351000番ゲット・いずみ様リクエスト: リクエストですが、またまたマヤちゃんと真澄さんの結婚後の、子供が産まれた後の
お話をお願い致します。
2人が結婚して子供が産まれて、家族で出掛けた時に、真澄さんが昔の知り合いの女の人と再会して、
その人に、昔と真澄さんの違いみたいなものを語ってもらいたいです。
そして、真澄さん一家には、幸せを感じて貰う・・・というお話が読みたいです。

※再アップにあたりまして:この作中に登場する女性は未アップ作『異国夜話』で創作しましたオリジナルキャラクターです。
また、この作中では病気ネタを扱っております。予めご了承下さいませ。お気に障られましたら誠に申し訳ございません。
『異国夜話』はかつて地下室に置いてありましたが、この際なので地上に置いてしまおうかとも思案中です。





 秋の好日。良く晴れた日曜日。
愛子が東洋英和付属幼稚園の子ども礼拝から帰宅すると、真澄はその日の愛子の稽古事は休みにし、
雄大(たけひろ)も連れて、マヤとともに上野動物園に出かけることにした。



 連休の休日とあって、動物園は家族連れで賑わっていた。
上野動物園の広大な敷地を、動物を見物しながら、真澄一家はゆっくりと巡った。
真澄が愛子を抱き、マヤは雄大を抱いて、雄大付きの乳母がそれに従う。
一家はモノレールに乗って、西園を巡った。
「あ、キリンさん。」
「そうよ、愛子ちゃん。キリンさん、大きいわね。」
3頭のキリンが、ゆっくりと囲いの中を歩いていた。
「ママ、あれはなあに?」
「あれはサイよ。」
「サイ?」
「そうだよ。愛子。そこに字が書いてあるだろう?」
「ほんと。サイって、書いてある。」
「角が恐い…。」
「こんどはカバって、書いてある。」
「そうだ。愛子。よく読めたな。」
「カバさん、大きい。」
「そうね。」
カバが池の中をゆっくり歩いていた。
翻って不忍池方面を眺めると、フラミンゴが一斉に羽ばたいていた。
「わあ。鳥さんがいっぱい!」
「愛子、あれはフラミンゴだよ。」
「フラミンゴなの?」
「そうだ。」
「綺麗ね、愛子ちゃん、フラミンゴ。」

子ども動物園なかよし広場では、山羊に餌やりが行われていた。
真澄は抱いていた愛子を降ろすと、牧草を愛子の手にとらせた。
「ほら、愛子、山羊さんに食べさせてごらん。」
愛子は恐る恐る、牧草を山羊に向かって差し出した。
一頭の山羊が、愛子の手から牧草を食べた。
「きゃぁ、食べた!」
愛子は怖がって、慌てて真澄の足に縋りついた。
「よしよし。愛子、いい子だ。」
真澄は再び愛子を抱き上げた。
不忍池を眺めながら、一家はこんどはモノレールには乗らず、歩いてイソップ橋を渡り、東園に向かった。
東園でバクを眺め、ニホンザルの猿山に愛子は歓声をあげた。
東園の森の中では、ゴリラとトラが元気一杯に動き回っていた。
そして、クマとアジアゾウを見学する。
「わあ、象さん!」
3頭のアジアゾウはゆったりと柵の中を歩き、愛子は物珍しそうにゾウの鼻の動きに見入っていた。
「象さん、あのお鼻は何をしているの?パパ?」
「鼻ですくってご飯を食べているんだよ。」
「ふうん。」
そして、いよいよ、見物の人気動物、パンダを見に、一家は人の列に並んだ。
ちょうど、真澄の前に並んでいる子連れの女性の横顔に、真澄は確かに見覚えがあった。
遠い記憶を手繰り寄せて、封印した過去の記憶を、真澄は呼び起こした。記憶の彼方からの符合。
「あの、失礼ですが。」
真澄は思わず声をかけていた。



