324000番ゲット・みっしー様リクエスト:未刊行部分のお話で申し訳ないのですが、
 「紅天女」の演技に苦しむマヤに速水さんが紫の薔薇を投げつけ踏みにじるシーンがあります。
 どうしてもこのシーンは許せません。
 紫のバラの人としての最期の賭けですが、それによってマヤがどれ程苦しんだか思い知って頂きたい。
 速水さんにも同じように苦しんで頂きます。設定、展開はお任せします。
 でも最後はやっぱり幸せにつながるように、もしくはハッピーエンドがいいなぁ〜と矛盾したことを考えています。
 ふたりの幸せがわたしの幸せですから・・・よろしくお願いします。

※未刊行部分当該シーンの台詞はそのまま引用しています。未読のかたはご参考までにどうぞ。





「このままでは北島マヤの『紅天女』は失敗しますわよ!いったいどうなさるおつもりですか!?紫のバラのひと!」
「ここまできて失敗したら、あなたの責任ですわよ!」
水城が真澄に詰め寄った。
「わかっている…。」
真澄は窓の外を眺めながら、煙草を燻らせた。



魂の片割れ…か…。
年も姿も自分もなく、出逢えば互いに惹かれ合い 求めてやまぬもう半分の魂…。
早くひとつになりたくて 狂おしいほど相手を乞うる…と…。
本当だろうか…?
もし、そんな相手に出逢ってしまったら、一生惹かれ続けるのだろうか…?


試演まで、あと僅か…。
「紅天女」の恋がまだとは…。


“ありがとうございます 紫のバラのひと”
“一度でいい ひとめあなたにお会いできたら…”
“この劇場のどこかにあなたがいらっしゃるのですね”
“もしあたしが『紅天女』を演れるようになったら まっさきにあなたに観てもらいたい…紫のバラのひと…
これがあたしの夢なの…”


マヤ…


真澄は赤線の引かれたマヤの『紅天女』の台本を閉じた。


もう一度、紫のバラのひととして働いてみるか…。
『紅天女』のために…。
そして、きっとこれが最後…!
どうすればいい…?
紫のバラのひととして最後に俺はあの子に何をしてやればいい…?
どうすることがあの子にとって一番いいことなのか…。
あの子が自分を取り戻し、溌剌と舞台の上で『紅天女』の恋を演じることができるようになるためには…。
なにをすればいい…?
紫のバラのひととして?


真澄は一週間の特別休暇をとり、マヤのために動くことを決意した。社員の誰もが真澄の休暇を信じようとはしなかった。


一週間の特別休暇…。
誰も信じない…か。
そうだろうな。
俺も自分が信じられない。
だが、今動かなければきっと俺は一生後悔する…。
マヤ…。
初めてあの子の舞台を観たときから心惹かれて…。
長い間 舞台のたびに紫のバラを贈り続けていた…。
一度も名乗りをあげず 逢うこともなく…。
あの子のせつない想いを知りながら…。
逢えば傷つけると思い、それが恐くてずっと影の存在でいた。
一生それでいいと思っていた…。
ただの自己満足だ…。
そして結果的にあの子を傷つけてしまった…。
紫織さんのしたこととはいえ、すべての責任は俺にある。
壊れた心はもう元には戻らない…だが、『紅天女』は…!
あの子をもう一度向かわせてやる、『紅天女』に…!
それが俺の最後の役目だ…!
“紫のバラのひと”としての…。




