321500番ゲット・cocco様リクエスト:寒い冬の日、関東地方に初雪が降りその中を速水さんとマヤちゃん、
 できれば結婚後の設定で二人の子供もいて三人で手を繋いで公園で雪だるまとか、雪合戦などしてみたりして
 速水さんにはしゃいでいただきたいなぁ、と。
 で、おうちに帰ったあと、夜はもちろん速水さんとマヤちゃんでお布団のなかであったまっていただく(笑)。
 原作の中で、速水さんが「雪は好きだ」って、言う台詞が個人的にとっても切なくてすきなんです。
 そこらへんの切ない感情も交えていただけたら・・・嬉しいです。
 なので雪の日を題材にしていただけたら・・・ほのぼのと。

※ということで、リクエストを多少変更させていただきまして参りたいと思います。





 マヤが晴れて真澄と華燭の典を挙げ、初めてふたりで迎える冬の季節。
その週末の厳冬の一日は曇天が続き、真冬の寒気は身を切るように冷たく、強い北風には誰しもが底冷えした。



 マヤはテレビ局から速水邸に帰宅し、テレビの天気予報を見た。
南岸低気圧が急速に発達して関東地方に接近、今夜は大雪の予想が出ていた。
リビングのカーテンを開け、窓の外を覗くと、天気予報通り、雪が降り出していた。
(初雪だわ…。)
マヤは窓に映る降りしきる大粒の雪をじっと眺めていた。
雪片は、はらはらと、激しい勢いで窓の外を舞っている。
(積もるかしら…。)

「奥様、若旦那さまのお帰りですよ。」
「あ、はい。今行きます。」
マヤは使用人、速水邸付きの社員と共に、玄関に真澄を迎えに出た。
「お帰りなさいませ。」
「お帰りなさい、速水さん。」
「ただいま。雪で渋滞に巻き込まれたよ。」
真澄はマヤに微笑んだ。ふたりは夕食を済ませ、夫婦のリビングに上がった。



「凄い雪ね。積もりそう。」
マヤが窓の外を見つめて言った。
「初雪だな。」
真澄は窓辺に佇むマヤを、後ろから抱きすくめた。
ふたりは窓の外の雪に見入った。
雪が降る。しんしんと。音もなく。雪は窓の外を狂ったように舞う。
防音壁で普段から静かな速水邸ではあるが、雪でさらに静かに、世界は沈黙しているようだった。
「雪は…好きだ…。」
真澄が呟いた。
「昔も、そう言ってたわよね。」
「ああ。雪はこの世の汚辱のすべてを包み込んで、清浄に浄化してくれる気がする…。」
「俺の汚れも穢れも、雪が清めてくれる…。」
「速水さん…。」
ふたりの間の空気は甘く、そしてどこか切なく、リビングに漂った。
窓の外は雪。しじまの中を闇も深く、豪雪の夜が更けていった。



 翌朝。日曜日。
マヤが目覚めて寝室のカーテンを開けると、豪雪は止み、澄み切った青空に朝日が眩しく煌めいていた。
「速水さん、起きて、起きて。」
マヤは真澄を揺り起こした。
「う…ん、疲れてるんだ、寝かせてくれ…。」
真澄の寝起きは悪かった。
「外はいいお天気よ。雪、見に行きましょうよ!」
マヤは真澄の私室の箪笥からダウンのスーツ上下と手袋を出してきた。マヤとお揃いのダウンスーツである。
「速水さん、ほら、起きて。シャワー浴びて。」
マヤは朝から元気一杯だった。
「やれやれ…。」
真澄はようやっとベッドから起き上がると、寝室付きのシャワーに消えた。
やがてダウンフェザーのガウンを纏って、真澄がシャワーから出てきた。
「速水さん、目、醒めた?」
「ああ。朝飯を食ったら、外に行こう。」
ふたりはダイニングに降り、朝食をとった。
マヤは知人から贈られた紅玉林檎のジャムをたっぷりとトーストに塗る。
真澄はいつも、スクランブルエッグにベーコン。使用人がテーブルに料理を配していく。
「速水さん、サラダもちゃんと食べて。」
「マヤ、今日はスケジュールは?」
「今日はオフよ。ゆっくり出来るわ。」
真澄はようよう、朝食をたいらげると、珈琲を飲みながら煙草を燻らせた。
「速水さん、早く外、行きましょうよ。」
マヤに急かされて、真澄は朝食の席を立った。
リビングでダウンスーツに着替え、手袋に雪靴を履いて、ふたりは早朝の散策に出た。



