343000番ゲット・ふわふわ様リクエスト:速水さんとマヤが結婚して1年経った頃という設定で。
 マヤは速水さんの大きな愛と何不自由の無い贅沢な暮らしにも安心して過ごす日々でしたが、ある日、
 新しく始まった舞台の共演者で速水さんに良く似たタイプの俳優と出会います。
 彼はマヤよりも年下で、雰囲気は速水さんに似ているものの、まるっきり違うタイプで、どこかマヤはひかれてしまい・・・
 という内容で。もちろん、速水さんの嫉妬は確実にお願いします(笑)

※速水さんの嫉妬ですか(笑)。「嫉妬する真澄様」人気ありますねえ、やっぱり(笑)





 マヤが真澄と晴れて華燭の典を挙げ、初めての結婚記念日も迎えようという頃。
マヤは真澄の大きな愛に支えられ守られ、公私ともに安定し、順風満帆の充実した芸能生活を送っていた。
真澄がマヤに与える贅沢な暮らしは、マヤを一流の舞台人に育て、『紅天女』の舞台姿も、一回りも二回りも大きくなった。
声楽、バレエ、ダンス、日舞、と、マヤは新しく稽古を始め、ミュージカル初出演も果たした。
成長著しいマヤに真澄は心から満足し、いっそうのマヤへの愛を深めた。




 大都芸能制作、ミュージカル・ロマン『ガラスの風景』。2幕24場。
マヤの大都劇場での次の演目である。
1960年代、北イタリア湖畔のリゾートでの出来事。
資産家が集まる別荘地は、夏の間だけ形成する小社交界のパーティーがシモンズ氏のサロンで行われていた。
皆の注目は、新たに別荘地の住人としてやってきた青年紳士、ジョーイ・バクスター。
その日、シモンズ家の次女クララが殺人容疑をかけられる事件が起こる。
妹の容疑を晴らそうとする長女ローラと彼女に魅かれるジョーイの大人の恋。
つむじ風のような殺人事件に変化する小社交界の人間模様…。夏の終わりの別荘地に「アリヴェデルチ」の歌が聞こえる。


 マヤは長女ローラ役。相手役ジョーイには、大都芸能屈指のスカウトマン・長谷川が見つけてきた無名の新人が抜擢された。
その名、中川純一。
大都芸能本社で集合日の顔合わせが行われた。
制作プロデューサーの挨拶のあと、役付け順に挨拶が始まった。
「主演、北島マヤです。どうぞよろしく。」
続いて準主役の中川が挨拶する。
「このたび、ジョーイ役を頂きました、中川純一です。新人ですが、頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。」
マヤは、中川を一目見て、ふと何故か懐かしい想いに囚われた。

(誰かに似てる…誰かしら…ああ、昔の速水さんに似てるんだわ。)
(出逢った頃の速水さんに、この人、似てる…)

中川の整った顔立ち、彫りの深い冷たい横顔。すらりとした上背。
マヤは喰い入るように中川を見つめた。
一通り挨拶が済むと、マヤは中川に声をかけた。
「中川さん、この舞台、どうぞよろしくね。」
中川が少し驚いてマヤを見おろした。
「あ、北島さん。こちらこそ、どうぞお手柔らかに。」


 顔合わせの日の夜。マヤは夫婦のリビングでくつろぎなから、喜々として真澄に中川の話をした。
「速水さん、昔の速水さんにそっくりな人、見つけたわ。」
「あたしが中学生の時、速水さんに出逢った頃の速水さんに、よく似てるの。」
「稽古が楽しみだわ。」
マヤの弾んだ声音に、真澄は眉を顰めた。
「おいおい、奥さん、俺に似ているからと言って、浮気はするなよ。」
その真澄の物言いを軽くいなして、マヤは
「当たり前じゃない。あたしには速水さん以外の男の人は居ないわ。愛しているのは速水さんだけよ。」
「舞台、楽しみにしててね。」
そう言った。真澄は内心舌を巻きながら、穏やかに微笑んだ。
「ああ。頑張れよ。」
「うん。」
そしてその夜、マヤは静かに眠る真澄の傍ら、台本を読み耽った。




 翌日から、大都劇場稽古場で『ガラスの風景』立ち稽古が始まった。
マヤは中川の稽古を熱心に見入った。新人とはいえ、なかなかの実力で、歌唱もダンスも、その容姿によく纏まっていた。
稽古の合間。マヤは中川の傍に寄り、話しかけた。
「中川さん、年はいくつ?」
「僕ですか?22歳です。」
「あら、私より一つ年下なのね。てっきり年上かと思ってた。」