 真澄は紫のバラの花束を抱え、キッドスタジオを訪れた。
稽古が休憩に入る。
スタジオ入り口に佇む真澄にマヤが気づいた。
「速水さん…!」
「やあ…チビちゃん…。」
マヤは真澄の抱えた紫のバラに、思わずドキリとときめいた。
「速水…さん…」
周囲がざわつく。
「久しぶりだな。近くまで来たので寄ってみたのだが…。」
「速水さん…そのバラ、そのバラ、もしかしてあたしに…?」
真澄は吹き出し、高笑いをした。
「あきれた!自惚れの強い子だな きみって子は。」
「この俺がどうして、おチビちゃん、きみに紫のバラを贈らなきゃならないんだ。」
「きみの足長おじさんじゃあるまいし。これは他の人へのプレゼントだよ。」
マヤは真澄のその冷酷無比な言い分にカッと頬を紅潮させた。
「いつもの花屋が休みでね。別の店に急に用意させたら、これしかいい花がなかったんだ。」
「海外赴任の知人の見送りに用意したんだが、生憎予定がキャンセルになってね。だがまあ、きみにあげてもいい。」
「…結構です…!」
「遠慮するな。どうせもうきみに紫のバラを贈ってくれる人はいないんだろう?」
その言葉にマヤは愕然とした。
(速水さん…!?紫のバラのひと…!?)
(どうしてあなたがそんなことをあたしに…!?)
(あたしにそんなことを言うためにここへ…?)
「なんだ、その顔は。怒ったのか?」
「…いえ…!」
桜小路がマヤの肩を抱いて、マヤを支えた。
「速水さん、どうしてそのことを?」
桜小路が尋ねる。
「“恋人”のおでましか?チラッと噂を聞いてね。」
「デビューした時からのファンも、北島マヤのあまりの演技の下手さに見限ったって話だが…。」
「なるほど、さっきの稽古をみていればよく判る。」
真澄の冷たい言葉の棘が、マヤの胸に突き刺さる。
「速水さん…!」
桜小路が抗議するように真澄に呼びかけた。
「きみも気の毒だな、桜小路くん。いつか舞台の上でこの子と素晴らしい恋を演じたいと言っていたが。」
「舞台の上で観客は片思いの一真の、空回りの恋しか観られないだろう。」
「そんな芝居、俺だって観たくもない。」
皮相に真澄は言葉を続ける。
「この子が『紅天女』候補だって?あの姫川亜弓と『紅天女』を競うだって?月影千草も老いたものだな。」
真澄は哄笑した。
「酷い…やっぱりあいつ、噂通りの冷血漢よ…!」
周囲から、そんな声も漏れた。
黒沼は、黙って成り行きを見守っていた。
マヤはガチガチと震え、涙を流していた。
「どうした?口惜しいのか?真っ青だぞ。」
「口惜しがるほどのプライドがまだおまえの中にあったのか?」
(速水さん…!紫のバラのひと…!)
「マ…マヤちゃんは誰よりもデビューした時からのファンの足長おじさんに『紅天女』を観てもらいたがっていたんです…!」
「その人がもう二度と会えないっていうから、彼女、悲しくて稽古に身が入らないだけです…!今にちゃんと立ち直って…」
周囲のキャスト達が、マヤを支えて、マヤを弁護する。
それに真澄は哄笑で応じた。
「何が可笑しいんですか!?速水さん!酷いわ…!」
キャスト達が抗議する。
追い打ちをかけるがごとく、真澄はさらに憎々しげに言葉を継ぐ。
「チビちゃん、きみは紫のバラのひとに見せるためだけに今まで芝居をやってきたのか?」
「そんな気持ちは、さぞ迷惑だったろうな。きみの足長おじさんは…。」
(迷惑…!?あたしの気持ちが…!?)
「考えてもみろ。観客はきみの足長おじさんだけじゃない筈だ。」
「きみだって昔舞台を観に行った時客席でワクワクしながら幕が開くのを待っていたんじゃないのか?」
「きみは以前俺に言っていたな。お芝居を演っている時だけはワクワクして生きているって気がすると。あたしにはお芝居しかない…と!」
「それが、たった一人のファンが見限っただけで、もう芝居の情熱が冷めたのか!?」
「まったく、この程度の役者だったとはな。姫川亜弓もさぞ呆れることだろう。聞けば彼女は一人で特訓中だそうだ。」
「姫川亜弓は『紅天女』に命を賭けているそうだ。」
マヤは真澄の言葉で、もう一人の『紅天女』候補を思った。
「おっと。これ以上は時間の無駄だ。」
「きみへのお別れの挨拶がわりだ。プレゼントしよう。」
「さ!受け取るがいい…!」
真澄は紫のバラの花束をマヤの足元へ放り投げた。
「さあ、どうした?拾いたまえ。紫のバラが届かなくて悲しかったんだろう?」
真澄のその挑発に思わずマヤはカッと怒りを募らせ、花束を拾うと、真澄に向かってバシリと思い切り投げつけた。
「あなたなんか…!あなたなんか…!大っ嫌い!」
「大っ嫌い!」
涙ながらに、マヤは叫んだ。
真澄は含み笑いをすると投げつけられたバラを一輪手に取った。
「やっと、いつものきみらしくなったな。」
「いいか…覚えていろ…!俺だって芝居の出来ない役者は大っ嫌いだ!」
捨て台詞を残し、真澄はくるりとマヤに背を向け、床に散った紫のバラをぐしゃりと踏みつけて、靴音も高く、稽古場を後にした。
(速水さん…!)
マヤは震えながら、その場に頽れた。



怒れ…!マヤ…!
そして俺を憎め…!
憎しみは悲しみを忘れさせてくれる。戦いの意欲をかき立てる…
そして、『紅天女』に向かえ…!どんなことをしても…!
これがまず手始めだ…!



