300000番ゲット・アリエル様リクエスト:聖さんの活躍するストーリーでお願いします。

※聖さんの活躍?そうですね、ご要望の多い未刊行部分での聖さんの行動の数々、ここでご紹介しましょうかね。
取り急ぎ抜粋してみます。ラストは無理矢理こじつけハッピーエンド(^^;)





 北斗プロが放った暴漢からマヤを庇い、傷を負って気を失った真澄にマヤは付き添い、その愛を打ち明けていた。
真澄は朦朧とする意識の中で、マヤの告白を聞き、頬に落ちたマヤの涙、額にそっと触れた唇の感触をそれから度々夢に見るようになった。
(あなたを愛しています…)
伊豆の別荘に真澄は聖を呼び出していた。



真澄は聖にその苦衷の胸の裡を苦々しく語った。
「あれからこの想いが胸を離れない。あの子のことばかり考えている…。」
「ばかげている…。まるで少年だ…。」
「そのことで胸がいっぱいで何も手につかんとは…。」
「仕事すら上の空という有り様だ。信じられるか、聖。この俺がだぞ。」
「こんな思いは初めてだ。自分でもどうしていいかわからん。こんなことを話せるのは、きみだけだ、聖…。」
聖は静かに笑い、真澄に答えた。
「光栄です。」
「何が可笑しい?」
「いえ…あなたがあまりに人間的なことを仰るので…。」
「俺だって人間だぞ。」
「失礼しました。」
聖はその独特のもの柔らかな語り口で真澄に語った。
「素敵なことです。たいていの人は一度は経験していることですよ。あなたはただ、人より少し遅かっただけです。」
「仰ってください。気持ちが軽くなりますよ。今一番何をなさりたいのですか?」
その聖の問いに、真澄は悩ましくも率直な想いを口に出した。
「…ほんとうは…今すぐにでも、飛んでいきたい…飛んでいって逢いたい…。」
「逢って…それから?」
「それから…?わからん。逢えばバカなことをしてしまいそうな気がする…。」
「バカなこと?」
「そうだ。婚約者がいる男がとてもやらんようなことを…だ…。」
「真澄さま…。」
聖は鋭く真澄に迫った。
「おやりなさいませ。真澄さま」
真澄はたじろいだ。
「聖!」
聖は言葉を継ぐ。
「今すぐあの子のもとに飛んでいき、あの子の前に立って、普通の男と同じように照れながら、胸をドキドキさせて、」
「そして、相手の顔色を窺いながら、平凡な決まり切った文句を告げるだけでいいのですよ。」
「聖!相手は11も年下だぞ!おまけに俺を憎んでいる…。」
「かどうかは判りませんよ。もし、あなたの見たものが夢でないとすれば…。」
聖の指摘に、真澄は我に帰った。
「素直におなり下さい。もう、ご自分のことだけを考えていいのではありませんか。ご自分の幸せだけを…。」
「誰かのために無理して作る幸せなど、長くは続きませんよ。」
「聖…。」
「ご自分の気持ちに正直になって下さい。そして、何もかも打ち明けるのです。」
「何もかも!?俺があの子に紫のバラを贈り続けていたこともか…!?」
「はい。」
「駄目だ!それだけは駄目だ!」
「考えてもみろ!それだけで、あの子は冷静に俺を見られなくなる…!」
「ギャングの親分でもいいと言ってたんだぞ、あのバカは…!」
「俺がそうだと打ち明けて、あの子の心を縛り付けたくない…。」
「なるほど。確かにそれは得策ではなさそうですね。」
「あなたが紫のバラのひとと判れば、それたけであの子の心はあなたに傾くかもしれない。」
「だが反対に、大きなショックを受けて逆の反応を起こすこともありましょう。」
「なによりあなたを紫のバラのひととしてでなく、一人の男として見られるかどうか…。」
「でも、もし今のあの子に紫のバラのひとの正体が誰であっても冷静に受け止めるだけの気持ちがあれば、
 総てを打ち明けてもいいのではありませんか。」
「それだけであなたの想いの深さは伝わるはず…。」
「聖…。」
「真澄さま、この件はわたくしにお任せ願えませんか?どういう結果になるか判りませんが、このままでいるより良いと思います。」
「よ…余計なお節介は要らんぞ、聖…!自分のことは自分で解決をつける…!」
聖は別荘の階段を降りながら、真澄に話しかけた。
「勿論ですよ。僕はあなたの代わりに恋は出来ません。ですが不器用なあなたのお手伝いくらい出来ます。」
「おい、待て!聖、何処へ行く!何をする気だ!?聖…!」
「余計なことをしてみろ!ただじゃおかんぞ!」
真澄は去ろうとる聖にたたみかけた。
「何をそんなにムキになっているんですか?あなたのそんな姿は初めてですよ。まるで少年みたいだ!」
聖は笑って、車に乗り込んだ。
「聖!」




