏い、真澄の眼には、
マヤのいるそこだけ、別の光が当たっているように、華やいで目映く照り映えて見えた。
細い肩紐のドレス。胸元も深いカット。さりげないネックレスを頸に飾り、細いウエストの躰の線もくっきりと鮮やかな、大人びた装いだった。
こうしたドレスアップした姿のマヤを目にするのは、真澄には珍しい。
真澄の胸の奥底から、熱い想いが沸きあがって、真澄を満たし、真澄の胸は一杯になる。
マヤの晴れ姿に、抑えようにも動悸が激しく、真澄の胸に高鳴った。
ようやく人波を分けて、ふたりは顔を合わせた。
真澄は、“ついてこい”、とマヤに目で合図する。人目を避けて会場の隅を歩きながら、真澄は高ぶった声をかけた。
「今日は来ていたのか。」
「ええ、甲斐先生のお誘いで。」
「ああ、そうだった。…久しぶりだな、マヤ…」
「…ほんとに。」
二人は目立たないように、ローズルームを出た。
そして、隣の空の宴会場を通り過ぎ、人気の無い反対側の宴会場入り口に歩いた。
その薄暗い隅で、真澄は素早くマヤを抱き竦めた。
「逢いたかった…マヤ…」
真澄は、マヤの耳元に熱っぽく囁く。
真澄はそのままマヤのくちびるを奪おうとする。
「…、待って、速水さん、口紅…」
「構わん。」
真澄は、化粧も濃いめのマヤの顔を喰い入るように見つめ、マヤのグロスがぬめり光る赤いくちびるに、思い切り深く口づけた。
真澄は酒で熱した舌をマヤに差し入れ、マヤの舌に絡めて、ひとしきり、熱い口づけに熱中した。
ようやっと、真澄はくちびるを離し、マヤの露わなウエストラインを掌で撫で上げる。
「綺麗だ…マヤ…」
マヤの下腹に、真澄の熱い昂ぶりが、はっきりと当たる。
マヤも、それだけで、全身が痺れるような甘い感覚に急激に襲われた。
「こんなに待たされたとはな…。」
真澄は剥き出しのマヤの肩を愛撫しながら、もう片方の手で尻の丸みを掌に収める。その弾力の、久々の感触。
真澄は、熱い溜め息をついた。
「……、もう、ダメだ、マヤ…、部屋を取るぞ。」
人気の無い階段を降りながら、マヤはパーティバッグから化粧直しティッシュを取り出し、真澄に手渡した。
真澄はそれで、唇と周辺を拭った。マヤも手鏡で、手早く口紅を確認する。少しはみ出したのをマヤは指先で直す。
秘やかに人目を避けて、二人はフロントに直行した。真澄は、フロントに並ぶエレベーターで待つように、マヤを促す。
真澄はさっさとチェックインを済ませると、
「…いつもの部屋だ…」
妖しくマヤに囁いた。マヤは思わず、頬がカッと火照る。マヤも、多少、アルコールは嗜んでいた。
マヤはエレベーターに乗り込むと、口紅を落とした。
「今日は身体は大丈夫なんだな?」
真澄は確認した。マヤがそっと頷く。
そして、いつも密会していた、その部屋に、二人は入っていった。後ろ手で、真澄が鍵を閉めた。