「わあ、綺麗!」
マヤが歓声をあげる。
成城の屋敷街は一面、雪景色に覆われていた。
家々の屋根、庭木はすっかり雪化粧され、朝日に街の雪が燦々と煌めいていた。
50センチは積もっただろう新雪を踏みしめて、真澄は近場の成城学園大学のグラウンドを目指した。
空は青く空気は澄み切って、身を切るように冷たく、吐く息は白くけぶった。
ひと気の無い大学グラウンドは一面の広大な雪の大広間と化していた。
新雪のその雪の輝く白さ。透き通る空の青にその清澄な白さは眩しく輝いた。
「キャー!処女雪よ!処女雪!」
マヤは駆け出していた。そして、誰も踏みしめていない処女雪に、バタリと倒れ込んで、自分の身体の痕を雪に残した。
そのまま、マヤはゴロゴロと雪の上を転がる。
「アハハハハ…!」
マヤの高笑いが、輝く青空に吸いこまれてゆく。
「空に抱かれてるみたいだわ。」
マヤが真澄を見あげて微笑んだ。
真澄は雪を床にして横たわったマヤに覆い被さって、マヤに口づけた。
冷えたマヤのくちびるに、真澄のくちびるだけが火のように熱かった。
真澄はマヤを抱き起こすと、周囲の深い雪を手繰って、雪をかき集めた。

「雪だるまを作ってやろう。」

真澄は器用に雪球を雪面に転がし、大きな雪の球を作った。
マヤも真澄に習って雪片を転がし、雪だるまの頭の部分を作っていく。
真澄はマヤの作った雪玉を、下部の雪玉の上に乗せた。
「わあ、出来た出来た!」
真澄は顔の部分に目と口を指でへこませて作り、雪だるまが出来上がった。
「可愛い!」
「もっと作ろうか。」
真澄は次々、雪だるまを作っては、ズラリと並べていく。
マヤは大喜びで、子どものように雪だるまの回りを駆け回った。
真澄もマヤにつられて、童心に帰ったように、心弾ませた。


ポツポツと、近所の人達もグラウンドに集まってきていた。
一部で雪合戦が始まっていた。
「マヤ、混ぜて貰おう。」
真澄は言ってマヤを連れて、雪合戦に戯れる一団に混じり、声をかけた。
「ご一緒していいですか?」
「どうぞどうぞ。」
「ほら、マヤ、行くぞ!」
真澄は雪球を作って、素早くマヤに投げかける。雪玉はみごとマヤに命中した。
「やったわね。行くわよ!」
マヤも負けじと、真澄に雪球を投げつける。真澄は素早く身をかわすと、近所の人々の雪合戦に混じって行った。
人々の歓声があがる。真澄はことごとく雪球を命中させた。
「速水さん、巧い!」
「もとピッチャーだからな。ほら、マヤ、行くぞ!」
「キャー!」
逃げるマヤの背に真澄は雪球を命中させた。
「ハハハハ…!」
真澄は久々に、心からの明るい笑い声をあげた。
ひとしきり雪合戦に興じると、真澄は近所の人々に礼を言い、作った雪だるまのもとへ戻った。
真澄はもう一度、今度は一番大きな雪だるまを作った。マヤの背丈の肩ほどまで、雪玉は積み上げられた。



日も高くなっいた。
「マヤ、そろそろ戻ろうか。」
「うん。ああ、楽しかった。」
「俺もだよ。」
「速水さんがあんなにはしゃぐなんて、あたし、初めて見たわ。」
「雪は好きだと言ったろう?」
速水邸に戻る道すがら、家々では人々が門前の雪かきに精を出していた。



 速水邸に戻ると、使用人が門から玄関までの雪かきも済ませていた。
「マヤ、一緒に風呂に入ろう。」
「えっ…?」
「冷えたから、よく暖まらないとな。」
真澄は恥ずかしがるマヤを連れて、浴室に入った。
真澄はびしょぬれになったダウンスーツと手袋を脱いでランドリーボックスに投げ入れる。マヤも着衣を脱いで、タオルで髪を纏めた。
バスタブにたっぷり湯を張ると、真澄はバスタブに長々と横になった。
「マヤ、おいで。」
マヤは含羞みながら、真澄の横に身を横たえた。
暖かい湯に浸かると、冷えた身体の隅々まで血が巡り出すのが判る。
「ああ、いい気分だ…。」
「ほんとね。」
真澄は湯の中で、思い切り身体を伸ばした。
しばらくふたりして湯に浸かり、マヤの頬が上気してくる頃、真澄は湯から上がった。
マヤも湯舟から上がる。
「ほら、よく身体を拭くんだぞ。」
真澄はバスタオルで念入りに身体を拭いた。
マヤが髪をまとめたタオルを解くと、マヤの髪からは雪の匂いがつと香った。
ふたりはバスローブを纏い、リビングに上がった。
真澄は内線で、ホットウィスキーを運ばせた。
「曇ってきたな。また降るぞ、これは。」
リビングの窓から外を眺めて、真澄が口にした。
温かいウィスキーにふたりは舌鼓を打ち、身体を暖めた。
「ひと休みしよう。マヤ。」
真澄はマヤの肩を抱いて、寝室に入った。
ふたりは羽根布団に潜り込む。
寝室に暖房は効いていたが、雪遊びの寒さを思い出して、ふたりは寄り添い、丸くなって深い眠りに落ちた。



