327000番ゲット・天使の羽根様リクエスト:では、リクエストの内容を。
 スーパー秘書・水城冴子から見た、大都芸能社長・速水真澄の結婚を境に生じた変化をお願いします。
 要は、水城さんの視点で結婚前と結婚後の真澄様の変化の様子を書いていただきたい、
 と言う事です。
 例えば、何か失敗した社員に対しての怒り方の違いとか。マヤちゃんが会社に来ると分かっている日はいつもと違うとか。
 そして水城さんの鋭いツッコミ!これは欠かせませんよね。期待しています。
 細かい内容や設定はお任せしますので、ちょっとコミカルな感じに仕上げていただければ、と思います。

※天使の羽根さん、今回はレッスンシリーズではないリクエストですね、ありがとうございます。





 ある日の社長室。
マヤとの婚約を公にしたものの、互いのスケジュールのすれ違いで、なかなかマヤとの逢瀬の時間が取れない日が続くと、
真澄は苛々と煙草の本数ばかり増え、部下に不機嫌に怒鳴り散らしたかと思うと、呆然と窓の外を眺めて、
仕事もそぞろ手につかない状態に陥った。
会議の席でも、会議内容も全く上の空、煙草の灰を落としそうになったり、部下のグラスを間違えて手に取ったり、
煙草を逆さまに火を点けようとしたり、
会議の話題とはまるでかけ離れた発言をして、テーブルの下で水城に足を蹴飛ばされる、という場面も多々あった。
ホテルでの会合の席を中座したはいいが、不注意にホテルマンにぶつかって、ホテルマンが危うく掲げた盆を落としそうになる。
社長室での決裁の書類に押す判も天地を逆に押してしまい、秘書が仕方なくもう一度書類を作り直す羽目になる。
水城は、こうした一連の真澄の状態を、密かに『マヤちゃん欠乏症』と呼んでいた。



 そうした真澄を見かねた水城はいたしかたなく、マヤのマネージャーと連絡を取り、マヤのスケジュールを調整して、
真澄との逢瀬の時間を確保し、真澄にその旨を告げた。
「真澄さま、マヤちゃんといつからお会いになっていませんの?」
「…ああ、かれこれ3ヶ月にもなるかな。」
水城から顔を背けて憮然と真澄が答える。
「マヤちゃんのスケジュールを調整しました。明日、お会いになれますわ。」
真澄はハタと顔をあげた。
「そうか!」
真澄の声が弾んだ。
「会社が傾く前に、真澄さま、その態度を改めて頂きませんと。困りますわ。」
水城の厳しい指摘に真澄は言葉を失う。
「いや、俺は、別に…。」
「きちんとマヤちゃんとお会いになって、仕事に身を入れて頂きます。よろしいですね、真澄さま?」
「…判っている。」
真澄は渋面を作って、煙草に火を点けた。




 マヤとのデートを果たした翌日、真澄は水を得た魚のように、晴れ晴れとした表情で、生き生きと仕事をこなした。
そんな真澄に水城は内心、早く無事に結婚して欲しいものだわ、と呟いていた。



 やがて6月。マヤとの結婚式を間近に控え、真澄は毎日上機嫌で、部下が気味悪がるほど、周囲に対して鷹揚だった。
以前ならば、言下ににべもなく却下していた書類の不備も、懇切丁寧に不備を指摘し、手直しの要領を説明してやった。
水城が密かに笑いを声に忍ばせて真澄に声をかけた。
「真澄さま、随分とお優しくなられましたのね。みんな、目を丸くしておりますわよ。」
「悪いか?」
「いいえ、結構なお仕事振りで何よりですわ。晴れてご結婚が楽しみになりましたこと。」
真澄は気味が悪いほど上機嫌だった。
「ああ。俺も楽しみだ。結婚したら、しばらくは早く帰宅するぞ。水城くんもゆっくりしたまえ。」
「まあ。それはそれは。ありがとうございます。」


 6月、大安の日曜日、晴れてマヤと真澄の華燭の典が華やかに執り行われた。
それから1週間の新婚旅行に真澄はマヤと旅立ち、水城は留守を任された。
鬼社長が鍾愛の妻を迎えて、果たしてどんな様子で会社に帰ってくるのか、水城は興味津々だった。




 真澄が新婚旅行から帰り、出社したその日には、旅行先で手配されたベルギー製のチョコレートが社員全員に配られた。
留守中、水城に任せた仕事を引き継ぐと、てきぱきと真澄は仕事を終えて行く。
真澄は終始機嫌良い笑顔を絶やさず、秘書課の秘書たちにもその極上の笑顔を振りまくものだから、秘書達は嬉しがって凡ミスを連発した。
「キャー!社長の笑顔よ!私、見ちゃったわ!ああん、素敵だったぁ。」
「ずるいわよ、あなた!抜け駆けだわ。あたしだって見たかったわ。今度は私の番よ!」
秘書達は社長室に足を運ぶ順番のあみだクジをしていた。
「あなた達、しっかり仕事をしなさい!」
水城は秘書課に活を入れに行く羽目になった。
そして真澄に苦言する。
「真澄さま、お幸せなのはたいへん結構ですが、あまりお気軽に秘書に微笑みかけたりなさらないで下さいまし。
 秘書が舞い上がって、仕事になりませんわ。」
「大都芸能の仕事の鬼、冷血漢。このふたつ名も今やすっかり返上ですわね。」
「悪いか?俺は幸せなんだ。幸せでいてどこが悪い?」
真澄のその端的な物言いに水城は内心で肩をそびやかした。