「はい?」
鈴を転がすようなその声も、確かに聞き覚えがあった。
「篠聖子さんではありませんか?」
「ええ、はい。あら、あなたは…速水真澄さん…?」
女性は明瞭に答えた。
「まあ、見違えたわ。こんな所でお逢いするなんて。」
ノロノロと進む人の列に並びながら、真澄は思いもかけない再会に、心底驚いていた。
「聖子、知り合いかい?」
篠聖子の傍らの男が、聖子に声をかけた。
「今は、原聖子、です。こちら、私の主人ですわ。」
「初めまして。速水真澄です。」
真澄は原に挨拶した。
「愛子、ご挨拶は?」
真澄は愛子を促す。
「こんにちわ。速水愛子です。」
真澄に抱かれた愛子はハキハキと挨拶した。
「まあ、可愛いお嬢さんね。速水さんにそっくり。」
「愛子ちゃん、年はいくつ?」
「3つ。」
愛子は人見知りもせず、明瞭に答えた。
「こちらが僕の妻です。」
「北島マヤさんね。『紅天女』はお噂はかねがね伺っていますわ。忙しくて舞台は拝見しておりませんけれど。初めまして。原聖子です。」
「あら、こちらは坊ちゃんなのね。」
聖子はマヤの抱いた男の子を見つめた。
「ええ。長男です。名は雄大。」
「真澄さんのお知り合い?」
マヤは珍しいこともあるものだと思いながら、真澄に尋ねた。
「ああ。俺がオックスフォードに留学していた頃、お世話になった先輩だ。」
「聖子さんにもお嬢さんが?」
真澄は聖子に尋ねた。
「ええ。遅い結婚でしたけれど、ワーキングマザーもやっと板について来ましたわ。」
言って、聖子は笑った。聖子の抱く子どもは3歳だという。
人の列は、ちょうどパンダの前に来た。パンダはタイヤにぶらさがって遊んでいた。
「愛子ちゃん、パンダちゃんよ。」
「わあ!大きい!可愛い!」
愛子は無邪気にパンダに喜んだ。
真澄一家と聖子一家は、ゆっくり進む人の列に従って、パンダの前を通り過ぎた。
「聖子さん、休憩もかねて、お茶でもいかがですか?」
「ええ、そうね。あなた、ご一緒しましょう。」
聖子は夫に声をかけ、真澄一家とともに、レストランに向かった。



 レストランに入ると、雄大が寝ぐずり出した。
真澄は雄大付けの乳母、内藤に雄大を託し、先に車に戻っているよう、車のスペアキーを内藤に渡した。
「あれから10何年になるかしら。」
聖子は懐かしそうに真澄を見つめた。
「原さんは、昔の速水をご存知なんですか?よければ教えてください。」
マヤが聖子に話しかけた。
「ええ、そうね。はたちそこそこの速水さんは、いつも冷たくて、まるでナイフのようでしたわね。」
「誰をも愛することなどない、と、決めてかかっているようで。」
「いつも独りで、固く心を閉ざしていらしたわ。」
「真澄さんが?」
聖子のその言葉に、さも意外だと、マヤは聞き返していた。
「ええ。その速水さんが、今ではこんなに若い奥様と可愛いお子さんとご一緒とはね。」
「速水さんの心を溶かしたのは、北島さんでしたのね。」
愛子は注文したプリンを、行儀良く食べていた。
「聖子さんは通産でのお仕事は相変わらずですか?」
「ええ。思いがけず子どもが授かりましたので、以前のような激務ではなくなりましたけれど。」
「ご主人、原さんは、聖子さんがお相手に選ばれた方だ。さぞ優秀な方なんでしょうね。」
「おかげさまで、仕事は順調です。」
原は穏やかに真澄に答えた。
「まずは事務次官ですか?」
真澄の問いに、原夫婦は笑って受け流した。
「お嬢さんは、幼稚園はどちらへ?ウチの愛子は東洋英和ですが。聖子さんと原さんのお子さんなら、きっとさぞや優秀でしょう?」
「まあ、愛子ちゃんは賢いのね。この子、沙耶は、実はダウン症ですの。高齢出産でしたからね。」
「それは…。」
真澄は絶句していた。
「来年から、専門の施設に通わせるつもりです。」
与えられた運命を、凛として受け止める風情の聖子に、真澄はただひたすらに、頭が下がった。
「あれから10数年…。早いものですね…。」
しみじみと、真澄は口にした。
「本当に。年月というものは、振り返ればなんと他愛のないものになってゆくんでしょう。」
聖子が玲瓏たる声音で、しっとりと口にした。
「お忙しい通産省のエリートご夫妻にはゆっくり観劇のお時間も無いことでしょうが、北島マヤの『紅天女』、ぜひご覧になって下さい。」
「チケットはいつでも上席を手配しますよ。」
「まあ、ありがとう。そうね、来年になれば、この子も手がかからなくなりますし。」
「いつでも、大都芸能にご連絡下さい。ご遠慮なく。」
「速水さん…つくづく、お変わりになったわね。立派な家長さんだわ。」
「速水さんの、そんな柔和な笑顔が見られるとは、思ってもみませんでした。」
「聖子さんは、昔と少しも変わらず、相変わらずお美しい。とても一児の母には見えませんよ。」
「まあ、ほほほ…。」
真澄のなかば本気の社交辞令を、聖子は一笑に付した。