真澄さま…
あなたのあんな気弱な、取り乱した姿を、僕は初めて見ました
いつか、こんな時が来ると思っていました
少しは…覚悟していたつもりです…
僕はあなたの幸せな笑顔が見られればいい…
知っていましたか?
それだけで、僕が幸せな気持ちになれるってことを…
そう…
少年に日に初めてあなたの笑顔を見た時から…




聖はマヤを喫茶店「Alis」に呼び出していた。
「これをどうぞ。紫のバラのかたからです。」
「ありがとうございます。いつもこんなに。『紅天女』の打掛まで贈っていただいて。あたし、紫のバラの人になんて感謝していいか…。」
「まだ何も恩返し出来ないのに…。」
「ははは、そんな気遣いは必要ありませんよ。あの方への唯一の恩返しは、あなたが舞台で元気な姿を見せてくれることですよ。」
「そんな…。」
真澄を想って、マヤは思わず涙を零した。
聖は当惑した。
「どうかしましたか?」
「いえ…優しいんですね、紫のバラの人って…あたしみたいな、ひよっこの女優に…。」
「このかたがいたから、今まで、どんな時でも挫けることなくやってこられた…」
「あたしがここまで来られたのも、この方のおかげです…。」
「まだ、逢ってはいただけないけれど…でも、誰よりも大好きな…大切な方です…。」
「聖さん…伝えてください…紫のバラの人に。あなたはあたしにとって世界中で一番大事な人です。今でも、そしてこれからも…。」
「たとえ、あなたが誰であっても…。」
そのマヤの真摯な言葉に、聖は胸を突かれた。だが、穏やかにマヤに話しかけた。
「もし…このかたがどんな人物であっても、その気持ちは変わりませんか?」
「…ええ。」
「たとえ世間からどんなに嫌われている人物でも?」
「ええ。」
「もしかして憎い相手かもしれませんよ。」
「ええ。それが、たとえどんなに憎い相手であっても…その方が紫のバラの人なら、きっとあたしがその人を誤解していたんだと思います。」
聖にとっては、そのマヤの言葉は殊更に意外であった。
「判りました。あなたを紫のバラの人にお引き合わせしましょう。正式に。」
その言葉にマヤは思わず身を乗り出した。
「いま…なんて!?聖さん…!」
「紫のバラの人に逢わせましょうと言っているんです。2日後、時間がとれますか?」
「ええ!ええ!どんなことをしても!」
「よかった。では午後2時、お迎えに上がります。」

(紫のバラの人に逢える…正式に…!速水さんに…紫のバラの人として…!)