マヤは中川を観察した。
顔立ちは真澄によく似ているが、雰囲気は若き日の真澄とはまるで違っていた。
若き日の真澄は、すでに世故に長け、社長代理として大都芸能を仕切る堂々たる若き勇夫、切れ味鋭く自尊心も高かった。
が、中川はごくごく平凡な、これで役者かと思うほど、地味な雰囲気の持ち主だった。
舞台に立てば、華も出るのだろうが、稽古の合間、話していると、とても舞台人とは思えない。ごく普通の若者だった。
台本を手にしながらの立ち稽古。マヤは一晩で台本を覚え込んでいたが、周囲の演技陣は、そうはいかない。
マヤと中川との恋のシーン。
「あ、中川くん、そのセリフ、“ぼくはあなたを”のところ、もう一呼吸、間をおいてくれる?」
「あ、はい、わかりました、北島さん。」

マヤのソロに続いて、中川とのデュエット。歌稽古も中川はデュエットも巧みにこなした。
1日続いた稽古も終わり、今日は解散となった。
マヤが迎えの車を待っていると、中川が稽古場から出てきた。
「お疲れさま。中川くん。」
マヤの方から中川に声をかける。
「北島さん、お疲れさまでした。」
そのまま出口に歩み出ようとする中川にマヤは思わず声をかけていた。
「中川くん、帰りは?迎えの車、ないの?」
中川がひっそりと眉根を寄せた。
「僕は貧乏な無名俳優ですよ。当然、電車がよいです。」
「あら、そうなの。」

暫し考えて、マヤは中川を送っていくことにした。
「私の迎えの車が来るから、帰りは送っていくわ。」
思いがけないマヤの発言に、中川は居たたまれず、
「そんな、滅相もない。社長夫人に送っていただくなんて。」
中川は固辞したが、マヤは深く気に留める風情もなく、迎えの車が到着すると、中川を車に押し込んだ。
「ほら、乗って。どこまでなの?」
「すみません、じゃあ、下北沢まで。」
「下北沢に回って。それから帰ります。」
マヤは運転士に指示した。

お金もなく、無名な俳優。マヤは思わず、昔の自分を思い出していた。
「中川くん、昔はあたしも、あなたのようだったわ…。」
「北島さんが?」
「ええ。ボロボロのアパートに劇団仲間と一緒に住んで、舞台見たさでチケット代に電車賃を注ぎ込んだり。」
「今でこそ、速水社長が私を大事にしてくださるけど、『紅天女』以前の私は、やっぱり無名のひよっこ女優で、いつも貧しかったの。」
しみじみと、マヤは口にした。
「北島さんにも、下積みの時代があったんですね。」
マヤはふと遠い過ぎた日に想いを馳せた。
「長い下積みだったわ。お芝居だけが生き甲斐で。懐かしい…。みんな、みんな…。」
車はやがて下北沢の駅に着く。
「あ、ここで結構です。ここから歩いてすぐですから。」
「そう、じゃあ、また明日ね。中川くん。」
「はい、ありがとうございました、北島さん。また明日。」
中川はひらりと車を降りた。
中川は、見えなくなるまで、マヤの車を見送っていた。


無名の貧乏俳優か…。なんだか、守ってあげたいわ…。


真澄にしっかりと守られ今では心に余裕のできたマヤは、中川がどうにも不憫な気がして、そうした淡い想いに囚われるようになった。



 立ち稽古は順調に進み、部分通しに入った。
中川がマヤに声をかけてきた。
「北島さん、これ。どうぞ。」
見ると、ミニバラの小さな花束だった。
「いつか送って頂いたお礼です。」
「あら、ありがとう。高かったでしょう?」
「ハハハ、電車賃を注ぎ込みましたよ。」
「まあ…。ご好意は嬉しいけど、無理しないでね。」
「無理なんか…。僕は北島さんに喜んでもらえるなら、電車賃くらい、なんでもないです。」
それを聞いて、マヤはますます、中川が気になるようになった。



