305305番ゲット・天使の羽根様リクエスト:リクエストです。
 マヤちゃんが真澄様と結婚して初めて社長夫人としてパーティーに出席する、というもの。
 姫川監督夫妻の結婚25周年パーティーに夫婦で招待された真澄様とマヤちゃん。
 これがマヤちゃんにとっては速水真澄夫人としてのデビューであり、パーティー前から入念な準備がされる。
 当日は緊張してオロオロするばかりのマヤちゃんを真澄様が男らしくサポートしてあげる。
 もちろん亜弓さん、ハミルさんもご登場願います。

※天使の羽根さん、いつもありがとうございます。





『皆さまのお陰様をもちまして、このたび不肖わたくし姫川貢と妻、歌子は結婚25周年を迎える次第と相なりました。
 つきましては、4月吉日、帝国ホテルにてささやかながら記念の宴を開催させて頂きます。
 皆さまにおかれましては益々のご健勝をお祈り申し上げますとともにここにご案内差し上げます。』



 大都芸能本社の真澄宛に、姫川監督から直接パーティの招待状が届いた。
「ほう、もう結婚25年か。」
「姫川監督ですの?」
水城が尋ねる。
「ああ。早いものだ。もう銀婚式とはな。」
真澄は出席欄に「速水真澄」「速水マヤ」と連名で記入し、水城に渡した。
「これを出しておいてくれ。」
「『速水マヤ』…マヤちゃんも、もう立派に奥様ですわね。」
水城が感慨深げにその連名を見つめた。
「ああ。新婚夫婦としては、初めて公式パーティに出席だ。俺も楽しみだ。」
「真澄さま、よろしゅうございましたこと。」
「マヤもこれが公式の席には夫婦同伴で初めてだな。」
「無事お務められますように。」
「ああ。ありがとう。」
真澄は上機嫌だった。


 速水邸。
その夜、真澄はマヤにパーティ出席の旨を告げた。
「歌子さんご夫妻のパーティなのね…なんだか緊張しちゃう…。」
「速水さんとふたりで公の場に出るのって、これが初めてよね…。」
「大丈夫さ。俺と一緒だ。何も心配することはない。」
「まだ日にちがあるから、よく準備しておくんだぞ。」
「…判った。」
伏し目がちに、マヤは頷いた。



 その日から、マヤは普段より入念に高級エステに通い始めた。
美顔の施術は普段の倍の手間をかけさせた。またボティのスキンケアも特別プログラムを組ませた。
エステサロンではマヤの肌の調子に合わせて、当日用のメイク用品すべてが特注された。
パーティのためのイブニングドレスも靴もバッグも銀座の老舗オートクチュールで新調した。
マヤの白い肌がよく映える、『紅天女』のトレードマークでもある紅梅色のドレスだ。
地模様に梅の模様をあしらった紅色のシルクサテンの艶麗なカクテルドレスで、
知る人ぞ知るそのオートクチュールでマヤは仮縫いを済ませた。
宝石も、真澄が奮発して、新品がふんだんに用意される。
紅梅色に合わせて、大粒なルビーを贅沢にあしらったネックレス、イヤリング。指輪。すべて周到な専門店でのオーダーメイドである。
早くも速水邸に届けられたその宝石を見て、マヤは溜め息をついた。
「綺麗…。」
「こんな贅沢しちゃって、いいのかしら…。」
帰宅した真澄に宝石を見せながら、マヤは不安そうにソファの真澄に身を寄せた。
「マヤ、きみはこの俺の社長夫人だ。いくらでも贅沢しても、し過ぎということは無いぞ。」
「贅沢にも慣れるんだな。もうマヤ、きみはただの『北島マヤ』じゃないんだ。」
「『大都芸能社長夫人・北島マヤ』なのよね…」
些かもの憂げに、マヤはその呼び名を口にした。
「そうだ。堂々としていていいぞ。」
「どこに出ても恥ずかしくない。俺の妻なんだから。」
真澄はごくごく気軽そうに淡々としたものである。
「公式にパーティに出るのって、これが初めてなのに…。」
マヤは心許なげに真澄を見あげた。
「ああ。俺もマヤと一緒なら、普段は退屈なパーティも楽しみだよ。」
真澄は穏やかにマヤに微笑んだ。
「速水さんに恥をかかせないようにしないと…。」
「何を心配してる?俺が一緒だから、マヤは何も心配することはないさ。」
真澄は言って、初々しい新妻のマヤのか細い肩をしっかりと抱き寄せた。
「速水さん…。」
マヤは甘えるように、真澄に凭れかかった。



