325325番ゲット・いずみ様リクエスト:リクエストですが、いろいろ悩んで考え、
 以前のリクエスト作品の「愛し子」の続きが読みたいと思いました。
 愛子ちゃんが幼稚園に入園して、幼稚園でお芝居をすることになり、役を貰います。
 マヤちゃんは、愛子ちゃんが、ただ楽しくお芝居をしてくれれば良いな〜と思い、当日を楽しみにしているのですが、
 愛子ちゃんにメロメロな真澄さんは、家でも本格的なお稽古させたり、もう大変・・・。というお話をお願い致します。
 お芝居の内容や役は、ユーリ様にお任せ致します。

※う、子育てのお話ですか〜。ホントに私、子育ての経験皆無なんですよ(汗)まあ、なんとかしてみますね。
※再アップにあたりまして:このお話の命名「愛子」は愛子内親王殿下ご誕生前のことです。世の中、皆考えることは同じ
なのだなあ、としみじみしたものでした。





 真澄とマヤとの間に生まれた長女、愛子は、大きな病気をすることもなく、すくすくと健やかに育っていた。
2歳違いの長男、雄大(たけひろ)も、周囲の手厚い保護に育まれ、元気に成長していた。



 愛子は無事幼稚園受験を終えて、この春から幼稚園に入園した。
大学までエスカレーター式の、ミッションスクール付属の幼稚園である。
受験でふるい落とされた、良家の子女が集まる幼稚園であった。
成城の速水邸から港区にあるその幼稚園までは、愛子は毎日車で送り迎えされた。
真澄は相変わらず社長業に忙しく、マヤも多忙な芸能生活を送り、なかなか子ども達と一緒に過ごす時間も持てなかったが、
子ども達はマヤにも真澄にも、よくなついていた。
愛子にも雄大にも、選任の乳母がつき、手厚く面倒を見ていた。
マヤが仕事で父兄の役を果たせないときは、乳母が代わって父兄役も務めていた。
愛子は真澄の方針で、満1歳から知育教室、3歳からバレエとピアノのレッスンを始めていた。
バレエは松山バレエ団の幼稚部、ピアノは自宅に個人レッスンの教師が通っていた。知育教室には乳母が付いて車で通った。

大人に囲まれて育った愛子は、幼稚園で同じ年頃の子どもと一緒に過ごすのが楽しくてしかたないようだった。
大人に囲まれて育ったせいか、愛子は口も達者で物覚えも早い、年よりませた子どもだった。
キリスト教式の幼稚園のため、日曜日の午前中は子ども礼拝がある。代わりに月曜日が休園日だった。
たまたま真澄とマヤが揃って早く帰宅した日、子ども部屋のソファに真澄と並んで腰を下ろし、マヤは愛子に幼稚園の様子を尋ねた。
「愛子ちゃん、今日は何を習ってきたの?」
「うん、あのね、“はじめにかみはてんとちとをそうぞうされた”って、みんなで言うの。」
「創世記か。さすがはキリスト教式だな。」
「そうせいき?」
「聖書の言葉だよ。愛子。」
「おうたも習ったよ。」
「歌ってごらん、愛子。」
“ぱらぱらぱらと 雨よ 雨よ ぱらばらばらと なぜ落ちる 乾いた土を 柔らかにして きれいな花を咲かすため”」
愛子は子ども讃美歌の一曲を歌ってみせた。
「よしよし。上手に歌えたな。いい子だ。そら、ご褒美だぞ。高い高いだ。」
真澄は愛子を抱き上げて、高く掲げた。
きゃっきゃっと、愛子ははしゃいだ。
「マヤ、この子は音感がいいぞ。聞いたか。正確な音程で歌うじゃないか。」
真澄は愛子を膝に抱くと、マヤに自慢げに話しかけた。
「ピアノを習わせて良かったわね。愛子ちゃんに、あたしが追い越されそうだわ。」
マヤは雄大を膝に抱いてあやしながら、首を竦めてみせた。
「愛子、ピアノ、弾く!」
愛子は言うと、真澄の膝から駆け下り、子ども部屋のアップライトのピアノに向かった。
習ったばかりのバイエルを、楽しそうに愛子は奏でた。
真澄は目を細めて、ピアノを弾く愛子を眺めていた。
「愛子は本当に物覚えが早いな。いい子だ。」
真澄は立ち上がるとピアノに向かう愛子の頭を撫でた。
「愛子ちゃん、もう、おねむの時間よ。また今度ね。」
マヤは愛子を促した。
「ママ、こんどっていつ?」
愛くるしく、愛子は尋ねる。
「今度は今度ね。お休み、愛子ちゃん。」
「おやすみなさい、ママ、パパ。」
素直に愛子は頷いた。
子どもたちの入浴を乳母に任せると、マヤは真澄とともに、夫婦のリビングに引きあげた。