真澄は入院先の亜弓を訪ね、マヤは素晴らしい阿古夜の演技をしていると虚言を吐いて亜弓の闘志を掻き立てた。
そして、翌日、梅の里にヘリコプターで月影千草を迎えに行った。

(頼みましたよ、月影先生…。今、あなたの力が必要なのです…!)




叶わぬ恋とは知りながら
恋にやつれ 恋を恋し
おまえを信じたい
愛が 欲しい とこしえの
強い 強い 愛が欲しい
いつかは別れの 恋とは 知れども…

愛 それは悲しく
愛 それは切なく
愛 それは苦しく
愛 それは儚く
ああ、愛あればこそ 生きる喜び
ああ、愛あればこそ 世界は一つ
愛ゆえに 人は美し



そして、真澄は伊豆の別荘に独り、隠った。酒を呷る。

マヤ…おまえに憎まれるのは、誰に憎まれるよりも辛い…。
おまえが苦しむ姿を見るのは、誰が苦しむ姿を見るよりも俺も苦しい…。
だが、マヤ…、信じてくれ。俺がおまえにしてやれることは、ただ、この俺の真実を貫くことだけ…!
マヤ、おまえの微笑み、
マヤ、おまえの輝き、
マヤ、おまえのすべてを、俺は愛している。
マヤ、どうか許してくれ、俺の無能な愛を。
マヤ、どうか見つけてくれ おまえだけの真の演技を。
マヤ、おまえが他の男のものとなったら、俺は気が狂うかもしれない…。
マヤ、愛している…!おまえだけを!
この苦しさはどうだ…。
おまえを傷つけた。おまえの傷が深いほど、俺の傷もまた深い。
なんという痛手。心がちぎれそうだ…。
苦しい。…苦しい…!
この懊悩から、解き放たれる時は果たして来るのか…。
悲しく、切なく、苦しく、儚い、この想い…。
過ぎた時は帰らない。
壊れた心は取り戻せない。
同じ時は二度と訪れない。
マヤ、愛すればこそ、俺はおまえを追い詰めた。
マヤ、おまえはどんなにか、苦しんだことだろう。
それは他ならぬ俺が、一番よく知っている。
切ない…。
俺の心もまた、傷に痛む…。
魂の片割れ…か…。
マヤ…この行き場の無い想い…、俺にはそれがただ苦しい…。
人生は旅だと言うけれど、俺は旅に病んで、夢ばかりが枯野を駆け巡る…。
おれの心のなかに、冬枯れの原野が広がっている。
寂寞たる原野が。
俺は独り、この茫漠の荒野を心に抱えて、何処にも俺の想いの行き場所は無い…。
マヤ、おまえの『紅天女』…。
極限まで追い詰めたら、おまえは真価を発揮してくれるだろうか。
俺のしたことが、おまえを『紅天女』に向かわせただろうか。
マヤ、俺をどんなにか憎んだことだろう…。
憎まれることは慣れている筈の俺が、おまえに憎まれることが、今は何より辛い…。
胸が、痛む…。こんな想いは初めてだ…。
マヤ、俺を許すと言ってくれ…。
俺の…マヤ…!

真澄の深い懊悩は続いた。



 一方マヤは眠れぬ夜のしじまの中、ひとり虚空を見上げていた。
速水さん…紫のバラのひと…。
どうしちゃったんだろう、あたし…涙が止まらない…。心が凍りついちゃったみたい…。
胸の奥が冷たい…。
今まであたしは、なんのためにお芝居をやってきたんだろう…。こんなこと、考えたこともなかったのに…。
誰のために…?
自分のため…?
紫のバラのひとのため…?
ううん、違う。もっと違う、何かのため…。ただ、お芝居していることが好きだったのに…。
終わったんだ…なにもかも…。
紫のバラのひとも、あたしのちっほけな片思いも、何もかも…。
何も、残っていない…何も…。
あるのは、『紅天女』だけ…!
そう、『紅天女』…。あたしにとっての、最後の夢…。そう、あとは試演だけ…。
速水さん…紫のバラのひと…。あなたはなぜ今さらあたしにあんなことを?
どうして…。
速水さん…あたしは…でも、あたしは…やっぱり、あなたを憎むことなんて出来ない…!
何があっても、あたしは、速水さん、あなただけが好き…。
…速水さん、あなたはあたしを怒らせて、闘いに向かわせようとしたの?
あの紫のバラは、そのためのバラだったの…?
『紅天女』のために?
もしそうならば…。
あたし、あたしは…。
…打ち明けよう…何もかも。
速水さん、紫のバラのひと。あたしはきっと『紅天女』に向かってみせる!だから…全てを打ち明けよう…!
速水さん、あたしはあなただけを、愛しています…!



