282828番ゲット・天使の羽根様リクエスト:以前、掲示板に書きました「プラネタリウム」がキーワードです。
 あの時、ツッキーが失踪しなければ、真澄様はきっと告白なさっていた、と考えるのは私だけではないと思うのですが・・・。
 あと「軽井沢の別荘」がもう一つのキーワードです。
 伊豆の別荘はどちらのパロディにも登場しますが、軽井沢はあまり登場しないので是非使って欲しいんです。
 やっぱり、ムフフは絶対ですよね。皆様、期待していますし(笑)。
 と言う事で、両想いになってからお忍び、または、堂々とラブラブしてほしいのです。
 @「プラネタリウム」デートのリベンジ。ここでムフフがあると凄いかも?! 公衆の場ですからねぇ。
 A「軽井沢の別荘」で休暇。こちらでは別荘のベランダとかでムフフもよろしいかと・・・。
 どちらも思い出話とかをしながら、と言うシチュエーションがいいですわ。
 もう、あとはユーリさんのお好きなように煮るなり焼くなりして下さい。私としては、この2つの場所でどういう事になるかが見たいので。特に真澄様!

※ということで、「プラネタリウム」と「長野の別荘」で参りたいと思います。





「ジュンコ」
                   詞・曲:矢渡 俊博

雨の降る日は
ハイライトくわえて
ジュンコ
きみの傘をさして
海へ続く道
歩いた

プラネタリウムの
白い空を見あげて
ジュンコ
きみと歩いた
雪どけの街にも
ぼくの足あと

春 夏 秋 冬
深夜放送の映画
ジュンコ
きみと見たのは
覚えてますか
いつだったか

うしろめたさも
昨日の夢も
ジュンコ
ふたりの長い影法師が
さらっていってくれるよ
きっと
きっと




 その年の晩夏。マヤのスケジュールがちょうど空いたので、週末にかけて、真澄は遅い夏休みをとることにした。
ふたりの間柄はまだ極秘で、ごく一握りの側近にしか明らかにしていない。
真澄は久しぶりに白樺高原・女神湖畔の別荘を訪れることにした。

約束の金曜朝9時。マヤのマンションに真澄のBMWが横付けにされる。
マンション玄関で待っていたマヤは、素早く真澄の車に乗り込んだ。荷物を後部座席に置く。
「おはよう。速水さん!」
「おはよう。」
「久しぶりだな。元気そうで良かった。」
「うん、速水さんも。逢いたかった。」
「俺もだ。さて、出かけるとするか。」
真澄は車を発進させた。


「きゃっ!」
真澄は急ブレーキをかけると、車をUターンさせた。
「おっと、済まない。ちょっと寄り道していこう。」
真澄は車を環八に向けた。環八を少し走って脇道に入り、しばらくすると、真澄は車を停めた。
「速水さん、ここ…」
「ああ、ここも改装されたな。」
真澄は駐車場に車を入れた。
「以前来たことがあるだろう。プラネタリウムだ。見て行こう。」
「懐かしいわ。」

真澄は受付で入場料を払い、ふたりはエレベーターを待った。
真澄の古い顔見知りの担当は姿が見えなかった。
「前に来た時のおじさん、居ないのかしらね。」
「ああ、定年にでもなったかな。」
「ここは、速水さんの小さい頃からの思い出の場所なんでしょ?」
「ああ、そうだ。もう、随分昔のことだ。」
エレベーターに乗り込み、扉が閉まると、真澄は素早くマヤを抱き締め、身を屈めてマヤに口づけた。
久しぶりの、口づけ。それはときめきを誘い、くちびるが甘かった。
やがて屋上でエレベーターが止まる。マヤはするりと真澄の腕をすり抜けた。
「誰か来るわよ…」
含羞むマヤに構わず、真澄はマヤの肩を抱いて、ホールに歩み入った。
プラネタリウムはちょうど上映中で、入れ替えの時間まで10分ほどだった。
「少し待つか。プログラムの開始から見よう。」
夏休み中のためか、子どもの姿が目立った。
「もう一度、ここに来ることができるとはな…。」
真澄が感慨深げに呟いた。
「二度と来ることは無い、って言ってたわよね。」
「ああ。あの時は見合いをしたばかりの時だった。」
「まさか、こうしてまたマヤ、きみとここに来る日が来ようとは、あの時は考えもしなかった。」
「いろいろ、あったわよね…」
「随分長いこと、夢でも見ていたような気分だよ。」
「梅の里で、並んで星を見たこともあったわよね。」
「ああ。そうだったな。」
「あの頃はまだあたし、速水さんの気持ちがよく分からなかった。あたし自身の気持ちも。」
「俺はあの頃は、一生きみの影でいるしかないと思っていた。」
「今は?」
「人生に感謝しているよ。マヤ、きみとこうしていられる。」
「速水さん…」
真澄はマヤの手を握りしめた。
チャイムが鳴り、上映時間の入れ替えになった。
「久しぶりのプラネタリウムだ。さあ、行こう。」
ふたりは手を繋いで、客席に入っていった。

真澄はドーム片隅の座席に付くとシートをリクライニングし、マヤのシートも倒してやった。
場内のライトが落とされる。真澄はマヤと手を繋いだ。
「遠き山に日は落ちて」ドヴォルザークの「新世界より」が静かに演奏され、上映が始まった。
プラネタリウムの白い空に遥か地平線の山影が描かれ、プラネタリウムに夕暮れが訪れる。
『宵の明星、金星です』
西空低く明るく輝く金星が描かれる。
じきに黄昏から、丸いドームの空には真の闇が訪れ、目映く輝く銀河と満天の星が灯された。
「綺麗…」
マヤが呟く。
返事の代わりに、真澄は力強くマヤの手を握った。
『夏の夕方に東の空からは夏の濃い天の川が昇ってきます。この付近に0等星1つと1等星2つでできた夏の大三角形があります。』
『はくちょう座デネブ、こと座べガ、わし座アルタイルを結んだ三角形です。』
女性の声の説明とともに、白鳥座、琴座、わし座のアニメーションが現れ、夏の大三角形を線で結んだ。
その雄大な眺めに、マヤは思わず溜め息をつく。
真澄は握っていたマヤの手を離すと、マヤの胸元に手を滑らした。
そしてゆっくりと真澄は薄着の服の上からマヤの乳房を愛撫する。
マヤが身じろぎした。
「速水さ…」
「マヤ、静かに…」
真澄がそっと囁く。久しぶりに逢ったのだ。少しの間でも、マヤに触れていたい。
真澄の愛撫で、マヤは総身に鳥肌が立った。マヤは思わずシートの手すりを掴んだ。
プラネタリウムの全天空に次々と投影される星影。
天空を見あげながら、暗がりで真澄は巧みにマヤを愛撫していく。
掌ですっぽりと乳房を包み、柔らかく揉みしだく。
敏感に窄まったその頂きを、平らにした指先で撫でさする。
甘い吐息が、マヤのくちびるから幽かに漏れた。
目の前に広がる大空と満天の星と真澄の愛撫で、マヤはぐらぐらと眩暈を覚えた。
真澄はマヤの脇腹に愛撫の手を進める。
敏感な部分を撫であげられ、マヤはビクリと身体を揺らした。マヤは高ぶる感情を必死で押さえた。
気配を周囲に気取られないよう、マヤはなんとか、喘ぎを押し殺す。
真澄はマヤの短いスカートを手繰り、大腿の素肌に指を這わせた。
久々に触れる、マヤの素肌。滑らかに肌理の詰んだ、若々しい弾力に富んだ肌。真澄はその感触を楽しんだ。
天空の星空が、ふたりを包む。マヤは身体が空に吸いこまれるような錯覚を覚え、必死で手すりを握り締めた。
内股、膝の裏、スカートの中のマヤの素肌。真澄の長い指が蠢いて、巧みにマヤの感じ易い箇所を滑っていく。
感じさせられて、マヤはリクライニングの姿勢を保つことも苦しい。
乱れがちになる呼吸も、必死で息を殺す。
真澄はマヤの内股のさらに奥に、指を進めた。下着の上から、マヤの躰の中心をゆっくりと探る。
マヤの感じ易い部分が敏感に反応して、小さく盛り上がっているのが真澄の指先に伝わる。
中指で、ゆっくりと真澄はそれを繰り返し軽く、撫でさすった。
怺え切れず、マヤが甘い声を出しそうになる。
その反応を真澄は心の内でいささか愉しんだ。
真澄はマヤの隆起した愛らしい小粒を強く擦りあげた。
危うくマヤは儚い喘ぎ声をあげそうになり、思い切り息を吸いこんだ。
下着が、しっとりと湿り気を帯びて、マヤの吐息が危うく乱れる。
真澄はマヤの小さい下着の端から、指をその中に滑り込ませた。
咄嗟にマヤが腰を揺らす。
そこは熱く潤ってきて、真澄の指を受け入れた。
久しぶりに受ける刺戟に、マヤは酷く過敏に反応した。
熱い潤いが溢れてくる。
真澄は丁寧にマヤの内部の襞をなぞり、緩急を加えてリズミカルに指を抜き差しした。
じきにマヤの外側の膨らみが大きさを増し、内部がきつく締まってくる。
マヤのそこは、十分充血し、小さく脈打っていた。
マヤは必死で乱れる呼吸を押し殺した。
細かく蠕動を始めたマヤの入り口に、真澄はその長い指を一気に差し入れ、奥深い襞までまさぐった。そして素早く指先で掻き回す。
マヤは快感に耐えかねて、腰を揺らめかせた。
真澄は愛撫に烈しい勢いをつけて、マヤを導いた。
マヤは両脚に力を込め、思い切り仰け反ると、快楽の頂点に誘われた。
真澄の指を、マヤの痙攣が締め上げた。
真澄は、ゆっくりとマヤから指を抜き取った。そして、マヤの髪を愛撫する。
耐えに耐えていた快感から解放され、マヤはぐったりとシートに身を投げ出した。
荒い呼吸を耐えていた緊張と秘所の快感から解き放たれ、マヤはようよう意識を取り戻した。
気が遠くなっていたマヤの耳に、それまで聞こえていなかったプラネタリウムの音声が、再び戻ってきた。
ペールギュントの「朝」が演奏され、プラネタリウムの東の空が白んできた。
東の空に、再び金星が輝く。
『明けの明星、金星が見えてきました。朝です。』
蛍の光が流れ、プラネタリウムの上映は終了した。