 入園して、一週間も経った頃、夜遅く帰宅したマヤが真澄とリビングでくつろいでいるところに、愛子の乳母の佐藤がやってた。
「真澄さま、マヤさま、愛子さまですが…」
「愛子がどうかしたのか!?」
真澄が語気を荒げる。
「いえ、ご心配とは反対です。イースターの行事で、お芝居をやることになりまして、愛子さまが役をいただきました。」
「イースター、復活祭か。それで、愛子の役とは?」
「『みにくいアヒルの子』の、子アヒル時代の役です。歌のソロもあります。」
「なんで愛子が、みにくい子アヒルなんだ!?」
真澄は不満そうに佐藤に問いかけた。
「身長の順とかで。白鳥役は、別のもっと大きなお子様がご担当とのことです。」
「そうなの。イースターの日ね。判った。なんとかその日はスケジュールを空けるわ。」
「真澄さん、愛子ちゃんが楽しくお芝居をしてくれればそれでいいじゃない。あたしは楽しみにしてるわ。」
「準主役というわけか。これはおおごとだぞ。」
「マヤの血を受けた子なんだ。子どもの芝居と言ったって、馬鹿にできるものじゃない。」
真澄は暫ししごく真面目に考え込んだ。
「真澄さん、そんなに真剣になることないわよ。愛子ちゃんさえ楽しくお芝居してくれればいいと、あたしは思うけど?」
「マヤ、東洋英和といえば、受験でより分けられた優秀な子どもだけの、元華族の家柄の子どもも集まる良家の子女ばかりの幼稚園だ。」
「愛子には、立派に役を演り果せてもらわねば。」
「佐藤さん、幼稚園の先生から芝居の台本と楽譜を分けて貰ってくれ。家でも稽古させる。」
真澄の物言いに、マヤは驚いた。
「真澄さん、そんな無理をさせるものじゃないわよ。」
「無理なものか。稽古は俺が見てやる。あと一週間か。夜7時には帰るから。」
マヤは、真澄の親バカぶりに、やれやれと溜め息をついた。



 翌日から、夜の8時には愛子のピアノ教師を連日呼び出し、真澄は愛子の芝居に稽古をつけた。
アヒルの子の誕生場面。次々と他の小さい子アヒルが殻を破った最後に、愛子の登場である。
「愛子、卵の殻から出るときは、もっと元気良く飛び出してごらん。」
卵の殻に見立てたダンボールを被った愛子は、えいっ、と、ダンボールから飛び出した。
「パパ、こう?」
「そうそう。上手だぞ。一番大きなアヒルの子だからな。元気良く飛び出すんだぞ。」
「うん。わかった。」
“なんでおまえさんだけ、こんな羽根の色なんだろう”
“やーい、やーい、みにくいアヒルの子!”
“おまえさんなんか、あたしの子じゃないよ”
真澄は台本を読み上げる。
アヒルの親子一同が舞台から去って、いよいよ、愛子の歌のソロである。
ピアノ教師の伴奏に合わせて、愛子が習ったばかりの歌を歌った。
“どうして どうして あたしだけが こんな羽根の色なの?”
“みんなと違う 羽根の色なの?”
“母さんアヒル、仲間のみんな どこへ行ったの?”
“あたしは ひとりぼっち あたしは みにくいアヒルの子”
“あたしは ひとりぼっち あたしは みにくいアヒルの子”