 やがて迎えた盛りの春のパーティ当日。
通常は大都芸能本社からパーティ会場に直行する真澄だったが、マヤを同伴するので、いったん速水邸に帰宅した。
真澄が帰宅してみると、マヤは私室におり、マヤ専属のスタイリストの手で、支度の真っ最中だった。
「キャーッ!」
香水の瓶をマヤは鏡台から転がり落とした。途端にシャネルのアリュールの香りが部屋いっぱいに漂う。
「何をやってるんだ?」
香水の香りが真澄の鼻孔を擽る。
「あたし…なんだか緊張しちゃって…。」
化粧の途中のマヤに歩み寄ると、真澄はしっかりとマヤを抱き竦めた。
「緊張しない、おまじないだ。」
言うと、真澄はマヤに深々とくちづけた。
ゆっくりと舌を絡ませ、軽く吸い上げる。
「ん…」
ひととき、マヤは真澄の温もりに包まれた。
マヤはしだいに緊張が解け、心が解放されてゆくのを感じた。
幽かに震えていたマヤの身体から力が抜け、強ばっていた身体が柔らかく解きほぐされる。
真澄はマヤのイブニングドレスの背をゆっくりと愛撫した。
マヤはぐったりと真澄に身を委ねた。
真澄はそっとマヤからくちびるを離した。
「よし。大丈夫だな。」
マヤは含羞んで、頷いた。
「マヤさま、髪をまとめますよ。」
待っていたスタイリストがマヤを促す。
マヤは鏡台に向かって座った。
真澄は煙草を吸いながら、マヤの支度を眺めていた。
真澄の愛情によって磨かれ、たっぷりと金をかけたマヤの晴れ姿。
真澄にはそんなマヤがいつにも増して愛おしく、誇らしかった。
「さ、出来ましたよ、マヤさま。」
長い髪をアップにまとめ、化粧も完成した。
「速水さん、どう?」
マヤはくるりと回って見せた。
「ああ。いい出来だ。よく似合う。」
「よし、行こうか。」
「はい。」
真澄はマヤの肩を抱いて、迎えの車が待つ玄関に向かった。


 夕刻の都心の道路を車が行く。
「今日は何人くらいのパーティなの?」
「富士の間だからな。500人ほどじゃないか?」
「500人…。」
マヤは不安げに呟いた。
「なんだ、マヤ、いつもは2000人の前で舞台を演じているんじゃないか。」
「パーティも舞台と同じだと思えばいい。社長夫人の演技をしてくれ。」
「…台本のないお芝居ね。」
「ああ。アドリブの芝居だ。」

やがて車はホテルに着いた。
真澄はマヤと腕を組んで、宴会場へ向かった。



 きらびやかな正装の人々が集う、パーティ会場。
すでにあちこちで、談笑の輪ができていた。
開始時刻となった。
司会がパーティ開始を告げる。
姫川監督の同僚が乾杯の音頭をとり、集う人々は金屏風の演台に乗った姫川夫妻を祝福して、乾杯した。
パーティはフランス料理ブュッフェ。ウェイターが人々の間を巡り、飲み物をサービスしていく。
まずは姫川夫妻への挨拶。真澄はマヤの腕を自分の腕に絡ませ、マヤの背を抱いて、金屏風の演台に上がった。
マヤのハイヒールの足元が幽かに震えているのに気づいて、真澄はマヤを抱く手に力を込めた。
真澄の無言の慰めが、マヤに伝わってくる。
「姫川監督、歌子さん、このたびはご結婚25周年、おめでとうございます。」
真澄は夫妻に一礼して穏やかに声をかけた。
「おお、真澄くん、マヤちゃん、今日は忙しいところをありがとう。」
「歌子さん、妻のマヤです。」
「まあ、マヤちゃん。すっかり綺麗になって!今日はどうもありがとう。」
歌子も女優として大成期に入り、その熟成された美しさも今日は格別に輝いていた。
マヤは密かに呼吸を整え、挨拶した。
「監督、歌子さん、おめでとうございます。」
真澄が素早くマヤをフォローする。
「僕ら夫婦も、監督と歌子さんのようなご夫婦にあやかりたいものです。」
「あの…どうぞ末永くお幸せに…。」
マヤは精一杯の笑顔で、姫川夫妻に微笑みかける。
「ありがとう。マヤちゃんもね。」
「速水社長、可愛い奥さんで何よりだな。」
気さくに姫川氏が語りかける。
「ええ、おかげさまで。これで僕もすっかり愛妻家の仲間入りですよ。」
言って、真澄はにこやかに笑った。
マヤは恥ずかしそうに真澄を見あげる。
そんなマヤに、真澄は堂々と微笑みを返す。
「やれやれ、本当だな。ま、一生に一度だ。新婚時代、楽しみたまえ。」
姫川氏が首を竦めてみせた。
「速水社長、マヤちゃん、今日は楽しんでいってね。」
「はい。ありがとうございます。ではまた。」