聖は真澄に電話で連絡を取った。
「2日後の夕方、海岸通りのホテル・マリーンで、そこで正式にあなたを紫のバラの人として紹介します。」



真澄は食事の席で、紫織に婚約解消を申し出ていた。
「ききません!わたくし、ききませんわ!」
紫織は逆上し、コップの水を真澄の顔にひっかけると、レストランを駆け出して行った。
そして、その足で真澄の伊豆の別荘を密かに訪れ、マヤが真澄に贈った舞台写真のアルバムを探し出した。
紫織がアルバムが置かれたリビングテーブルをふと見ると、
「14日 午後4時 海岸通り ホテル・マリーンで」と書かれたメモを紫織は見つけた。
(14日、明日だわ!いったい誰と…まさか…!)
そして、約束の日。紫織は真澄とマヤのそれぞれの所在を電話で確認していた。



14日朝、地下駐車場で聖は真澄に密会した。
「あの方なら大丈夫です。紫のバラの人の正体があなたと判っても、きっとその感謝は変わらないでしょう。」
「それから?それからどうなる?今までずっと気持ちを抑えて来たんだ。これ以上自分を抑え切れるか自信がない…!」
「抑えなければいいではありませんか。」
「聖!」
「素直にご自分の気持ちを話せばいいではありませんか。」
「あなたの誠意ある愛が伝わらないわけがありません。」
「年の差など、たいした障害ではありませんよ。大丈夫、きっと上手く行きますよ。」
「では4時に。ホテル・マリーン、白百合の間で。」
「それからこれを。今夜、部屋をお取りして置きました。」
聖は真澄にホテルの部屋の鍵を渡した。
「聖…!おい!ちょっと待て!俺はこんな…」
「301号室。3階南角の海の見える綺麗な部屋です。あの方にも気に入って頂けるでしょう。必要とあらばお使い下さい。」
「長い1日になることでしょう。あなたにとっても、あの方にとっても。」
聖のその穏やかだが真澄の胸中の核心に迫る言葉に、真澄は黙って渡されたルームキーを握り締めた。



東京。鷹宮邸。
(もうすぐ4時…あのふたりの待ち合わせの時間…)
(思い通りになど、させやしないわ…!どんなことをしても…!)
紫織は自ら、手首を切っていた。リストカット。狂言自殺を、紫織は図った。



マヤと聖が待つ、ホテル・マリーン、白百合の間。
そのドアにまさに真澄が手をかけようとしたその時、
ホテルマンが真澄を呼んだ。
紫織が連絡したのだろう、朝倉が真澄の居場所をつきとめて、ホテル・マリーンに緊急の呼び出しをかけた。
紫織の自殺未遂を聞き、真澄は後ろ髪を引かれる思いで、ホテル・マリーンを後にした。
そして、その帰途、運転士を急かし、過度なスピードを出しすぎた真澄の車は対向車のトラックを避け損ない、岸壁に衝突していた。



変だな…遅すぎる…。
何も知らない聖とマヤは、月が昇るまで、真澄を待ち続けた。
とうとう現れなかった真澄を諦めて、聖はマヤのアパートまでマヤを送った。
「申し訳ありません。きっと何か重要な用事が出来て来られなくなったのでしょう。」
「せっかくお会いしていただくつもりだったのに。」
「気を落とされませんよう。いつかまた機会を作りますから。」
聖は心配りも細やかにマヤの心中を気遣った。




(真澄さま…あなたを誰にも渡しませんわ。たとえ、あの子にだって…どんなことをしても…!)
紫織は豹変した。真澄への歪んだ愛憎によって。




マヤは真澄への断ち難い想いに苦しみ、その葛藤は阿古夜の恋の演技を阻んでいた。
真澄への片恋の想いに苦しみ、阿古夜の恋の演技が、どうしても掴めなかった。
さらに紫織の捏造で、紫のバラの人からの絶縁状が届けられた。
マヤは深い絶望の淵に突き落とされた。



その翌日。
聖はキッドスタジオを訪れた。
ちょうど、阿古夜と一真の恋の稽古の最中だった。
「あれは何か特別な稽古ですか?」
聖は役者のひとりに尋ねた。
「え?“気持ち”を作るための稽古だけど。」
「“気持ち”を作る?」
「そう。主役の北島マヤがのってなくてね。」
「昨日から変なのよ、あの子。紫のバラが届いてから。」

(紫のバラが届いた…!?)

「急に震えだしたり、涙浮かべたりして、まるっきり心ここにあらずって感じなの。」
「他に何か届きませんでしたか?」
「えーと、小包と手紙が一緒に届いたみたいだったけど…。」
「その手紙読んで、凄いショック、受けてたみたい。それからよね。あの子おかしくなったの。」
「失礼。どうもありがとう。」
聖はそれだけ聞くと、キッドスタジオの人気の無いロッカールームを探した。

(あのかたがわたしに内緒で紫のバラを贈られるなど、考えられない…)

聖はマヤのロッカーを開けてみようとしたが、鍵がかかっていた。
その立ち並ぶロッカーの隅に、マヤによって投げ捨てられた、マヤの舞台アルバムが落ちているのに聖は気づいた。

(これは…!北島マヤの舞台アルバム…!)
(以前彼女があのかたにプレゼントしたものだ…!あのかたも大切にしていた筈なのに、何故こんな所に…!?)
(手紙…?)
聖はアルバムに挟まれた手紙を発見した。

(ばかな…!)
(あの方がこんな…!)
(こんなばかな…!)
聖は紫織が捏造した絶縁状を読んで、愕然とした。


桜小路の熱演に気圧され、真澄への想いに揺れるマヤを、聖は影からじっと観察していた。




 真澄が入院している伊豆の聖ヨハネ病院。
真澄を看護する紫織が街まで買い物に出るのを見計らって、聖は電話で真澄を病室の外に呼び出した。
「聖です。窓の外へ。」
「ああ、わかった。」
真澄は付き人の社員をうまく追い払うと、病室の外へ出た。聖は赤の他人を装う。
「いいお天気ですね。こんな日は外に出るに限りますよ。」
「ああ、まったくだ。」
「煙草を一本いかがですか?どうぞ。」
「ありがたいな。病室は禁煙なんでね。ありがとう。」
「ところで、籠の鳥になった心境はいかがですか?」
「退屈で死にそうだ。」
「それはそれは。」
「あと2、3日は籠から出られない。」
「ところで、今、籠の外がどうなっているか、ご存知ですか?」
「いや…?」
「北島マヤに紫のバラが届いていますよ。」
「紫のバラがあの子に!?なぜだ?俺はそんな覚えは…。」
「やはりね…そうでしたか。以前マヤさまから贈られた舞台のアルバムは、どうなさいました?」
「アルバム?別荘に置いたままにしているが…。」
「マヤさまのもとに届いていますよ。紫のバラのひとからの絶縁状と一緒にね。」
「なんだと…!?どういうことだ…!?」
「わたしが知りたいくらいです。いったい誰があなたの名を騙って、マヤさまをあなたから遠ざけようとしているのかをね。」

アルバムと一緒に絶縁状だと…!?あの子に…!なんてことを…!いったい誰がそんな…!



聖からことの次第を聞いた真澄は、病院を抜け出し、伊豆の別荘に車を走らせた。

(事故に遭う前、たしかこの部屋でアルバムを見ていた筈…)
(テーブルの上に出したままにしておいたような気がするが…)

真澄はリビングのテーブルの隅に落ちていた「約束の日」のメモを発見した。

(あの子との待ち合わせのメモ…なにげなく書いたものだったが、何故こんな所に…?わからん、どういうことだ…!?)

そこに、忽然と紫織が現れた。
真澄は紫織を問い質し、絶縁状捏造の事実を確認した。
「あなたは僕を試したんですか!?」
「愛しているからですわ!」
「約束して…!真澄さま…!もう、あの子に紫のバラは贈らないって!でなければ、紫織はここから飛び降ります!」
「あなたに振り向いてもらえないくらいなら、死んだ方がましだわ…!」
真澄は紫織の身を張った脅迫に、言葉を失っていた。