服を脱ぐいとまもなく、真澄はマヤをさっと抱き上げてベッドに運び、シーツをめくって、マヤに覆い被さって靴を脱いだ。
マヤのロングドレスを、真澄は足元からめくり上げる。
そして、絹のストッキングごと、レースの下着を手早く引きずりおろして、靴も一緒に床に投げ捨てる。
マヤの下半身が、照明も明るい部屋に白く剥き出しになった。
真澄もズボンのベルトを開け、ズボンを脱ぐのももどかしく、自分の脈打つ高ぶりを引きずり出した。
パーティの終わる時刻までには、会場に戻らねばならない。真澄は急(せ)いた。
指先で、マヤの躰の中心を確認すると、マヤのそこも、すでに熱い潤いが溢れ出していた。
真澄は、マヤの躰の入り口に自身を宛うと、マヤの両脚を高々と持ち上げ、一気にマヤを力強く刺し貫いた。
「…あっ、あああーっ…」
マヤが甲高く叫んで、思い切りのけぞる。マヤの全身にザッと快感の戦慄が奔る。
真澄は、激しく腰を律動させ、存分にマヤを翻弄した。
「はぁっ…あっ…ううぅ……」
マヤの嬌声が、狂おしく真澄の耳に響く。長いこと、聞きたかった声だ。
真澄は息苦しい蝶ネクタイを片手で緩めながら、片手でドレスの上からマヤの乳房をぎゅっと掴んだ。
譫言のように、マヤが口にする。
「は、やみ、さん、ドレス…皺になっちゃう…」
「ああ、判った…」
そう、返事はしても、判ったも何も、真澄にはすでにあったものではない。
長い煩悶の日々のあと、ようやっと、マヤと、こうしたのだ。
真澄は、思うさま、マヤの躰を堪能した。
10分、20分…。真澄の激しい行為が続いていく。
長いこと耐えた日々の分、寸でのところで爆発しそうになるのを、素早くマヤから躰を引き抜いて、真澄はこらえる。
そして、再びマヤに挑んでいく。
マヤは、真澄の情熱に圧倒されながら、否応なく高まる快感の波に、我を忘れて呑まれていった。
思わずマヤが、シーツを握り締める。
途中、無造作に真澄はマヤのドレスのファスナーを下ろし、肩紐のないブラジャーと共にマヤから脱がして、床に落とした。
真澄も動きに不自由なズボンは脱ぎ捨てる。
真澄は早いテンポで様々に体位を変え、思うさま、マヤを蹂躙していく。
全裸になったマヤの乳房に、真澄は結ばれたまま、勢いをつけてかぶりついた。
点々と、強い口づけの痕を付けていく。マヤが呻く。
そして、両手で、その豊かな膨らみを強く揉みしだいて、頂を口に含んだ。強く、吸い上げる。マヤがのけぞった。
全裸にネックレスだけが、妖しく光っていた。
マヤのまとめた髪は、すでに乱れて、長くなびけている。髪飾りは外れて、枕の端に落ちていた。
激しい息遣い。滲む汗。マヤの悩ましい嬌声。真澄の低い呻き。
「あっ…あぁぁぁぁぁ……」
マヤの何度目かの絶頂に引きずられて、真澄も危うく達しそうになる。
「くっ……」
マヤの両脚を抱えながら、真澄は眉根を寄せて天を仰ぎ、それに耐えた。
“まだだ…まだ、もっと、やってやる…”
軽く半時は、そうして真澄は存分にマヤを責め立てていた。タキシードの上着も、真澄は脱ぎ捨てた。
そうして真澄に長く、強く、立て続けに責め立てられて、マヤはしだいに歓喜に狂乱しつつあった。
もう、マヤの全身が、官能の嵐。真澄の熱い巨きいものが、マヤの意識を危うくしていく。
真澄も、マヤのひとときの狂乱を愉しんだ。もう長いこと、真澄はこれが見たかったのだ。
いよいよ、真澄の官能の大波が、頂点を迎えようとしていた。
真澄はマヤの両脚を思い切り開かせて膝を立てさせ、マヤの脚を抱えて、深くマヤに入り込んだ。
そして、激しい動きをいっそう高めた。マヤが喘ぎ、呻く。
やがてついに、耐えた時の分を余すところ無く、マヤの深奥に力強く、真澄は思いの丈を爆発させた。
凄まじいほどの快感が、真澄の全身に迸った……。



荒い呼吸のまま、真澄は満足げに、マヤに深く口づけた。マヤはすでに朦朧としている。
が、ふたりの、この秘やかな時に許された時間は、あと僅かだった。何事も無かったかのように、会場に戻らねばならない。
真澄はマヤをシャワーにせかした。
フラフラしながら、マヤはシャワーに向かう。
汗だけ流して、マヤは早々にシャワーから出てきた。
交替で、真澄もいったん着衣を脱ぎ、浴室に向かった。
真澄もさっと汗を流すと、水滴をバスタオルで拭いながら、脱ぎ捨てた衣服を拾って集めた。
マヤは、衣装をつけて化粧台で、化粧を直し、髪を結い直していた。が、髪は自分ではアップにできなかった。
「急ぐぞ。マヤ。髪はおろしたままでいい。」
不自然なウェーブがかかってはいたが、マヤは髪を整えた。
真澄は衣服を着直した。そして、化粧台で、まだ行為の余韻で茫然としているマヤを、身を屈めて抱きすくめた。
真澄は、マヤの耳元に囁く。
「パーティがはねたら、今夜はここで過ごそう。いいな…?」
消え入りそうな声で、マヤが微かに、うん、と頷いた。


3階、ローズルームに戻るエレペーターの中、マヤの腰に手を回して、真澄はマヤの顔を覗き込んだ。
化粧で隠していても、行為のあとの、艶めかしい色気が、マヤに漂う。
真澄は、軽くマヤの頬を叩いた。そして、笑って言った。
「そら、“仕事”だぞ。仕事の顔に戻れるか?」
「もうっ、速水さんの意地悪…。」
「ハハハ…その口がきければ大丈夫だ。」
エレベーターが3階に着く。二人は何喰わぬ顔で、ローズルームに戻って行った。



  真澄はマヤと連れだって、真澄に代わって接客する水城を見つけて歩み寄った。パーティはそろそろ散会、という時間になっていた。
「やあ、水城くん、悪かったな。今、戻った。」
水城は、サングラス越しに、真澄とマヤを見比べた。
そして、真澄と共にいったん関係者の席を外すと、ひそかに真澄に言い放った。
「真澄さま、事情とお気持ちはお察ししますけれど、お仕事中ですのよ。たいがいになさいませ!」
“やれやれ、かなわんな、お見通しか…”。
真澄は内心で舌打ちした。
“まあ、いい。今夜は時間もたっぷりあることだし…。”
真澄は内心でほくそ笑み、ひとりごちた。
そして、自分の席に戻るマヤの後ろ姿を、ひそやかに舐めるような視線で追うのだった。




終わり




そして、このお話は地下に続きます(予定)




2001/8/9

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO