329000番ゲット・いずみ様リクエスト:リクエストの二作に登場する、愛子ちゃんは可愛くて、速水さん一家も大好きです
 ので、今回も愛子ちゃんのお話をお願い致します。
 少し成長した愛子ちゃんが、同じ習い事教室の男の子を好きに(仲良く)なります。
 マヤちゃんは、微笑ましいと思い、愛子ちゃんを応援しますが、真澄さんは、その男の子の話を聞く度に、不機嫌になります。
 マヤちゃんには、愛子ちゃんに人を好きになる大切さみたいなものを教え、不機嫌な真澄さんを宥めて欲しいと思います。

※ということで、シリーズ化させて頂きましたお話で参りたいと思います。





 劇団オンディーヌの幼稚部に所属し、華々しく子役CMデビューを果たした、マヤと真澄の間に生まれた長女、愛子。
真澄の美貌を受け継ぎ、その愛くるしい笑顔は周囲の大人達の誰をも魅了していた。
真澄の血を色濃く受け継いで利発な子であり、性格はマヤに似て明朗闊達な子どもに育ち、真澄は目の中に入れても痛くないばかりの溺愛ぶりだった。


 毎週日曜日は愛子は東洋英和幼稚舎の子ども礼拝に出席し、その後、乳母の佐藤が付いて、劇団オンディーヌの幼稚部に通う。
オンディーヌの幼稚部は様々な家庭の子どもが集まってきており、愛子はその中でも、一番の出来のいい子どもだった。
日曜の夜は真澄は必ず子ども部屋で、愛子と雄大とともに過ごすようにしていた。
マヤもスケジュールの都合の付く限り、真澄とともに子ども部屋で子ども達と一緒に過ごすよう、心がけていた。
その日曜の夜も、子ども部屋のソファに、マヤは真澄と並んで腰を下ろした。
雄大は早々とよく眠っていた。
「愛子ちゃん、今日はみ言葉は何を習ってきたの?」
マヤは子ども礼拝の様子を愛子に尋ねる。
「えっとね、『神はそのひとり子を賜ったほどにこの世を愛してくださった。それはみ子を信じる者がひとりも滅びないで永遠の命を得るためである』。」
愛子はすらすらと聖書の一文を暗唱してみせた。
「偉いぞ、愛子。よく覚えたな。」
真澄が愛子の頭を撫でてやる。
「ママ、『永遠の命』ってなに?」
「ずっと生きている、ってことよ。」
「ずっと生きている、ってなに?」
「死なない、ってことよ。」
「死ぬって、なに?」
「命の終わりのことよ。」
「ふうん。愛子も死ぬの?」
その不吉な言葉に、真澄は慌てて言葉を継いだ。
「愛子、愛子は死んだりしないさ。ずっと元気で、パパと一緒だろう?」
「うん。愛子はパパ好き。」
「そうか、そうか。パパが好きか。」
真澄は愛子を抱き上げて、膝に抱いた。
「ママは?ママのことも好き?」
マヤが愛子に笑いかける。
「うん。ママも好き。」
ハキハキと愛子は答えた。
「あのね、オンディーヌでね、愛子、ようくんとお友だちになったよ。」
「ようくん?男の子なの?」
「うん。一番かっこいいの。」
「あら、愛子ちゃんは、ようくんが好きなの?」
「うん。ようくんは、かっこいいし、お話すると楽しいよ。」
「何だと、男の子だ!?せっかく虫がつかないように東洋英和に入れたのに。オンディーヌとはな…。」
真澄は苦虫を噛み潰したような顔で不機嫌に文句を言った。
マヤはそれを聞き流して愛子に尋ねた。
「ようくんも、愛子ちゃんが好きなのかしら?」
「うん。愛子のこと、好きだって。」
「そう。良かったわね、愛子ちゃん。嬉しい?」
「うん。愛子、嬉しい。」
「仲良しになれたのは良かったわね。お友だち、大事になさいね。」
「はい。」
「いい子ね、愛子ちゃん。」
マヤは愛子の素直さを愛した。


それから、ことあるごとに、愛子の口から、「ようくん」の名前が出るようになった。
真澄はそのたびに不機嫌になり、マヤにブツブツと文句をこぼした。
「あのね、ようくんはね、大きくなったら愛子にお嫁さんに来て、って言ったのよ。」
「何だと!?愛子はお嫁さんに行きたいのか?」
「愛子は、一生結婚なんぞしなくていい。ずっとパパと暮らそう。」
真澄は愛子を膝に抱き上げた。
「真澄さん、そんなこと、軽々しく愛子ちゃんに言うものじゃないわ。」
「俺は本気だぞ。愛子ひとりくらい、一生養って行ける。」
「親の方が先に死ぬのよ。愛子ちゃん、取り残されたら可哀相じゃない。」
「愛子ちゃんには、幸せな結婚をして欲しいわ。」
「愛子は嫁にはやらんぞ。どこへも嫁がなくてもいいんだ。なんなら、宝塚に入れてもいい。」
「真澄さんったら…。」
マヤは呆れて二の句が継げなかった。
「マヤ、来週はその『ようくん』とやらを見に行くぞ。筒井筒の例もあるんだ。子どもの口約束と言っても馬鹿にできるものじゃない。」
「来週、マヤのスケジュールは空けておけよ。」
「はいはい、判りました。」
マヤは真澄の愛子への盲愛ぶりに、首を竦めて見せた。



 翌週、日曜の午後、マヤは真澄と連れだって、オンディーヌの幼稚部に稽古の見学に出た。
「これは速水社長、北島さま、ようこそおいで下さいました。」
オンディーヌの幼稚部の教師がふたりを歓迎した。
「今日は愛子さまのご見学で?」
「ああ。いつも愛子が世話になっている。今日もよろしく頼む。」
マヤと真澄は稽古場の隅に腰掛けて、稽古の様子を見学した。
柔軟体操、発声練習が済むと、グループごとの役づけの振り付けに入る。
愛子は自分の順番が来るまで、男の子と楽しそうに話し込んでいた。
「あれが『ようくん』か。」
真澄は苦々しく、愛子と連れだった男児を見やった。
見ると、体格がよく、スラリと背の高い、整った顔立ちの綺麗な男の子だった。
愛子と並ぶと、雛人形のように似合いの子ども達だった。
「まあ、可愛らしいこと。」
マヤは目を細めて、愛子と男の子のふたりを眺めた。
真澄は憮然として、押し黙った。
やがて、愛子と『ようくん』の順番が来る。ふたりはダンスの振り付けを受け、振り付け通りに踊って見せた。
幼稚園児とも思えぬ、的確なダンスだった。
真澄は愛子の成長ぶりに、思わず口もとを緩め、笑みをこぼしていた。
愛子はバレエの基礎が出来ているので、ダンスも巧く、のびのびと踊る姿には、我が子ながら真澄は見惚れた。
「愛子、巧くなったな。」
「ほんと。ようくんともお似合いだわ。」
マヤのその言い分に、真澄はまた不機嫌に渋面を作った。

やがて稽古も終わり、子供達全員揃って教師に礼をし、口々に挨拶を交わして散っていった。
愛子はマヤと真澄の元に駆け寄ってくる。
「パパ!ママ!」
「愛子、上手だったぞ。」
「愛子ちゃん、お疲れさま。上手になったわね。」
「ほんと?愛子、上手だった?」
「ああ。愛子が一番だ。パパは嬉しいぞ。」
「さあ、愛子ちゃん、今日は一緒に帰って早くお休みなさいね。」
「うん!愛子、お腹空いた。」
親子は揃って車で帰宅した。



 それからしばらく経ったある日曜日。マヤが遅く帰宅すると、真澄にあやされながら、愛子はどこか元気が無く、しょんぼりとしていた。
「愛子ちゃん、どうしたの?今日は元気がないわよ。」
「例の『ようくん』だがな。」
真澄が説明した。真澄の機嫌は気味悪い程良かった。
「ご両親の転勤で、オンディーヌを辞めたそうだ。」
「突然の別れだったらしい。」
「ああ、それで。」
マヤは納得した。
「愛子ちゃん、いらっしゃい。」
マヤは愛子を膝に呼んだ。
「愛子ちゃん、ようくんが居なくなっちゃって寂しいの?」
「うん…もう、ようくんとは会えないのかな…愛子、寂しい…。」
「愛子ちゃんが元気でお芝居を続けていれば、きっとまた会えるわよ。」
「愛子ちゃんは、ようくんのことが好きだったのね。」
「うん…。」
「愛子ちゃん、誰かを好きになるって、素敵なことよ。とっても大切なことよ。愛子ちゃんは大事な経験をしたわね。」
「生きていれば、いろんなことがあるわ。お別れすることもあるのよ。それも、愛子ちゃんには大事なことよ。」
マヤは愛子に優しく教え諭した。
「愛子、ようくんが好き。また会いたいな。」
「そうね。いつかまた会えるといいわね。」
「愛子ちゃんがテレビのお仕事をすれば、ようくんも、きっと見ているわよ。愛子ちゃん、またテレビのお仕事、する?」
「うん!」
「じゃあ、愛子ちゃん、頑張ってお仕事してね。ママも見ているから。」
「もうお休みなさい、愛子ちゃん。」
「はあい。お休みなさい、ママ、パパ。」
「ああ、お休み、愛子。」



 幼くして、愛子は仄かな恋慕、人を恋うる情を知り、突然の別れという人生の不条理にも向き合った。
マヤは愛子の成長には何よりの情操教育が出来たと、心から喜んだ。
真澄は真澄で、愛子についた「虫」が居なくなり、心から愉快そうだった。
「真澄さん、そんなに露骨に喜んだら、愛子ちゃん可哀相じゃない。愛子ちゃんなりに傷ついているんだから。」
マヤは真澄を諫めた。
「なに、子どもの成長は早いものだ。愛子もぐんぐん成長して、じきに忘れてしまうさ。」
「あら、そうとは限らないわよ。初恋の思い出は一生ものなんだから。」
「愛子も、いい経験をしたな。またテレビCMの仕事を準備させよう。」
「そうしてあげて。この間の『具が大きい』カレーのCMは大好評でしょう?」
「今度は七五三の着物のCMでもどうだ?」
「愛子ちゃんが喜ぶなら、私は異存はないわ。愛子ちゃんの気持ちを大事にしてあげてね。」
「まあ、仕事のことは任せてくれ。十分うまくやるさ。」
「頼んだわよ、真澄さん。」


それから程なくして、愛子は七五三の着物のコマーシャルに出演した。
このCMも好評で、愛子は茶の間のアイドルの座を着実に確保していった。



 やがて、マヤが『紅天女』ロングランに入り、滅多に子ども達と過ごす時間が無くなった。
愛子があまり寂しがるので、真澄は日曜のソワレに愛子を連れて観劇に出た。
愛子は幼いながら、夢中で舞台に見入り、舞台に棲む魔物に取り憑かれたように、虹の世界を堪能した。
カーテンコールで、マヤは舞台上から愛子に微笑みかけた。
愛子は夢中でマヤに手を振った。
「すごぉい!ママじゃないみたい!」
「ママ、素晴らしいだろう?愛子の自慢のママだぞ。」
「愛子も、お芝居したい!ママみたいに!ママみたいになりたい!」
「そうか、そうか。ママが聞いたら喜ぶぞ。」
「ママはそれは大変な苦労をして、この役を掴んだんだよ。そのうち、愛子にも話してやろうな。」
観劇の興奮冷めやらぬ愛子は、その夜はなかなか寝付こうとしなかった。
真澄は愛子が寝付くまで、愛子についてやっていた。


その夜、マヤが帰宅する頃には、愛子はようよう寝付いていた。
真澄は子ども部屋から引き揚げて、夫婦のリビングでマヤを待っていた。
「ただいまぁ。今日は愛子ちゃんが見ているから、つい熱中しちゃったわ。」
「お疲れさん。愛子は大喜びだったぞ。寝かしつけるのが大変だった。」
「愛子ちゃん、なんて言ってた?」
「ああ、ママみたいにお芝居したいそうだ。」
「それは良かったわ。私が子どもに残せるの財産は、お芝居だけだもの。」
「マヤ、疲れただろう、風呂に入って、早くお休み。」
「そうするわ。真澄さん、今日はありがとう。」



 その後、愛子はオンディーヌで芝居を続け、年頃になると、宝塚音楽学校を受験した。
親元から離すのは真澄には実に忍びなかったが、愛子本人の頑とした強い希望だった。
みごと愛子は音楽学校の受験を突破し、2年後、晴れて宝塚の初舞台を踏んだ。
真澄は十分な寄付金を積み、真澄の絶大な庇護のもと、愛子は歌劇団からも大切にされた。
愛子は早くから注目され、抜擢につぐ抜擢で、若くして娘役トップとなり、その後、トップスター4代に仕える、宝塚の歴史に残る娘役スターとなった。



愛子。マヤと真澄の愛の軌跡は、愛子の舞台に結実した。
真澄はいつまでも愛子を慈しんでやまなかった。






終わり






2002/11/25

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