園内に「蛍の光」が流れた。
「そろそろ閉園ですわね。速水さん、北島マヤさん、今日は思いがけずお逢いできて、嬉しかったわ。」
「僕もです。聖子さん、原さん。」
「ご観劇の際は、必ずご連絡下さい。また、いつか、必ずお会いしましょう。」
「ええ、そうね。」
「では、ごきげんよう、速水さん。北島さん。」
聖子は子どもを抱き上げ、夫とともに、席を立った。



 その夕刻。速水邸に戻った真澄は、子どもを乳母に託し子ども部屋に引き揚げさせると、夫婦のリビングで、しばし思いに耽った。
「真澄さん、どうかした?」
マヤが真澄に声をかける。
「あ、ああ。いや。ちょっと昔を思い出した…。」
「昔の真澄さん、若い頃から冷たい人だったのね。私と出逢った頃も、ほんとに冷たかったけど。」
「もう、10年以上昔の話さ。今は、マヤ、俺は今はつくづく幸福だと思って、な。」
「あの聖子さんのお嬢さんともあろうものが、よりによってダウン症とは…。」
真澄は頬を歪めた。
「お気の毒ね…。」
「ウチは愛子も雄大も、五体満足で健康に育ってくれて、何よりの幸運だということだ。」
「本当だわ…。」
「今なら胎児検査で、ダウン症は生まれる前に判別がつくだろう。承知できちんと産んで育てるというのが、いかにもあの人らしい…。」
「聖子さん、綺麗な人だったわね。とても、真澄さんより年上には見えなかったわ。」
「あの人には、いろいろ勉強させて貰った。懐かしい日々だ…。」
一瞬、真澄は遠い目をして、遥か彼方、過ぎ去った若き日に思いを馳せた。
「聖子さん、真澄さんの初恋の人なの?」
マヤが少し臆しながら尋ねた。
「いや。そういう間柄じゃない。俺が人を愛したのは、マヤ、君が初めてだ。」
「上手なんだから。真澄さん。」
「本当さ。マヤ、きみに出逢う前は、女優も歌手も商品だった。」
「きみの舞台に出逢って初めて、俺は自分の生き方に疑問を持つようになった。それも、もう10年も昔の話だな。」
「今は、マヤ、俺は幸せだよ。マヤ、きみには、本当に感謝している。きみのおかげで、俺にも大切な家族が出来た。」
「真澄さん…。」
「愛しているよ…マヤ…。」
真澄はソファの傍らのマヤの肩を柔らかく抱き締めた。




 その年の晩秋、真澄は夫婦のリビングに暖炉を新しく誂えた。
暖炉と言っても、薪を燃やすのではなく、電気で暖める最新式の暖炉だった。
そして真澄は、日本画壇でも肖像画で高名な画家を招き、家族の肖像画を描かせることにした。
リビングのラフスケッチから始まって、およそ1ヶ月で肖像画は完成した。
『 Conversation Piece 』と名付けられたその大きな家族の肖像は、夫婦のリビング、暖炉の上に飾られた。
絵の中では真澄とマヤがソファに寄り添って微笑み、幼い愛子と雄大がマヤと真澄それぞれの横に並んでいた。



家族の肖像。真澄にとって、かけがえのない、それは幸福の象徴であった。


さようなら−−And if so , it must be--過ぎ去った過去の一切の轍よ。すべての桎梏よ。
もうすぐ外は白い冬。愛したのは確かに、マヤ、おまえだけ。そのままの、おまえだけ。

外は今日も雨。やがて雪になって、俺たちの心の中に、降り積もるだろう。…降り積もるだろう……。









終わり






2002/12/9

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