 黒沼から、「恋の演技」の中止を申し渡されたマヤは、稽古帰り、フラフラと大都芸能本社に立ち寄り、真澄の姿を求めた。
そこに、ちょうど聖が車で通りかかった。
茫然と舗道を歩くマヤの前で、聖は車を停める。
「稽古の帰りですか?どうしたんです?こんなところで。」
「聖さん!」
「あの…あの…聖さん…あたし…あの…」
言葉に詰まる内に、マヤの瞳から涙がこぼれた。
「マヤさん…!」
「さ!乗って!落ち着いて話しましょう。」
聖はマヤを車に乗せると、ビルの谷間の公園に車を停めた。
マヤは泣きながら、聖に訴えた。
「教えてください、聖さん…あたし、なぜ紫のバラのひとに嫌われてしまったんでしょうか?あたし、わからない…」
「今まであんなに親切だったのに…。」
「あの方からの紫のバラが届くたびに、あたしどんなに励まされたことか…いつか『紅天女』を見ていただくのが夢だったのに…」
「あたしのどこが、いけなかったんでしょう、あたしのどこが、そんなに嫌いに…」
マヤの涙ながらの必死の問いに、静かに聖は答えた。
「…いいえ。」
「えっ?今、なんて?」
「……」
「詳しいことは申し上げられませんが、これだけは信じて下さい。あの方は、きっと今でも心からあなたの大ファンです。」
「そんな…!」
「本心を明かせない理由があるのだと思います。あるいは、自分で自分を欺こうとしているのかも…。」
「とにかく、僕の言葉を信じていて下さい。あの方はそんなに簡単に自分の心を変えられる方ではありません。」
「見ている方がもどかしいくらい不器用な方で…。」
「いえ、判りました。とにかく、あなたの気持ちを伝えましょう、あの方に。」
「えっ!?伝えて貰えるんですか?紫のバラのひとに、あたしの言葉を…!」
「ええ……。」
(紫のバラのひとにあたしの言葉を…言葉…速水さん…!)(そうだ!いちか、ばちか…)
「少し、待ってください、聖さん…。」
マヤは車から降りて、『紅天女』の台本に赤線を引いた。そして、祈りを込めるよう、一瞬、台本を抱き締めた。
思い切って、マヤは聖に台本を差し出した。
「これを…!紫のバラのひとに…!」
「『紅天女』の上演台本!」
「いいんです!あたしもう、セリフ覚えちゃいましたから…!」
「よろしくお願いします、聖さん…!」
「あたしの気持ちです…って、伝えてください、あのかたに…!」
「それから、たとえあなたが誰であっても、あたし、誰よりもあなたが…。」
それだけ言い残すと、マヤは聖のもとを駆け去って行った。

マヤさん…。
『紅天女』の上演台本を…?

聖は、その台本に目を通した。そして、内容に愕然とした。
阿古夜の恋のセリフ総てに、赤線が引かれていた。




 絶縁状捏造以来、真澄は紫織に対しての態度を変えざるを得なかった。
それまでの「仕事」としての婚約者の仮面も、すでに剥がれ、虚ろな空しい時間ばかりが、紫織との間に積み重なっていった。
紫織は独り、孤独感を噛みしめた。



紫織とのデート会場、ミュージカルの幕間。聖は劇場バーのカウンターで、真澄を呼び止めた。
「忘れ物ですよ。」
真澄が振り向くと、他人の振りを装った聖だった。
「これを。」
聖はミュージカルプログラムの間にマヤの台本を挟んで、真澄に薦めた。
「どうも。」
真澄は台本に気づいたが、夢と消えた紫のバラの人の役に深く傷つき、あえて、見ない振りをした。
一方マヤは、祈る思いで、台本に託した思いが真澄に届くよう、願いをかけた。



マヤは、真澄に贈った台本の返事がないことを嘆き、稽古は相変わらず精彩を欠いていた。
聖は、新宿中央公園で行われているマヤの『紅天女』の稽古を、物影から密かに見守っていた。



速水邸。深夜。電話が鳴る。
真澄は電話に出た。
「はい。」
“聖です。”
「なんだ?自宅へは電話はしてくるなと、あれほど…」
“申し訳ありません、急な用で。”
「なんだ?」
“この間お渡しした「台本」ですが、お読みいただけましたか?”
「いや…?まだだが。」
“至急お読みください。差出人からの伝言です。「これがあなたへの気持ちです」と…”
そこまで言うと、聖は電話を切った。



