330330番ゲット・ひいらぎ様リクエスト:マヤちゃん×真澄さんのラブラブ物もいいんですが、
 たまには違うものも読んでみたいかなと・・・
 「二人」のリクを楽しみにしている人たちにはちょっと申し訳ないかもしれないんですが、
 天使の羽根さんのリクの「水城さんモノ」が、とってもよかったので、
 私も前々から思っている「水城さんモノ」をお願いしようかとおもって・・・。

※ということで、「水城さんモノ」をと思います。





 水城冴子は、両親とも弁護士の家庭に生まれた。
都内でも裕福な家庭の多い港区に生まれ育ち、子どもの頃から多忙な両親に代わって使用人に傅かれ、何不自由なく育った。
両親の血を濃く受け継いで、ほんの幼少の頃から、水城は聡明で怜悧な子どもだった。
この子もいずれ弁護士に、と、周囲からは将来を嘱望され、難関中学入試女子御三家と称される名門女子中学の一つを受験し、水城は見事合格した。
少女・水城は鋭敏な感受性に富み、常に家庭より仕事を優先させる両親を、醒めた冷たい眼差しで、批判的に見ていた。
(あたしはこの親のようにはならない…!)
水城は、両親を嫌っていた。そして、両親への反発は、水城の少女の心に、深い闇となって沈潜した。

(あたしは、結婚はしない…、人の子の親なんかには、決してならない…。)

鋭利な刃物のような水城の感受性にとって、死は、常に甘い誘惑として、少女・水城の心のすぐ傍に存在し続けた。
あまりにも誇り高く、孤高の感受性を生きる水城にとって、自死は少女の心に常に憂愁を誘い、甘美な誘惑として水城を魅了してやまなかった。
優秀な良家の子女ばかりが集まる学校でも、水城は秀でた成績を修めた。
だが、水城にとって、学校での華やかな生活も虚しいばかりだった。

自分の真の居場所は何処なのか。

水城は常に、安息の居場所、魂の安らげる場所を求めて、心の彷徨を続けた。
中高一貫教育の学校で生徒会長も務めながら、水城は閉じられた学校の外に救いを見いだそうと、放課後の学外を放浪した。
そして、赤坂のディスコで、水城は山口組の御曹司と、劇的な出逢いを果たす。
若いふたりは激しい恋に落ちた。そして水城はすぐさま実家を飛び出し、山口組に身を寄せた。
おりしも水城冴子、16歳。
水城はそれまでの意趣を変えて山口組の御曹司と結婚し、極道の妻となって、山口組から学校へ通った。
学校では、そうした水城はセンセーショナルな存在だった。
生徒たちは遠巻きに水城を見つめ、影では水城の悪評も盛んに口にされた。
だが、水城は動じることは無かった。
この自分を傷つける者は許さない。
毅然と、水城は顔をあげて通学した。
個性の確立を教育方針に掲げる自由な校風の学院だったが、さすがに水城の存在は、学校側としても対応に困った。
周囲の生徒の父兄からは、水城の退学の要請もあった。
だが大人たちのそんな思惑も、水城の自尊心を揺るがすことはなかった。
ようやく「居場所」を見つけた水城にとって、もはや恐れるものは無い。
水城は相変わらず優秀な生徒として学内で活躍し卒業すると、そのまま東大の文一に現役で進んだ。
水城の両親は、私学を出た弁護士だった。両親を見返したい、その一心から、水城は東大を選んだ。
やがてほどなくして、山口組の御曹司は、愛人を作った。
水城は、黙ってその屈辱に耐えた。
結婚はようやく見つけた自らの居場所だと思っていた。が、山口組も、水城にとっては、茨の檻となった。
愛人の方に、先に子どもができた。
水城は御曹司と激しい諍いを繰り返し、互いに傷つけ合っては、自らもボロボロに傷ついた。



 そんな折り、山口組の先代と懇意にしていた速水英介が山口組を訪れた。
「これはこれは、若奥様。」
英介は水城に慇懃に一礼する。
「あなたは?」
「速水英介と申します。先代とは長いつきあいでしてね。」
「若奥様は、極道の妻の身ながら、東大に通っていると聞く。たいした玉ですな。」
「聞けば御曹司には早くも新しく嫡男がご誕生とか。若奥様のお立場もお苦しいことでしょう。」
英介の眼光が鋭く水城に迫る。
「あなたにご心配いただく筋合いじゃございません!」
水城は勝ち気に、英介に答えた。
「若奥様、もし『居場所』を探しておられるなら、儂のところへいらっしゃいませんか。」
英介の鋭い観察眼によるその一言に、若い水城は言葉を失った。
「東大卒業まで、こちらで面倒を見させて頂く。その後は、儂の秘書を務めて貰いたい。」
淡々と英介が語る。
「…結構なお申し出ですこと。でも、私は山口の妻の座を降りる気はありませんわ。」
水城はあくまで強気だった。
「まあ、いずれ、その気になったら、いつでも儂を訪ねて頂きたい。いいですか。忘れんでくださいよ。」
英介は名刺を水城に渡すと、もう一度水城を一瞥してその場から去っていった。



 山口組御曹司との傷つけ合いも、限界に来ていた。
そろそろ、退け時かしら…。
水城は悩み、自らの心の闇と、じっと対峙した。極道の道を生きる場所に選んだつもりだった。
だが、それも、水城にはただ虚しいものとなっていった。
ついに水城は離婚を決意し、身一つで山口組を出た。
その時、水城の心をよぎったのは速水英介だった。
水城は決心して英介のもとに身を寄せた。
以来、英介の庇護のもと、水城は東大を卒業し、秘書検定1級はじめあらゆる資格も取得して、水城は英介に仕えた。
自分も他人もずたずたに傷つけ、傷つき、その先に見つけた出会いのかけがえのなさを、水城は思った。
人はその気さえあれば、やり直せる。
過去と真っ向から向き合う強さを持ち、未来を見つめる強固な意志を水城は貫いた。
やがて水城は英介の元で働き、その有能さで大都芸能が誇る唯一の社長秘書となった。
そうして水城は、『生き甲斐』と『居場所』とをついに確保した。




 そして数年。
英介の意志で、水城は真澄付きの秘書を命ぜられた。
「ごきけんよう。お久しぶりですわね、姫川先生。」
「あら、水城さん。大都芸能速水社長一の秘書のあなたがただの観劇でここへ来ているとは思えないけど?」
「こんど真澄さまの仕事のお手伝いをすることになりましたの。」
「なにしろ真澄さまは次の大都芸能を背負われる方ですから、これからますます仕事も大変になりますでしょう?」
「及ばずながらお力になれればと思いまして、お引き受け致しましたの。」
「では速水社長の申し出で?」
「ええ。」
「まったく、彼女に出てこられては僕の出番がなくなりそうですよ。」
『リア王』の舞台ロビーで、水城は真澄とともに姫川歌子と談笑した。
真澄はマヤに『リア王』の舞台チケットを紫のバラとともに贈った。
舞台がはねた後、マヤを送ろうという真澄の申し出を、マヤはあかんべをして断った。
「もののみごとにふられましたわね真澄さま。」
「水城くんか。」
「あの子ですの?全国大会で一人舞台を演じたというのは?」
「ああ、そうだ。」
「真澄さま、ずいぶんあの少女にご執心ですのね。」
「それは仕事だからな。金の卵は逃したくない。」
「それだけかしら?」
「え?」
水城は、真澄の態度が、マヤに対してだけは違うことを一見して見抜いていた。


水城は真澄の仕事ぶりに、極道以上の非情さを感じていた。
真澄の抱える深い心の闇を、水城は自分の経験から直感的に見抜いていた。
一度は極道の道まで身を落としたこの身。水城は真澄の心の闇に鋭く迫っていった。
マヤはそうした真澄にとって、唯一つの心の闇に光る光。水城は冷静に、真澄の心を分析していった。

栄進座の原田菊子がマヤを舞台に採用したと聞き、真澄が滅多に見せない笑顔で微笑んだのを、水城は見逃さなかった。
また、『夢宴桜』の舞台袖で、人前で取り乱す真澄の姿を目にした水城は、真澄の真情に気づいていた。
マヤが『奇跡の人』オーディションにようよう参加を決めた時には、紫のバラを贈って励ましたらどうか、と、鋭く指摘した。
マヤの紫のバラの人の正体に、誰より早く気づいたのは、水城だった。
そして月影千草の意志でマヤが大都芸能入りし、泣く泣く契約書にサインした時には、水城は自ら紫のバラのひとを騙った。
真澄の傍近く真澄に仕え、水城は真澄自身意識していなかった真澄の本心を、鋭く突いたのだった。
「なんの真似だ?」
「何がでございます。」
「紫のバラだ。きみが贈ったんだろう?」
「それがお判りになるのは当の紫のバラのひと本人しかいませんわね。ついに語るに落ちるというわけですか。」
「おかしなこと。大都芸能の若社長、仕事の鬼、誰にも心を許さぬ冷血漢、恋などしたこともない…。」
「あの子を愛してらっしゃるのね。」
「なにを、ば…」
「ばかなことを言うと仰るの?ばかなのはあなたの方ですわ!」
「ただのファンなどとは仰いますな!いつもあなたがあの子を気にかけているのは判っています。あなたはあの子に恋しているんですわ!」
「11も年下の少女だぞ!それもあんな小さな…」
「だからなんだというのです?」
「今までそう思ってご自分の気持ちを誤魔化してこられたのでしょう?」
「あなたはあの子を愛してらっしゃるのよ!」
水城は真澄に迫った。
「よさないか!」
「このことをあの子が知ったらどうなると思います?大都芸能の社員や多くのタレントは…」
真澄は思わず水城の頬を叩いていた。
「きゃっ!」
真澄は水城の指摘に酷く動揺していた。
「すまない…。」
「いいえ。あの子もすぐ大人になりますわ。恋をするのに相応しい年に…。」



 長の年月、水城は真澄に仕え、聖ともども真澄にとってよき理解者となっていった。
紫織が紫のバラのひとを騙り、マヤに紫のバラの人からの絶縁状を送りつけた。
真澄にはそれをどうすることもできなかった。
やかて、マヤから赤線の引かれた『紅天女』の台本が届く。真澄はしばらくはそれに目を通そうとはしなかった。
だが、聖の後押しで、真澄はようよう、マヤの台本を読んだ。そして、激しい衝撃を受けた。
そして真澄は水城に相談を持ちかけた。
「お呼びですか、速水社長。」
水城が社長室に入ると、真澄は窓辺に佇み、蒼白な顔で物思いに耽っていた。

(真澄さま…)

水城は真澄の心の闇の淵を覗いた思いだった。

「ああ水城くんか。わざわざ呼び立てて済まない。」
「いえ…なんの御用でしょうか。」
「きみに…折り入って相談に乗ってもらいたいことがあるんだが…。」
「わたくしに?」
「これを…。」
真澄は赤線の引かれたマヤの『紅天女』の台本を差し出した。水城はそれに目を通した。
「北島マヤの台本、読ませて頂きましたわ。それで、わたくしに何を…?」
「きみに感想を聞きたい…。」
真澄は水城から目を逸らして、悩み深げに考え込んでいた。
そんな真澄に、水城は率直な意見を述べた。
「そうですわね、まず阿古夜の恋のセリフに引かれた赤いラインは今のあの子の気持ちでしょう。」
「紫のバラのひとに自分の気持ちを知って貰いたいという。」
「阿古夜の台詞に託して、自分の気持ちを告げているのですわ。」
「お気づきでしょう?簡単なことですわ。あの子は紫のバラのひとに恋しているのです。」
「恋だと!?会ったこともない男にか!?素性も正体も判らない相手に……。」
「北島マヤの大事な足長おじさん。ご存じでしょう?あの子が長い間あなたに焦がれていたことは。」
「何年ものあいだ、一目でも会いたいと願い続けていたのは。」
「若い女の子にはよくあることですわ。紫のバラのひとに対する憧れがいつのまにか恋愛感情に発展していったのでしょう。」
「そのあなたから縁を切られたことで、余計に想いが募ったのですわ。厄介なことになりましたわね。」
「…正体を知ったら、どうなる…?」
「さあ…。ですが、失礼ながら、あの子にとってあなたは長年の憎むべき相手。」
「北島マヤが紫のバラのひとの正体を知ってこの台本を送ってきたとは考えられませんわ。」
「それにあの子が母親の死のことを忘れてしまったとは思えません。」
痛い処を突かれて真澄は絶句する。
「母親の敵か…。」
「もし正体を知ったら、きっとショックでしょうね。『紅天女』の演技どころではなくなるかもしれませんわ。」
「今までの夢がすべて壊れるのですから。」
「そうだな…そうなのだろうな…。」
真澄は水城の言葉に酷く気落ちした。
「でも。このままにしてはおけませんわね。」
「きっと彼女は一日千秋の思いで紫のバラのひとからの返事を待っているはずですわ。」
「一言よろしいですか?真澄さま。」
「なんだ?」
「もし、あなたが、自分の心に正直になって生きたいと思うのならば、これはチャンスです。」
「あの子も一時はショックかもしれませんが、あなたのことを判ってくれる可能性はあるでしょう。」
「これは賭けかもしれませんが、うまくいけば道は開けます。」
「でも、もし、そんなことを望んでいないと言うのであれば、あの子には気の毒ですが、ここで縁を絶つべきです。」
「でないとあの子が可哀相ですわ。いつまでも当てのない希望を持ち続けることほど悲しいことはありませんから…。」
「いずれにせよ、真澄さま、もう今まで通りの紫のバラのひとではいられないことを判ってください。」
「あの子はもう昔とは違っているのです。成長して、大人になって…今は紫のバラのひとに恋しているのですから…。」
「あの子が恋…紫のバラのひとに…。」
真澄は水城の言葉を反芻した。



 それからの真澄は何をしても上の空になった。
会食の席でも、呆けた醜態を繰り返した。
その席を中座した真澄に、水城もまたついて中座した。
「なんて、だらしない姿ですこと。」
水城の諫言に真澄は振り返る。
「水城くん…。」
「意外な欠点がおありでしたのね。」
「大都芸能の速水社長ともあろうものが11歳も年下の女の子に振り回されっぱなしとは…。」
「このままでは社長の腑抜けで会社に悪影響が出るかもしれませんわね。」
「会社が傾く前に、なんとかして頂きますわよ。社長。」
「水城くん…。」
水城は自ら進んで真澄に進言した。
「簡単なことですわ。速水社長…いえ、真澄さま。あの子は紫のバラのひとに恋しています。」
「判っている。だが、俺ではない。架空の相手だ。」
「ええ。あなたが演出してあなたが演じた人物です。」
「…本当の俺ではない。」
「ええ。本当のあなたではありませんわ。あの子はあなたの演じた人物に恋しているだけです。」
「芝居が終われば夢も醒めます。楽屋で役者の素顔を見てがっかりするというのもよくある話ですわ。」
「でもそれで離れていくようでは本物のファンではありませんわ。ただのミーハー。そんなものは放っておけばいいのです。」
「何が言いたい?」
真澄は水城の真意を測りかねていた。
「真澄さま、知りたいと思いません?あの子が本物のファンか、ただのミーハーか…。」
水城は真澄を淡々と挑発する。
「水城くん!」
「でも、ま、この場合もうひとつ厄介なことが…。芝居をしている役者がそのファンを愛しているということですわ。
違いまして?」
真澄は重い口を開いた。
「……ああ、そうだ…。」
「だから、もし素顔を見せて失望されたらどうしよう。素顔は敵役ですものね。嫌われて憎まれたらどうしよう。」
「何より、それ以上に、あの子の心を傷つけるのがこわい…。愛しているから…。そうでしょう?」
水城は真澄の本心をいともたやすく言葉にしてみせた。
「ああ…その通りだ……。」
真澄は水城の指摘に悄然と頷いた。
「真澄さま…動かなければ、何も解決しませんわ。」
「簡単なことですわ。手を差し伸べるだけでいいんです。」
「手を差し伸べるだけで…?」
「素顔を知って、驚いて逃げて行くか、躊躇ったのち、その手を取るか…。」
「いずれにせよ、ふたつにひとつ。どちらか決まるでしょう。」
「水城くん!俺に賭けをしろと言うのか…?」
「お間違えにならないで!賭けをしかけてきたのはあの子の方ですわ!」
水城の語気に真澄は押された。
「あの子だって、あんな台本をよこした以上、覚悟はしているでしょう。
紫のバラのひとが自分の気持ちに応えてくれるか、拒否されるか…。」
「きっと苦しいほど切ない想いで、毎日返事を待っているはずですわ。これだけは判ってあげて…。」
「手を差し伸べるだけでいいんです。真澄さま。」
「良くも悪くも、それで決まりますわ。」
「水城くん…。」
「でも、覚えておいて下さいましね。その結果、たとえあの子がショックを受けてその手を取らなかったとしても、そのことであなたが傷ついたとしても、」
「まったく私の知ったことではありませんわ!」
「わたくしは、このまま社長の腑抜けを見逃して会社に悪影響を出されたくないだけですから。」
水城の檄に、真澄はようよう力づけられた。
「水城くん…ありがとう…。」
「いいえ。では、これで。」
水城は真澄の前を辞した。

(手を差し伸べるだけ…か…、この手を…あの子に…。)
(マヤ…!)

長い長い回り道を経て、真澄はようやくその重い腰を上げた。
そうした真澄を水城は影から支え、真澄を心から支援した。




 真澄が幾多の障壁を乗り越えて積年の想いを叶え、晴れてマヤと華燭の典を挙げた、その日。
水城は、しみじみと今の自分の立場を振り返った。
水城にとっても、それは長い年月だった。
幸せは、いつもくっきりと闇色の影に縁どられている。
マヤと真澄の心の岸辺に咲いた、紫のバラ。
真澄の心の闇を照らしたマヤという光が、いつまでも消えることのないよう、このふたりをこれからも見守っていこう。
水城はひとり、心もあらたに、人の心の深い闇とその闇を照らす闇の光に遥かに思いを馳せた。









終わり







2002/11/26

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