308308番ゲット・みっしー様リクエスト:リクエスト内容
 「紅天女」の試演でマヤが上演権を獲得、本公演までの真澄とマヤのお話をひとつお願いしたいな〜と・・・
 試演以降、真澄は時折見せるマヤの表情から信号はいつまでも赤ではない(古いですが)事を感じ、紫織との婚約も解消(理由は何でも可)し、
 マヤに告白しようと一大決心をします。折しもクリスマスシーズンでもあり、恋人達の待ち合わせのメッカでもある広場でクリスマスに
 マヤとの約束を取り付けます。当日、マヤは広場で待っているがなかなか真澄が現れず、不安な気持ちいっぱいになってしまいます。
 真澄はといえば仕事の都合、もしくは交通事情でなかなかマヤの元へたどり着けない。
 焦りまくる真澄!約束の時間に遅れること数時間、雪まで降ってきてとっても寒いです。果たしてマヤは待っているのか?
 この間のふたりの心情を中心に最後はやっぱりハッピーエンドで・・・もちろん真澄の愛を得て本公演は試演より数段素晴らしかったという事ですね。

※みっしーさん、メルマガで名作、拝見していますよ〜(^^)





 『紅天女』試演。
真澄への苦しい片恋の葛藤を乗り越え、恋の演技を完成されたマヤの阿古夜は圧倒的であった。
試演の場に居合わせた誰しもが、マヤの阿古夜に恋し、阿古夜の悲恋に涙した。
舞台の上でマヤは己れを無くし、紅天女そのものとなった。


試演の結果、『紅天女』後継者はマヤに決まった。
少女の頃からの夢を叶え、マヤは晴れて、『紅天女』の上演権を千草から譲り受けた。
マヤは初々しく頬を紅潮させ、人々の祝福を受けた。
発表会場。真澄はマヤに歩み寄ると、労いの言葉をかけた。
「チビちゃん、よくやったな。おめでとう。素晴らしい試演だった。」
「速水さん…。」
マヤは潤んだ瞳を見開いて、眩しげに真澄を見つめた。
「あたし…とうとうここまで来ました…。速水さん、ありがとうございます…。」
真澄はマヤの真摯な瞳に、思わず魅入られた。
「チビちゃん…」。
憧憬の表情で、マヤは真澄を見つめた。
真澄は初めて見るマヤのそうした表情に、内心で密やかに時めいた。
「本公演まで、忙しくなるぞ。身体に気をつけて、頑張りたまえ。」
「はい。速水さん。」



 3日後、大都芸能本社に、マヤが訪ねてきた。
応接室でマヤを待たせ、真澄は仕事を中断して、マヤに面会した。
真澄が応接室に入ると、パッとマヤの顔が輝いた。
マヤのその表情に、真澄は不意に胸が痛んだ。
内心の動揺を押し隠して、真澄は黙ってマヤの話を聞いた。
「『紅天女』の上演権の管理を、速水さん個人にお願いしたいんです。私独りでは荷が重いから…。」
「俺個人に、か?」
「はい。速水さんだけに。それと、私を大都芸能の所属にしていただきたいんです。」
「それに『紅天女』の上演は、大都劇場でお願いしたいんです。」
「それは…願ってもないことだ。しかし、一体どういう風の吹き回しだ?」
マヤは尋ねられて、恥ずかしそうに頬を染め、俯いた。
真澄は鋭くそのマヤの風情を凝視した。
「大都芸能は芸能社としては一流でしょう?『紅天女』は一流のプロデュースと一流の劇場で上演したいんです。」
「…判った。きみの希望通りにしよう。『紅天女』は俺に任せてくれ。」
真澄はキッパリと断言した。
マヤは心底安心したというように、真澄に微笑みかけた。
真澄はその笑顔にドキリと胸が高鳴った。
「では、手続きは後日、水城くんに手配させる。また連絡するから、それまで待っていてくれ。」
「はい、速水さん。よろしくお願いします。」
マヤはペコリと頭を下げ、応接室を辞していった。
真澄はマヤの変化に、驚きを隠せなかった。



 『紅天女』は本公演に向けて、順調に準備が進められていた。
大都芸能本社で、公演に向けての顔合わせがあった。
その集合日。
真澄の挨拶で顔合わせが始まった。
マヤはこの日も終始輝く笑顔で、真澄を見つめた。
真澄は、マヤの笑顔に幾度となく胸を高鳴らせた。
片恋を克服して、真澄への愛を確信したマヤは、眩しい瞳をいっぱいに見開いて、真澄を見つめた。



 速水邸。
真澄は自室で、試演以降のマヤの変化に思いを馳せていた。
もしかして、マヤもまた、俺を想っていてくれるのだうろか。
赤信号はいつの間にか青に変わっているというのだろうか。
だとしたら…俺は今度こそ、自分に正直に生きてもいいのではないだろうか。
人生を後悔することにはなりたくない。
たった一度の人生、自分の幸福を追い求めてもいいのではないか。
マヤ…。
そう…。
俺が紫のバラの人だと、正体を打ち明けよう。
そして、長年のこの想いを、正直にマヤに告げよう。
もう、迷うことはない。
真実を見誤る過ちは、二度と犯したくはない。
俺は、マヤ、おまえを愛している…心から!