取引先へのプレゼンテーションに失敗した音楽部門の課長が、びくびくと緊張しながら、社長室を訪れた。
以前ならば、一喝して、厳しく失敗を非難し、書類を突き返していた真澄だったが、今日はまるで人が変わったように寛容であり、情け深かった。
「一度や二度の失敗を恐れていては仕事にならん。何度でもやり直すんだ。決して最後まで諦めるな。」
真澄に暖かく激励されたその課長は、すっかり毒気を抜かれて、呆然として社長室を後にした。
そして、事細かに課員周囲に真澄の状態とことの次第を説明して回った。

 真澄の態度があまりにも急変したので、重役はじめ社員達は却って緊張が高まり、仕事の能率は上がっていった。
終業時刻も近くなると、ますます真澄の機嫌は良くなり、また、真澄はソワソワと時計を気にしだした。
すかさず水城がそれを突っ込む。
「真澄さま、そろそろお帰りになられては?マヤちゃんがお待ちでしょう?」
「そうなんだ。マヤが待っている。」
「新婚の社長ですもの、早くお帰りになっても誰も文句は言いませんわ。」
「そうか?それなら…。残業している社員には悪いが、俺は早帰りさせて貰うとするか。」
これまで、残業している社員を残して帰宅することなど、真澄には一度も無かった。
真澄が、最も遅くまで会社に残っていたものだ。
「せっかくの新婚生活ですもの。十分お楽しみになって下さいませ。真澄さま。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。水城くん、車を回してくれ。」
「かしこまりました。」
水城は車を手配させると、社長室に戻った。そして珈琲を淹れて、真澄を労う。
「真澄さま、お疲れさまでございました。お好きなプルーマウンテンですわ。」
「ああ、ありがとう。」
「真澄さまがお幸せそうで、何よりです。でも、真澄さま、真澄さまのお幸せには、社員一同の命運がかかっていることをお忘れなく。」
水城がしっかりと釘を差す。
「ああ。よく判っているさ。」
それを鷹揚に真澄は受け流した。そして水城の淹れた珈琲で一息つくと、真澄はデスクの椅子から立ち上がった。
「よし。では、今日は俺はこれで帰る。」
「はい、真澄さま。」
水城は本社ビル玄関まで真澄を見送ると、社長室に戻り、後片づけをした。

これから、しばらくは、毎日こんな調子でしょうね。
そう思うと、水城はこみ上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
水城は社長室で、ひとり、肩を震わせて笑い続けた。
そして、水城も、何年か振りに、早々に自宅に帰宅した。




「お帰りなさい、速水さん!」
マヤが使用人、速水邸付けの社員達とともに、速水邸の玄関に迎えに出る。
「ただいま。マヤ。」
「会社で何かいいことあったの?」
真澄の愉しげな様子に、マヤは尋ねた。
「マヤが待っている家に帰ることが、一番の楽しみだよ。」
真澄は言ってマヤの肩を抱くと、ダイニングに入った。
ふたりで揃って夕食をとる。
マヤは、その日英介と交わした会話、来週からの仕事の話題などを喜々として真澄に話した。
真澄はマヤの言葉のひとつひとつに頷きながら、食事を綺麗にたいらげた。
マヤと囲む新しい家庭での食事は、真澄には心躍るものだった。
それから、ふたりは夫婦のリビングにあがり、新婚の甘い時間を過ごした。
真澄は、かたときもマヤを傍から離そうとせず、マヤも真澄に甘えて、新婚の夜は更けていった。




 翌日からも、真澄は意気揚々と出社した。
マヤを得て、真澄はいよいよ男っぷりもあがったようだ。水城にはそう見えた。
真澄の有能ぶりは何年も身近で見てきた水城だったが、晴れてマヤと結婚して、ますますその能力を惜しげもなく発揮しているようだった。
会議の席での怜悧な分析、重役たちの意趣の汲み上げ、とりまとめ、素早い決断と的確な指示。
事業拡張への意欲的な展望と明晰なその展開計画。経常利益率への日々の綿密なチェック。
グループ事業全体への確たる把握と隙の無い経営判断。
真澄本来のリーダーシップの手腕は冴えに冴えた。
結婚前、マヤに逢えずに、仕事も上の空だった風情も今では嘘のように真澄からかき消え、溌剌とした社長ぶりが社員達にも非常に刺激になっていた。
若い頃から真澄の辣腕ぶりは見知ってきてた水城だったが、今が、真澄は男の旬を迎えているように水城には見えた。
かねて懸案だったアメリカの著名音楽プロダクションとの事業提携の話をまとめあげ、重役一同、揃って真澄を祝福した。
かつては冷血漢、と、あまり有り難くない綽名で呼ばれた真澄だったが、マヤとの結婚で真澄は人間味を増し、
人間の幅を豊かに広げたように水城には見て取れた。
経営者としての敏腕に人間らしい温情が加わり、さらに真澄の懐が深くなった、と水城は思った。
水城の目から見ても、それは改めて惚れ惚れするような仕事ぶりだった。
秘書課では相変わらず真澄の笑顔を見ようと、あみだクジが連日流行している。