試演まで、あと僅か。
迫る来る試演。だが、ゴールの光は未だ見えない。



真澄はようようマヤの台本を読み、大きな衝撃を受けていた。
そして、最後に紫のバラの人として、マヤのために働く決心をする。
マヤに紫のバラの花束を投げつけ、マヤの闘争心を煽った。
だが、マヤは反対の決心をしていた。
月影千草に『紅天女』を演ろうと思わなければいい、己れを無くすことがマヤには必要、と助言を受け、マヤは聖に連絡を取った。



「聖さん、お願いです。逢ってください。」
「判りました。では“Alis”で逢いましょう。」



「どうしました、マヤさん。」
「聖さん、あたし、あたし…知っているんです。紫のバラの人が誰なのか。」
「何ですって!?」
「紫のバラの人は、速水さんでしょう?」
「いったいいつからそのことを?」
「もう、ずっと前です。全日本演劇協会最優秀演技賞の受賞パーティの時、贈られた花束に、カードがありました。」
「『忘れられた荒野』で青いスカーフを使ったのは、速水さんが見に来てくれた初日の台風の日だけだったんです。」
「それから、母さんのお墓参りに紫のバラを献花してくれた時、落としていった万年筆を人に頼んで渡して貰ったら、速水さんは受け取りました。」
「梅の谷で雨に打たれて、速水さんと雨宿りして、あたし、やっと気づいたんです。あたし、速水さんが好きだ、って…。」
「聖さん、お願いです。速水さんに逢わせて下さい!」
「マヤさん、そのお気持ちは確かですね…?」
「ええ、ええ。聖さん…」
「判りました。今夜、あなたをあの方の元にお連れします。夕方、迎えに行きます。待っていてください。」
「ほんとに!?」
「ええ。あの方も僕も、約束は守ります。」
「ありがとう、聖さん!」
「一晩、あのかたとご一緒する勇気はありますか?」
穏やかに、聖は尋ねた。
マヤは頬を赤らめて、幽かに頷いた。
「よろしい。では夕方。」




伊豆の別荘に隠った真澄に、聖は連絡を取った。
“聖か。どうした?”
「至急です。これから、マヤさまをそちらにお連れします。マヤさまとお会いになって下さい。」
「マヤさまはご存知です。紫のバラの人が誰なのか。」
“何だって!?”
「真澄さま、今宵こそ、ご自分に正直になってください。マヤさまはあなたに恋していらっしゃいます。」
“信じられない…”
「すべてはマヤさまとお会いになって、ご自分のその目で確かめてください。」
「マヤさまは今晩、一夜をあなたと過ごすご覚悟です。」
“聖…!”
「よろしいですね、真澄さま、これが最後のチャンスです。」
“判った…待っている…”




マヤは聖に連れられて、真澄の伊豆の別荘に到着した。
聖が別荘のドアを開け、マヤをリビングに導く。
真澄は弾かれたようにソファから立ち上がって、無意識にマヤに手を差し伸べていた。
マヤは迷わず、真澄の広げられた腕に飛び込んだ。
「速水さん…!」
「あたし、あなたが好きです…あなただけを愛しています…!」
「マヤ…信じられない、俺は夢を見ているのか…?」
「真澄さま、マヤさまを抱いておあげなさい。夢ではありませんよ。」
聖は微笑んだ。
「聖…ありがとう…。」
想いを確かめ合うふたりを、しっかりと見届け、聖はひとり、別荘を後にした。




真澄さま…よろしゅうございました…
今度こそ、真実、お幸せになれますね…
ぼくは、長年、マヤさんとあなたを見守ってきました
もう、これで、思い残すことはありません…。
どうか、マヤさんとお幸せになってください……



長かった真澄とマヤの積年の片恋。
その成就を確と見定めて、
聖は影の想いを全うした。








終わり









2002/12/1

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