真澄はマヤにいっさいを打ち明ける決心をした。



 真澄は紫織を呼び出し、婚約の解消を申し出た。
「紫織には判っていました…あの試演を見た時から。私は真澄さまを苦しめるだけの存在だったのですね…。」
「紫織は真澄さまに苦しみしか、差し上げられない…。」
紫織の瞳が揺れる。
「紫織さん、あなたには済まないことをしました。あなたの誠意には努力で報いようと考えていました。」
「だが、僕はもう、これ以上自分を偽ることは出来ません。」
「愛していらっしゃるのね…あの北島マヤさんを…。」
「そうです。僕が唯一、心安らげるのは、あの子と居る時だけです。」
「僕は、真実、幸せな人生を求めたい。僕の我が儘です。許してください、紫織さん…。」
「紫織では、真澄さまをお幸せには出来ませんのね…。」
「済みません、紫織さん…。」
「判りました…。真澄さまのお幸せをお祈りしていますわ。」
「申し訳ありませんでした…。」
真澄は紫織に深々と頭を下げた。
「私は身を引きます。それが、真澄さまにして差し上げられる、わたしくしの唯一の愛の証ですわ。」
「さようなら。真澄さま。」
紫織は涙を浮かべて、席を立った。

翌日、真澄と紫織の婚約解消のニュースが大々的に報じられた。



 年末。
『紅天女』の本公演に向けた稽古も、順調に進んでいた。
真澄は大都劇場の稽古場を訪問した。
桜小路の一真とマヤの阿古夜は、すでに稽古も佳境を迎えていた。
黒沼の檄が飛ぶ。
カンパニーも、稽古に一層の熱が入った。
「よーし!休憩!」

真澄はマヤを稽古場の外に呼び出した。
「チビちゃん、大事な話がある。12月24日、稽古が終わったら俺と会ってくれないか?」
「クリスマス・イヴですね?」
「ああ。お台場のFテレビ、クリスマスツリーの前で、夜7時に待っていて欲しい。」
「判りました。その時間なら行けると思います。」
「約束だぞ。」
「はい。判りました。必ず。」
念を押して、真澄は稽古場を後にした。



 約束のクリスマス・イヴ。
時間ちょうどにマヤは待ち合わせ場所に着いた。
美しくライトアップされた巨大なクリスマスツリー。
何組ものカップルが、広場で楽しげにデートをしている。
広場ではクリスマスのパフォーマンスも繰り広げられていた。
マヤは真澄の姿を求めて、広場を一周した。が、真澄の姿は無かった。
(速水さん…まだなのかしら…)
マヤは心許ない思いで、広場の椅子に腰掛け、かじかんだ手を擦り合わせた。
華麗に賑わうクリスマスの人混みを眺めるともなく眺めて、時計を見ると、1時間が経っていた。
(速水さん…どうしたのかなぁ…)
(急な仕事でも入っちゃったのかしら…)
(まさかこのまま、来ない、なんてこと、ないよね…)
マヤは次第に不安になってきた。
(大事な話って、何かしら…)
(『紅天女』の上演権のことかな…)
マヤは暖をとろうと、早足で広場をぐるぐると回り始めた。
次々、待ち合わせのカップルが対面を果たしては、広場から消えていく。
(速水さん、遅い…)
(まさか、交通事故…!?)
(そんな…嫌よ…速水さん…!)
(あたし…どうしたらいいの…!?)
マヤは不安にそぞろ心許なく、瞳を潤ませた。
途方に暮れて、マヤはクリスマスツリーに集う人々を見つめていた。

一方、真澄は、5時には連絡の入るはずのアメリカのプロダクションからのファックスを待っていた。
運悪く、その日に限って本社の通信回線が故障を起こしており、ひとまず工事して復旧したものの、回線の繋がりは不安定で、
アメリカからの通信にも遅れが出ていた。
真澄はじりじりする思いで、時計を睨んでいた。
このままでは、約束の時間に遅れてしまう…。
送られてくるはずの書類には真澄のサインが必要で、真澄が署名して返信することになっていた。
こればかりは、他の重役に任せるという訳にはいかない。
ようやく書類が届いたのが6時半。真澄が署名して、返送し、相手先と国際電話で書類の確認が取れたのが7時。
真澄は万事休すの思いで、自分の車で本社を飛び出した。
都内を縦断して、お台場まで少なくとも40分はかかる。
が、クリスマス・イヴのその日は、どの道を選んで通っても、渋滞が激しかった。
ノロノロと一向に進まない車の列に、真澄は苛々と焦燥を募らせた。
(マヤ…待っていてくれ…)
祈る思いで、真澄は続けざまに煙草を吸った。
その日はクリスマス寒波が激しく、外気は冷たく冷え切っていた。
車のフロントガラスに、小雪が舞い始めた。
(ああ…マヤ…済まない…!)
(頼む、待っていてくれ…!)
ようやく新橋まで着いて、夜9時。
2時間も待たせてしまった…。
果たして、マヤは待っていてくれるだろうか…。
真澄は渋滞する車の列を睨みつけた。
さらに1時間かかって、真澄はようようお台場に到着した。
公園のパーキングに車を停めると、後部座席に用意してあった紫のバラの花束をひっつかみ、真澄は広場目指して駆け出した。
ツリーの下には、マヤの姿は無かった。