 マヤは帰宅して、中川から送られたミニバラを嬉しそうにリビングの花瓶に活けた。
先に帰宅していた真澄はその花を見ると、マヤに尋ねた。
「なんだ?その花は?」
「前に言ったでしょ、速水さんによく似た俳優さん。彼に貰ったの。」
それを聞くと、真澄は不機嫌に顔色を曇らせ、冷たくマヤに言い放った。
「他の男から送られた花なぞ、ここに飾るんじゃない。朝倉の爺にでもやってしまえ。」
「でも…せっかく貰ったのに…。」
「俺は不愉快だ。さっさと行ってこい。」
真澄の物言いはマヤに対しては珍しく、刺々しかった。
「速水さんったら、また焼き餅なの?彼とは何でもないのよ。ただの相手役よ。」
「いいから!」
真澄の声は鋭かった。低く、その声音は尖っている。
「…はい。」
マヤは不承不承、使用人を呼び花を英介の部屋に届けさせた。
「マヤ、おいで。」
真澄はベッドにマヤを誘った。
「ごめんなさい、今週はダメ…。」
真澄は軽く受け流した。
「そうか。いいさ、また来週がある。」
「お休みなさい、速水さん。」
「おやすみ、マヤ。」
真澄の腕枕に身を寄せて、マヤは安らかな眠りに落ちた。




 稽古はいよいよ通し稽古に入り、マヤと中川の呼吸も、見事に合うようになった。
端から見れば、マヤはまるで本気で中川と恋に落ちている、と見えるほど、役に入り切っていた。
中川も、尊崇の気持ち以上の想いをマヤに抱いて、舞台に臨んでいるようだった。
“あなたの眼差し、あなたの温もり、あなたが恋しい”
マヤが歌う。
“ローラ、きみは僕の恋のすべて。愛しいきみよ”
そこからはデュエットである。
“ローラ、愛するきみよ 今こそ旅立ちの時 一緒に行こう 世界の果てまで”
マヤのソプラノが響く。中川は想いこめて、マヤにキスを贈った。
周囲の演技陣は、ふたりの演技に見惚れた。
マヤはまるで、若い日の真澄に抱かれているような錯覚に陥った。

ラブシーンが終わると、稽古場の壁に凭れて、マヤは役に入ったままの恋する瞳で、中川を見あげた。
「中川くん、素敵だったわ。本番もよろしくね。」
中川は咄嗟にマヤに切り返した。
「北島さんのリードが素晴らしいからです。僕はすっかり引き込まれた。」
マヤはふと、訥々語り始めた。
「あたし、一人っ子で兄弟はいなかったの。中川くんは、なんだか弟みたいで、可愛いわ。」
「弟、ですか…光栄です。」
「中川くんの演技、素敵よ。わたし、あなたが好きだわ。」
マヤのその直截な言い分に、中川は思わず動揺した。
「北島さん…。」
「僕も…あなたが好きです…。」
「まあ、嬉しい。舞台、頑張りましょうね。」
マヤは、このうえない優しい眼差しを中川に向けた。




 初日も間近になった。『ガラスの風景』前評判は上々で、チケットも順調に捌けて行った。
マヤは役に入り込むと、ガラリとその姿を変える。
真澄には慣れたこととはいえ、家でもマヤがまるで本気で恋をしている女のように見え、真澄は深い極まりない不快感に惑わされていた。

やがて迎えた初日。
真澄の見守る中で『ガラスの風景』の緞帳が上がった。
テンポ良く進む舞台、物語が複雑に絡むなか、マヤと中川扮する恋の物語が進んでいく。
どう見ても、マヤが本気で中川に恋しているとしか見えない、それは演技だった。
いつものことながら、真澄は相手役に筆舌に尽くしがたい不快を覚えた。
確かに、マヤが言うように、昔の自分によく似た風貌をしている。
幕間、真澄はロビーで、苛々と立て続けに煙草をふかした。
「やあ、速水社長。初日おめでとう。マヤさん、なかなか熱演ですな。まるで本当に相手役に恋しているようだ。」
藤美食品社長が、真澄に挨拶する。
「それはどうも。」
真澄は素っ気なく挨拶を交わしたが、内心は不愉快で堪らなかった。

(マヤが恋だと!?冗談じゃない!)