真澄は姫川夫妻の前を辞して演台を降りた。マヤのハイヒールに気をつけて、ゆっくりと急な階段を降りる。
ブュッフェの料理は、冷製料理は、サーモンのマリネ・香草とレモン風味、小海老と芽昆布のスープ仕立て、新鮮な海の幸のイタリア風マリナード、燻製ビーフと生ハムの盛り合わせ、カクテルサンドウィッチ、チーズの取り合わせ バゲット添え、季節のサラダ。
温製料理は、鮮魚のフライと野菜の串揚げ盛り合わせ、舌平目のムニエル ヴィネグレットソース、ラヴィオリのグラタン 香草風味、
牛フィレ肉の角切り煮込み リヨン風インド風カレー バターライス添え、サーロインビーフのロースト 洋わさび添え、温野菜。
デザートは、季節のフルーツ、フランス風小菓子、特製タルト、アイスクリームにシャーベット、珈琲、という献立。
真澄はテーブルに水割りのグラスを置くと、手際よく料理を皿に取り分けてマヤに差し出した。
「ありがと。」
マヤはまるで食欲がないほど緊張していたが、一口、二口、料理を口にしてみた。
「美味しい!」
「そうか。よかったな。」
料理に気を取られて、マヤはハイヒールのバランスを崩した。
「おっと。」
真澄が素早くマヤの背を抱いて、マヤを支えてやった。
真澄の優しさが、しみじみとマヤの心に浸みた。
マヤは思わず真澄を見あげ、真澄と微笑みを交わした。
その瞬間、カメラのフラッシュが焚かれた。
振り返ると、こちらも正装した亜弓がハミルとともに歩み寄ってきていた。

「マヤさん!」
「あ!亜弓さん!」
「お久しぶりです、速水社長。」
亜弓は真澄に一礼した。
「こちら、ハミルさん。ご存じね。私の婚約者です。」
真澄は流暢な英語でハミルに挨拶した。
「Oh!マヤさん、Very Cute!」
ハミルが笑顔でマヤを見おろす。マヤもにこやかな笑顔で、それに応えた。
「結婚も先を越されてしまったわね。マヤさん、素敵な若奥様よ。」
「亜弓さんも、今日はほんとに素敵よ。」
「ふふ…ありがとう。お互い、幸せになりましょうね。」
「もっともマヤさんの幸せは、速水社長次第でしょうけど。」
亜弓は悪戯っぽく笑って、真澄とマヤの両方を見比べた。
「亜弓くん、マヤのことは僕に任せてくれればいい。きっとマヤを幸せにするよ。」
「ええ、よく存じておりますわ。」
「速水夫妻、今日はご出席、ありがとう。じゃ、また後でね。」
亜弓は晴れやかに笑ってハミルと供に、マヤと真澄の前を辞していった。

「さて、挨拶回りに行くぞ。」
真澄に促されて、マヤは真澄の腕をとった。マヤは密かに深呼吸した。
真澄が、しっかりとマヤの肩を抱く。
「理事長、お久しぶりです。」
全日本演劇協会の理事長に真澄は歩み寄った。
「おお、速水くん、マヤさん、元気そうだの。」
「理事長もお変わり無く。何よりです。」
「マヤさん、結婚式以来だの。いい奥様ぶりだ。亡き月影先生も喜んでおられよう。」
「はい、理事長。『紅天女』ではお世話になりました。」
「マヤさん、これからもますます精進して、いい舞台を務められよ。」
「はい。頑張ります。」
「あの梅の里での稽古、懐かしいものだな。」
「ええ。本当に。月影先生がきっと天国から見守っていてくださいます。」
「いつかきっと、月影先生の『紅天女』に追いつきたいです。」
「『紅天女』は、マヤさん、もはやマヤさんの舞台で一人歩きしておる。さらに芸を磨いて、いい舞台にしてゆくことだ。」
「はい。理事長。きっとご期待に添える舞台にします。」
ひとりしきり談笑すると、真澄は別の人垣にマヤを連れていった。