 寝室の内線が鳴って、真澄は目を覚ました。
“お夕食ができております。真澄さま。”
「ああ。判った。今行く。」
真澄はマヤを揺り起こした。
「マヤ、マヤ。」
マヤはハタと身を起こした。
「今、何時?」
「もう7時だ。昼飯は抜いてしまったな。夕飯だぞ。」
ふたりはバスローブの上にふたり揃いのダウンフェザーのガウンを纏い、ダイニングに降りた。
夕食の箸を進めながら、マヤが呟いた。
「あの雪だるま、どうしたかしらね。」
「もっと増えていたら面白いな。」
「明日も休みだったらよかったのに…。」
「そうだな。」

夕食を終えて、ふたりはリビングに上がった。
再び、雪が降り始めていた。
真澄は熱燗の日本酒と肴を運ばせた。
「マヤ、おいで。雪見酒だ。」
真澄はマヤの掲げたお猪口に酒を注いでやる。
マヤは躊躇いがちに酒を口に含んだ。
真澄は手酌で、酒を呷った。

水に降る雪。白うは言はじ。消ゆ消ゆるとも。

しんしんと、雪は降る。
音もなく、雪は舞う。
静謐な夜。
ふたりの心にも、切なく雪は降りつもるようだった。



 寝室付きの浴室で洗面を済ませると、早々と真澄はマヤをベッドに誘った。
昼間ゆっくり眠ったので、ふたりの目は遅くまで冴えていた。
酒で暖まった裸の肌を重ね、ふたりは情交の時を刻む。
雪の夜。
沈黙する静寂の世界に、ふたりの秘やかな愛の時が、飽くことなく刻まれた。
雪に覆われた夜、時は音を立てずに、ふたりを包んで流れてゆく。
儚い雪片が掌に消えてなくなるように、ふたりの愛が消えてなくなることは決して無いと、ふたりは愛を確かめ合う。
雪に浄化された真澄の心の裡に、マヤへの愛は純粋に熱く燃え、情欲のほむらは真澄をますますの行為への没頭へと駆り立てた。
マヤもまた、心の裡に雪を降りつもらせ、真澄の腕の中で、愛の歓喜に幾度も身を震わせた。
窓の外は雪。
雪の夜に見守られ、ふたりはいつまでも愛し合った。

雪よ。天から降るこの白き奇跡よ。
夜をこめて、限りなく睦み合い愛し合うふたりに、神の祝福あれかし。

朝が来れば、また忙しい日常が始まる。
せめてこの夜の時こそ、世界の一切を遠く隔て、ふたりだけの愛の園に遥かに戯れることが許されるように。

愛しているわと、マヤが囁く。
愛しているよと、真澄が応える。

雪が浄化した純一な愛の交歓の時。
ふたりは手を携えて、白き銀世界の遥か彼方、遠い天園の愛の楽園へ、赴いていった。
其処は、ただ純粋な愛を貫く者だけに許される、彼方の楽園。
性愛の限りを尽くし、ふたりは愛の戦きに震えながら、天の園、神の楽園へと歩んでいった。


「厳粛な時」 “Ernste Stunde” R.M.Rilke 1900作

   誰かが 泣いている 今 世界のどこかで
    理由もなく泣いている 世界のなかで
     わたしのことを 泣いている

   誰かが 笑っている 今 夜のどこかで
    理由もなく笑っている 夜のなかで
     わたしのことを笑っている

   誰かが 歩いている 今 世界のどこかで
    理由もなく歩いている 世界のなかで
     わたしに向かって 歩いている

   誰かが いま死にかけている 世界のどこかで
    理由もなく 死にながら 世界の中で
     私を見つめる

   厳粛な 時。





雪の日。








終わり








2002/11/20

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