今日は、新婚の休暇明けのマヤが、大都芸能本社に出社する日である。
真澄は朝から格別に上機嫌だった。
「水城くん、マヤが用事を済ませたら社長室に寄るように声をかけておいてくれ。」
「かしこまりましたわ。今日からマヤちゃん、お仕事再開ですのね。」
「ああ。次の舞台の顔合わせがあるはずだ。」
言うと、真澄はキリリと頬を引き締めて、未決裁の書類に向かった。


「社長、奥様がお越しです。」
あみだクジを引き当てた秘書が、マヤを社長室に案内する。
「ああ、ありがとう。」
重厚な扉を開けて、マヤが室内に案内された。
「やあ、奥さん。顔合わせは済んだか?」
真澄は微笑んでマヤを見つめた。
「ええ。速水さん。みんな元気そうで、舞台が楽しみだわ。」
水城はマヤにミルクティを、真澄には珈琲を淹れて運んできた。
「マヤちゃん、お久しぶりね。」
「はい、水城さん。」
マヤが楽しげに水城を振り返った。
「その様子だと、すっかり幸せな新婚生活なのね。」
「やだぁ、水城さん、からかわないで。」
マヤは頬を赤らめた。
そんなマヤが愛おしくてならぬという風情で、真澄はマヤと並んで社長室の応接ソファに腰掛けた。
水城も、マヤが高校生の時からの、長いつきあいである。
そのマヤが真澄と新婚生活とは、水城にも、感慨深いものがあった。
「マヤちゃん、すっかり綺麗になったわね。いいわね。私も結婚しようかしら。」
水城が軽口を口にする。
「水城さんほどの女の人に釣り合う男の人、そんなに滅多にいないんじゃないですか?」
「あら、要は本人同士の愛情でしょう?ねえ、マヤちゃん?マヤちゃんと社長がいい例だわ。」
「水城くん、結婚する気があるなら、俺がいくらでも相手は探してやるぞ?」
「いえいえ、冗談ですわ。私は仕事と結婚していますから。」
「社長とマヤちゃんがお幸せそうで、何よりですわね。」
その水城の言葉に、マヤは真澄と眼差しを交わして、含羞みながら微笑んだ。
「あら、あんまり当てないでちょうだい、マヤちゃん。こちらは一応独身なのよ。」
若くして新妻となったマヤは、水城の目にも匂い立つように美しかった。
「水城さんも早く結婚すればいいのに。」
「社長とマヤちゃんがお幸せなら、それが私には一番よ。つぎの『紅天女』、楽しみにしているわ。」
「はい、頑張ります。水城さん。」
真澄はマヤの肩をポンと叩いた。
「さて、奥さん、今日はどうしても抜けられない会合があってね。遅くなるから、先に休んでいてくれ。」
「判った。気をつけてね。速水さん。」
「ご両人、ご夫婦仲がよろしくて何よりですわ。いつまでも鴛鴦夫婦でいらして下さいませね。」
「ああ。うまくやっていくさ。なあ、マヤ?」
「速水さんったら…。恥ずかしいじゃない。」
そうしたふたりの微笑ましいやりとりを、水城はふっと笑って見守っていた。




 人妻となったマヤの『紅天女』の初日。水城は真澄に付いて、舞台を観劇した。
マヤの阿古夜は、いっそう若々しい純な村娘の乙女となり、神女・阿古夜は、より凄絶な演技の深みを増していた。
真澄の愛情が手がけたマヤの演技の幅はさらに広がり、神秘的な霊性をもかくやとばかりにマヤは舞台上に描き出した。
終幕を終えて、カーテンコールに輝くマヤの笑顔を眺めながら、水城は真澄に言った。
「真澄さま、マヤちゃんを上手にお育てになりましたのね。マヤちゃん、お見事でしたわ。」
「きみにそう言ってもらえるとは、心強いよ。」
真澄は満足そうに水城に答え、舞台のマヤに拍手を贈った。


真澄は、これからもマヤを支えマヤを守っていくだろう。
マヤも、真澄の愛に応え、さらに豊かに成長していくだろう。
真澄もまた、マヤを得て、人間の懐を深く大きく広げていくだろう。
水城には、ふたりの洋々たる前途が、遥かに開けているのが眺望できる気がしていた。
いつまでも、このふたりをしっかりと見守っていよう。
水城は、心もあらたに、決意していた。








終わり







2002/11/24

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