(!)
(マヤ…帰ってしまったのか!?)
真澄は広場をぐるりと一周、駆け巡った。
マヤは居なかった。
(ああ…マヤ…!)
真澄は呆然と、クリスマスツリーの下に立ち尽くした。厳しい寒さが、俄に真澄の身に浸みた。



 マヤは、広場を見おろす喫茶店に入って、暖をとっていた。大事な稽古の最中、風邪をひくわけにはいかない。
窓際のテーブルについて広場に目を配り、真澄の姿をひたすら探し求める。
夜10時過ぎ。
ツリーの下に、真澄の姿が見えた。
マヤは会計を済ますのももどかしく、喫茶店を走り出た。
悄然と煙草を燻らす真澄に向かって、走ってくる小さな姿があった。
(マヤ!)

「速水さーーん!」
マヤのよく通る声が広場に響いた。
マヤは真澄に駆け寄って、真澄の胸に飛び込んだ。
真澄は思わずマヤを抱き竦めた。

「悪かった…待っていてくれたか…良かった…。」
「速水さん…速水さん…」
マヤの瞳が潤む。
真澄はマヤの身体を離すと、紫のバラの花束をマヤに差し出した。
「速水さん!」
「マヤ、俺が紫のバラの人だ。」
穏やかに、しかし、決然と、真澄が口にした。
寒波の冷気のなか、花束は一瞬ふんわりと薫り高く香った。

「速水さん…あたし、知っていました、速水さんが紫のバラの人だ、って。」
「マヤ…!」
「ずっと、ずっと、待ってたんです、こうやって速水さんが名乗りをあげてくれるのを…。」
「あたし、いつまでも待つつもりでした…嬉しい…速水さん…!」
「では、あの紅天女の台本は、俺と知っていて渡してくれたのか?」

「ええ、ええ。私からの精一杯のメッセージでした…」

真澄は一瞬深く息を吸いこむと、はっきりと言葉にした。

「マヤ、俺はきみを愛している…!」

マヤは目を瞠った。

「ずっとマヤ、俺はきみだけを想い続けてきた。心から。」

「婚約も解消した。これからはマヤ、俺はきみのためだけに生きる…!」
「速水さん…!」

「こうして言葉にしなければ、伝わらない想いだ。マヤ、愛している。」

「これからは、マヤ、俺だけのものになってくれ…」

「あたし…夢を見ているみたい…」

「夢じゃない。俺の真実の気持ちだ。」

「きっとマヤ、きみを幸せにする。どうか俺の気持ちを受け取ってくれ…」

「速水さん、あたしもあなたを愛しています…何があっても、どんな時も…」

真澄は再びマヤを抱き締めた。
真澄の腕の中にマヤの身体はすっぽりと収まった。
この待ち合わせで、愛を叶えたふたり。
クリスマスツリーの華やかな煌めきが、愛を確かめ合ったふたりを黙って見おろしていた。



真澄はマヤを車に乗せ、クイーンズコートのレストランに足を進めた。
遅い夕食を済ませ、真澄はマヤをアパートまで送った。
「遅くなったな。済まなかった。暖かくして、早く休むんだぞ。」
「はい。お休みなさい。」
「また連絡する。おやすみ。」
マヤは真澄の車が見えなくなるまで、真澄を見送っていた。



 積年の想いを叶えたマヤの阿古夜は、演技にいっそうの深みを増し、表現の幅を広げた。
可憐な村娘阿古夜の恋の切なさ、やるせなさの表現に更に磨きがかかり、生命を賭けた一真との愛の戦いは、深い愛の真実を切々と語った。
稽古を目にした誰もが、本公演の成功を確信していた。
真澄の愛を得て、マヤの演技は『紅天女』の精髄を明らかにした。
千年の梅の木の精。マヤの演技が本物になれば、周囲の演技陣の演技もまた、本物になる。
マヤは今こそまさにその才能を開花させ、本公演に臨んだ。



 マヤが招待した紫のバラの人の席で、真澄の見守るなか、『紅天女』本公演の緞帳は音もなく上がった。
真澄との愛を育み、本公演は試演より数段素晴らしい出来映えで、成功裡に初日の緞帳は降りた。
カーテンコールの喝采を受けて微笑むマヤの晴れがましい姿は、真澄の心の眼に焼きついて、いつまでも消えることはなかった。








終わり








2002/11/10

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