「よしよし。よく覚えたな。音程も正確だ。」
「愛子、みにくいアヒルの子は、どんな気持ちだ?」
「気持ち?うーんと、楽しい。歌が歌えて。」
「それは愛子の気持ちだろう?みにくいアヒルの子さんは、悲しいんだよ。」
「悲しいの?」
「そうだ。ひとりだけ、みんなと違う羽根の色で、醜いと言われて、お母さんにも捨てられるんだ。それで悲しくて仕方がないんだよ。」
「明日は悲しい気持ちで歌を歌う練習をしような。愛子。」
「うん。わかった。」
「いい子だ。」
真澄は愛子の頭を愛撫した。
「今日はもうお休み。」
「先生、ご苦労さま。また明日もよろしく頼みますよ。」
真澄はピアノ教師に声をかけると、佐藤に愛子の入浴を託し、子ども部屋を後にした。



 それから一週間、真澄は愛子に付きっきりで、悲しい歌のソロを覚え込ませた。
やがて迎えた、イースター当日。
『イエスは言われた。
「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる。生きていてわたしを信じる者はだれも、決して死ぬことはない。
 このことを信じるか。」(ヨハネによる福音書11:25,26)』
これが、この日の聖句だった。
“神様は そのひとり子を 世の中にくださったほど 世の人を 愛されました”
子ども礼拝で、園児達が子ども讃美歌を歌う。
説教、献金、祈祷、と礼拝が進み、子ども礼拝は終わった。
子ども礼拝のあと、昼食をはさんで、講堂で演芸会が父兄を前に披露される段になった。
マヤは真澄と連れだって、父兄の席につく。
周囲は盛装した父兄の群れで、華々しかった。
「真澄さん、ずいぶん愛子ちゃんのお稽古したみたいだけど、愛子ちゃん、無理はさせてないでしょうね?」
マヤは念を押した。
マヤはこの一週間はドラマ撮影で連日帰宅が遅かった。真澄と愛子の稽古風景は、マヤは目にしていない。
「まあ、見てのお楽しみだ。さすがは俺の愛子だ。上々の出来だぞ。愛子は賢い子だ。親の欲目抜きで、な。」
“チューリップ組さん、『みにくいあひるの子』始まりです。”
アナウンスの後、芝居が始まった。

 園児たちは制服に手作りの紙の冠を被り、生き生きと、楽しげに芝居を演じていく。
「愛子ちゃんだわ。」
マヤは愛子の登場に目を細めて微笑んだ。
真澄は、ビデオ撮影は乳母の佐藤に任せ、じっと舞台を見入っていた。
愛子のみにくいアヒルの子は、表情も豊かに、仲間はずれを悲しんだ。
そして、歌のソロ。
幼稚園児とも思えぬ、澄明な深い悲しみが、正確な音程で、朗々と歌い上げられた。
マヤは思わず、胸が詰まった。
愛子が歌い終えると、父兄の席から、しぜん拍手が湧き起こった。
真澄は、してやったり、とマヤの膝を叩いた。
芝居は順調に進み、白鳥に変身したみにくいアヒルの子が歌を歌い終え、終幕となった。
父兄の席からは、盛んな拍手が贈られる。
園児達は演壇の上に一同に集められ、記念撮影が行われた。
そのあとは年長組の楽器の合奏が行われ、演芸会は無事終了した。


幼稚園から色鮮やかなイースターエッグを貰って、愛子はマヤと真澄のもとに駆け寄ってきた。
「パパ、ママ!」
「愛子!よくやったぞ!」
真澄は愛子を抱き上げた。
「あら、こちら、みにくいアヒルの子さんのお父様?お芝居、お上手でしたわよ。」
周囲の父兄が声をかける。
「どうもありがとうごさいます。」
マヤは深々と頭を下げた。
「お母様は『紅天女』の北島マヤさんですのね。お母様の血をひいて、将来が楽しみですこと。」
「いえ、まだ、そんな…」
マヤは言葉を濁した。
「お褒めにあずかり、ありがとうございます。この子ともども、今後ともどうぞよろしくお願いします。」
真澄が、言葉をかけてきた父兄に如才なく挨拶した。
「さて、帰ろう、マヤ、愛子。」
真澄は迎えの車に愛子を抱いて乗り込んだ。



「愛子、今日はいい子だったな。パパの自慢の娘だ。」
「今日はご馳走だ。何でも好きなものを食べていいぞ。」
「真澄さん、甘やかして…。」
マヤが諫めたが真澄は意に介さず、膝に抱いた愛子の頬を撫でた。
「愛子、ハンバーグが食べたい。あと、ケーキも!」
元気良く、愛子は真澄に答えた。
「そうか、そうか。判った判った。」
「今日はママもパパも一緒で、愛子、嬉しい!」
「愛子ちゃん、お芝居、楽しかった?」
マヤが尋ねた。
「うん!楽しかった!」
「みにくいアヒルの子さんが悲しいとね、愛子も悲しくなっちゃったけど。」
「愛子ちゃん、上手だったわよ。パパがよく教えてくれたおかげね。」
「愛子、またお芝居がやりたいな。」
「ほんとうか?じゃあ、オンディーヌの幼稚部にでも入れるか。どうだ?マヤ?」
「愛子ちゃん、お芝居、好きなの?」
「うん。好き。」
「やはりマヤの子だけあるな。芝居も習わせてみよう。」
「6歳の6月6日になったら、日舞を習おうな。芸事を始めるのには佳い日だ。」
「真澄さん、そんなに習い事ばっかり…愛子ちゃん、忙しくて可哀相だわ。」
「大切な我が子だ。どんな才能を開花してくれるか判らない。子どもの可能性は無限なんだ。チャンスは幾らでも与えてやりたい。」
「やれやれ。真澄さんの子煩悩には叶わないわ…。」
マヤは呆れて、溜め息をついた。


その夜は英介もダイニングに降り、珍しく家族一家揃って楽しい夕食のひとときを過ごした。
愛子ははしゃぎ、雄大も元気な食欲を見せた。
真澄は愛する家族に囲まれて、ひとときの幸福を満喫した。



 愛子はその後、劇団オンディーヌの幼稚部に所属し、天賦の才能の片鱗を覗かせた。
真澄によく似た美貌を兼ね備えた愛子は、オンディーヌの幼稚部でも一番の出来を見せた。
「カエルの子はカエルということだな。」
真澄はマヤを抱き締めて、愛子の芸達者ぶりを心から喜んだ。
「マヤ、いい子を産んでくれてありがとう…。」
「真澄さんの子だもの、どんな切れ者になるか判らないわよ。」
「愛子は子役デビューさせるか。どうだ?」
「あの子も、お芝居に夢中になるのかしら…。」
「大都芸能社長令嬢、生まれついての女優かもしれないぞ。」
「あたしは、愛子ちゃんも雄大くんも、元気で素直な優しい子に育ってくれれば、それでいいの。」
「甘い母親だな、マヤも。」
「あたしは…自分が父親を知らないで育ったから、愛子ちゃんも雄大くんも、幸せな子だと思うわ。真澄さんに大事にされて。」
「俺も、父親の愛情には飢えて育った。だからこそ、我が子にはそんな思いをさせたくはないんだ。決して。」
「マヤも、愛子も雄大も、やっと手に入れた俺の宝だ。大切にするさ。いつまでも。俺の目の黒いうちはな。」
「真澄さん…あたし、幸せよ…」
「マヤ…きみの幸せが、俺の幸せだ…」
愛する我が子を得て、マヤと真澄の絆も、いっそう深まったようだった。



 愛子は5歳半で、テレビCMデビューした。
愛子の愛くるしい美貌は、茶の間でも評判を博し、愛子は一躍、子役スターの階段を登っていった。
大都芸能は、また一人、将来有望な子役を得た。
真澄は、愛子の周囲には厳重な注意を払い、世間の耳目から愛子を守った。


 我が子よ、愛する我が子よ。大きくその翼を広げ、空高く羽ばたいてくれ。
真澄は遥かな希望に満ちた愛子の将来を、日々夢大きく育てていった。








終わり






2002/11/23

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