 2幕が開く。マヤと中川扮する役の恋物語はさらに進み、クライマックス、ふたりの情熱的なキスシーンを迎えた。
真澄はいよいよ焦燥を募らせた。チリチリと、胸の奥が焼け焦げる。
物語は心弾むハッピーエンドに終わり、舞台はまずまずの成功を収めた。
カーテンコールで中川と微笑み合うマヤは、まるで実際恋に落ちているように、真澄にの目にも見えた。
あれは演技だ、真澄は自らに言い聞かせた。




 初日の打ち上げを終えて帰宅したマヤを迎えて、真澄はマヤを労った。
「ご苦労だったな。良い舞台だった。マヤ、よくやった。」
「ほんと?嬉しい。速水さんに誉めて貰えるのが、一番嬉しい!」
マヤは真澄から贈られた紫のバラを、リビングのボヘミアクリスタルの花瓶に活けた。
「あたしの舞台、一番に見て貰いたいのは、やっぱり速水さんだわ。昔も、今も。」
「1か月、身体に気をつけて、いい舞台にしてくれ。」
「はい。判ってます。」
マヤはまるで恋に落ちた女のように、匂いやかに輝いていた。
真澄はひどく複雑な思いで、そんなマヤを見守った。




 『ガラスの風景』は盛況のうちに千秋楽を迎えた。
公演期間中はローラ役に成り切って、中川のジョーイ役を恋する女に徹底したマヤだが、公演が終わると、まるで憑き物が落ちたように、
マヤの中川への淡い想いはかき消えた。

あたし、夢でも見ていたのかしら…。

千秋楽の打ち上げでマヤに寄り添う中川を、まるで別人でも眺めるような面もちで、マヤは見あげた。

速水さんに似ていたから、気になっただけなのよね…。

中川にも、1か月の公演に通い詰めるファンが出来、その内の一人と、中川はつき合い出していた。
「千秋楽おめでとう。中川くん、1か月、どうもありがとう。彼女も出来たのね。よかったね。」
「北島さん、1か月、ありがとうございました。お疲れさまでした。」
「僕がこの舞台を無事に務められたのも、北島さんのリードのおかげです。」
「北島さんのような女優さんと共演できて、僕もいい勉強になりました。」
「中川くん、出世役だったわね。これからの舞台も頑張ってね。」
「はい、どうもありがとうございます。」
マヤにとって、中川は今では、単なる若手俳優のひとりに過ぎなかった。




 千秋楽を終え、マヤは遅く帰宅した。
マヤを待っていた真澄は、マヤが普段通りのマヤに戻っているのを確認して、内心で苦笑した。

まったく…。マヤの役者根性もたいしたものだな…。

「ご苦労だったな、マヤ。千秋楽おめでとう。」
「ありがと。ああ、疲れたわ。でも、楽しい舞台だった。」
「“恋人”役はどうした?」
「ああ、中川くん?弟みたいで、可愛かったわ。それに速水さんによく似てて。まるで速水さんとお芝居しているみたいだった。」
「弟みたい、か。」
たまには俺に甘えて欲しかったのか?、マヤは…。
真澄はひとりそう思いこむと、リビングのソファに腰掛けるマヤに膝枕を求めた。
「どうしたの?速水さん。子どもみたいよ。」
マヤが笑う。
「こうしてマヤに甘えるのも、たまにはいいだろう?」
マヤは微笑んで真澄の髪をそっと愛撫した。

マヤが子守歌を口ずさむ。
しばらく、真澄はマヤの膝枕にゆったりと横になっていた。

時刻も遅くなり、真澄はマヤの膝枕から身を起こすと、マヤに軽く接吻した。
「マヤ、風呂に入っておいで。もう寝よう。今夜は久々にゆっくりできるぞ。」
真澄のその言葉にマヤは含羞んで、そっと頷いた。



「速水さん……」
真澄の懇切丁寧な愛撫に、マヤは舞台で疲れた神経のすべてが解放され、暖かく慰められていく気がした。
真澄はマヤの豊かな乳房に顔をうずめ、乳飲み子のようにマヤの乳房に戯れた。


マヤの公演中の中川への淡い想いは、すべてかき消え、真澄の真摯な愛が深くマヤを捉え、真澄の愛がマヤを存分に満たした。
真澄はゆっくりとマヤに侵入する。
緩やかなリズムを刻んで、真澄はマヤを丁寧に愛した。
やがて奔放な性の悦楽が訪れる。
真澄はおもうさまマヤを愛し、マヤも狂おしく真澄の愛に応えた。

夜をこめて、ふたりは愛を刻む。
やがてマヤは真澄の腕枕で、深い眠りに落ちていった。




真澄こそ、マヤの愛のすべて。
現実へと目覚めれば、淡い想いも泡沫の夢と消えた。
流れに浮かぶ泡沫は、かつ消え、かつ結びて、久しく留まりたるためしなし。
ひととき、人は泡沫の夢も見るだろう。
だが、真実は、唯一つ。
愛した人はあなただけ。
マヤ、俺のただ一つの宝。
ふたり、静かに寄り添って、その夜、安らかな眠りに落ちていった。







終わり










2002/12/4

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