 真澄の別荘の電話が鳴った。
「聖か。どうした。」
“至急です。今からそちらにマヤさんをお連れします。”
「何だって!?」
“マヤさんはご存じです。紫のバラのひとが誰なのか。”
“マヤさんはこの僕に、すべてを打ち明けてくださいました。”
“マヤさんとお逢いになって下さい。”
電話はそこで切れた。真澄は絶句した。


何だって!?マヤが正体を知っている!?
では、マヤの恋の相手とは、この俺か…!?

真澄は俄には信じ難かった。

マヤはすべて承知していたというのか…?
そのうえで、俺の仕打ちに耐え、俺のもとに来るというのか…!?



神よ
我が想いのただ中に 今 この時を止めよ
めぐる星々 天駆ける光も 彼方にしばし 憩いせよ
さだめの朽ちてゆく前に 祝福を拒まれた者の差し伸べる手を  この手を とりたまえ。




 車のエンジン音に、真澄は我に帰った。
聖に導かれて、マヤが玄関を開けて別荘に入ってきた。
真澄は我知らず、マヤに手を差し伸べていた。
マヤは真澄の広げた腕に飛び込んだ。
それを見届けて、聖はそっと去っていった。

「速水さん、紫のバラのひと…あたし、あなたが好きです…あなただけを、愛しています…!」
「マヤ…!俺は夢を見ているのか…?」
「夢じゃありません…あたしは…あたしは…。」
マヤはあとは言葉にならなかった。滂沱たる涙が、マヤの頬を伝った。
真澄に縋りついて、マヤは真澄の腕の中でひとしきり涙した。
「マヤ…俺もおまえを愛している…。」
マヤがハタと顔をあげた。
「速水さん…?」
「ああ、ああ。ずっと長いこと、おまえだけを愛してきた…マヤ、おまえだけを…。」
「俺を許してくれるか…?」
「速水さん…あたしを愛してください…あたしを、速水さんだけのものにして…今だけでもいいから…。」
「速水さん、紫のバラのひと…。」
「俺を憎んでいないのか…?」

愛は、すべての憎しみに勝る。今こそ、運命の扉は開かれた。

「いいえ、いいえ、速水さん…ずっと、あなたが慕わしかった…あなただけが恋しかった…。」
「マヤ、俺もだ…。」
「マヤ…俺だけのものになってくれるか…?」
「あたしをあなたのものにして…愛しています…!」
「マヤ…!」


その夜、ふたりは苦しかった恋の道程を乗り越え、長かった片恋の互いの想いを実らせた。
運命の歯車はそして、ふたたび音もなく回り始めた。



愛 それは甘く
愛 それは強く
愛 それは尊く
愛 それは気高く
ああ、愛あればこそ 生きる喜び
ああ、愛あればこそ 世界は一つ
愛ゆえに 人は美し



真澄への愛を叶え、マヤは『紅天女』の愛と阿古夜の恋をその身に全うした。
真澄の腕の中で、真澄に愛され、『紅天女』の愛の世界に、マヤは踏み出した。
翌日。真澄の愛を得て、試演前の最後の稽古でマヤは恋の演技を完成させ、試演に向かった。
結果は、ただ、神のみぞ知る。
マヤの阿古夜は、無償の愛を貫く阿古夜だった。
甘く、強く、尊く、気高い、マヤの阿古夜の恋の演技。
この世の崇高な真理が、マヤの阿古夜に宿っていた。それは、観る者すべての心に鋭くその存在を訴えた。
マヤは己を無くし、舞台の上で『紅天女』を描き出した。
ここは神秘の梅の谷。マヤは阿古夜。千年の梅の木の精を宿す娘。
風に神宿り、火に神宿り、水に神宿る。土に神宿り、岩に、樹に、神宿る。
人ももとは神。
すべて生命あるものは天と地の音楽によって育まれ、つぎつぎと天から降り注ぎ地から生まれくる神の息吹の音楽。
ここは音楽の満ちる里。
『紅天女』の極限の真理が、マヤに宿った。
誰もが、奇跡を観たと思った。



マヤ…とうとう、おまえの『紅天女』を観た…
俺は本望だ。
マヤ、おまえの『紅天女』。
俺は生涯、この日を忘れないだろう…。



愛あればこそ、人は誰しも、この世の真理を全うするのだろうか。
愛あればこそ、人は無限の可能性をその身に宿すのだろうか。
マヤ、おまえと手を携え、ともに歩んでいこう。
もうこの世の何事も、懼れるには足らない。



ああ、愛あればこそ 生きる喜び
ああ、愛あればこそ 世界は一つ
愛ゆえに 人は美し。









終わり









2002/11/22

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