黒沼がテーブルについて酒を呷っていた。
「黒沼先生、お元気でしたか?」
「おお、北島!若旦那!これはこれは、見事な新婚夫婦ぶりじゃないか。」
真澄にピタリと寄り添うマヤを一瞥して、黒沼は愉快そうに声を立てて笑った。
「そうやっていると、北島、おまえさんもすっかり社長夫人だな。」
「そ、そうですか?先生にそう仰って頂けると、安心します。」
「ああ、合格点だ。もっと堂々と胸を張っていいぞ。」
「はい、先生。公演の時には、またよろしくお願いします。」
「おう。またビジビシやるからな。」
「はい。」
黒沼のもとを辞して、真澄はマヤを連れて、人垣を回遊していく。

マヤもようよう次第に場慣れして、報道カメラに向かって微笑んでみせた。
映画監督陣、俳優、女優、関係者一同に、真澄はマヤを伴って挨拶していく。
人々の賞賛と羨望の眼差しが、マヤをいっそう美しく際立たせた。

 パーティもいよいよ盛り上がり、生演奏によるダンスタイムとなった。
人々がダンスの輪を作っていく。
真澄もマヤを連れて、ダンスに加わった。
真澄のリードに合わせて、マヤは軽々とステップを踏んだ。
「何も緊張することはないだろう?」
「うん。もう大丈夫。速水さんがついていてくれるから。あたし、幸せよ…。」
真澄は優しく微笑んで、マヤを抱く手に力を込めた。
そんな二人を、周囲は驚嘆と好奇の眼差しで見ていた。
「あの大都芸能の仕事の鬼が…」
「変われば変わるもんだな。」
「北島マヤ、あんなに綺麗な女だったか?」
「やはり女は金をかけないとな。」
「それと、男の愛情のなせる業か。」
「まさか大都芸能一の堅物がねぇ…。」
「北島マヤに岡惚れ、てなもんだな。」
そんな周囲の思惑も揶揄も、もはやマヤと真澄には関係なく、ふたりは人目も憚らず、幸福そうに寄り添っていた。


 やがて盛会のうちにパーティは終わりを告げた。
終始真澄はマヤから離れず、マヤを労り、マヤを見守った。
三々五々、人々が散っていく。
真澄は再度姫川夫妻に挨拶すると、会場を後にした。


正面玄関、真澄の車が迎えに出ていた。
真澄はマヤを先に乗り込ませると、自分も後部座席に乗り込んだ。
「あーあ、疲れたぁ。」
マヤは真澄の肩に身を寄せた。
「ご苦労。よくやってくれた。」
「これで、どこに出しても恥ずかしくない社長夫人だ。」
「ほんと?ほんとに?合格点?それなら良かったわ。」
「速水さんが、しっかりついててくれたおかげよ。」
真澄はマヤの膝頭を愛撫した。
「次のパーティもこの調子で頼む。」
「うん。判った。」
車は40分ほどで速水邸に到着した。



 マヤは私室で着替え、宝石を外してジュエリーケースに大事そうにそっと仕舞った。
夫婦のリビングでガウンに着替えた真澄にマヤは声をかけた。
「お風呂入ってくるね。」
「ああ。ゆっくり入っておいで。」
真澄は寝室づきのシャワールームでシャワーを済ませ、マヤを待った。
冷たい飲み物を使用人に運ばせ、真澄は煙草を燻らす。
「ああ、いいお湯だった。」
マヤがネグリジェ姿で風呂から上がってきた。
よく冷えたオレンジジュースを、マヤは一息に飲み干した。
湯上がりのマヤの色香が漂う。
「マヤ、今夜はふたりだけでパーティだ。」
言うと、真澄はマヤを抱き上げ、リビングの灯りを消して、寝室に入った。
「速水さん…」
ベッドカバーと羽布団を捲ると、真澄はマヤをベッドにそっと横たえた。


ふたりだけの、新婚の宴が始まった。
長く、熱い、幸福な夜。
新婚の夫婦の、ふたりだけの宴。
愛を刻む時。
真澄に愛され、真澄を愛し、マヤは幸福のさなかで熱く燃えた。
真澄は熱情の赴くまま、存分にマヤを愛した。
愛の時は、この夜も音を立てずに、ふたりを包んで、熱く静かに流れていった。







終わり







2002/11/7

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