場内に灯りがともる。
マヤはようよう立ち上がると、フラリと真澄に倒れかかった。
「おっと。大丈夫か?」
「もう…速水さんったら…悪戯が過ぎるわよ!せっかくのプラネタリウムだったのに…」
「続きは別荘に着いたら、な。」
真澄は涼しい顔でマヤの繰り言を軽く受け流した。
「さて、行くか。」
マヤの紅潮した頬を満足げに眺めて、真澄はマヤを促し駐車場へ向かった。



プラネタリウム近くのレストランで昼食をとり、ふたりは出発した。
車は首都高から中央高速に入った。
真澄は軽快に車を飛ばす。
「中央フリーウェイ…」
マヤが口ずさむ。
「なんだ、松任谷由美か?」
カーブの多い高速を飛ばしながら、真澄が尋ねる。
マヤは助手席で車窓の眺めを満喫していた。
「歌では知っていたけど、この道走るの、初めてだわ。」
車はじきに東京を離れる。道沿いに遠くの山々が展望できた。
「音楽をかけるか。」
真澄はMDをセットした。
華麗な管弦楽と重厚な合唱が車内に響いた。
「これ、何?」
「モーツァルトの『戴冠ミサ』だよ。」
「ハイテンションな音楽ね。」
曲のラスト、『アニュス・デイ』は壮麗比類なき楽曲だった。
ヘンデル、ペートーヴェンと、真澄は次々とクラシックの名曲を車に響かせた。
マヤは心からドライブを楽しんだ。
車はじき諏訪インターチェンジに着き、真澄は高速を降りてビーナスラインに車を進めた。
「わあ、すっかり山ね!」
マヤが弾んだ声をあげる。
山を切り開いて作られた有料道路は、景観も見事だった。渓谷を臨み、遠くに霧ヶ峰を眺望できた。
白樺湖を通り過ぎると、じき女神湖である。ペンションがちらほらと建ち並んでいた。
高速を降りてから約40分。車は真澄の別荘に到着した。



 真澄は車を車庫に入れる。
「さて、着いたぞ。」
「わあ、懐かしい!」
別荘はマヤが来た6年前と少しも変わらぬ佇まいだった。
真澄はふたり分の荷物を持ちマヤの手をとって、木造の急な階段を上がる。
玄関のチャイムを鳴らすと、別荘番の山下がいそいそと出てきた。
「真澄さま、ようこそお着きで。おや、これは…」
「山下のおじさん、お久しぶりです。」
「マヤちゃんかい?おお、見違えたよ。すっかりいい娘さんになって。」
「山下さん、マヤのことはくれぐれも内密に頼む。」
「はい、伺っていた通り心得ておりますよ、真澄さま。」
「少し休憩するから、何か飲み物を。」
「かしこまりました。」
真澄は寝室に荷物を運び、リビングに降りてきた。午後の陽差しが、明るくリビングに差し込む。
開け放たれた窓からは、高原の涼しい風がそよいでくる。
山下は白樺高原特産のジュースを運んできた。
「どうぞ、ごゆっくり。」
「ああ、ありがとう。」
山下は台所に引っ込んだ。
「美味しい!」
マヤはジュースに舌鼓を打った。
そして室内をしげしげと見渡すと、しばし物思いに耽った。
「…よく覚えているわ。ここでヘレンの稽古をしたんだった。」
「いつだった?高校生か?」
「うん。高校一年の時。速水さんが電車の切符まで用意してくれたんだっけ。」
「稽古してた教会が取り壊しになって、稽古場に困っていた時だった。」
「この別荘じゅう、ガタガタにしちゃって、三重苦の稽古をした…。」
「あの頃から、速水さんにしっかり支えてもらって来たのよ。」
「稽古で挫けそうになった時、速水さんが来てくれた。」
「私、速水さんに抱きついちゃったのよね。」
「ああ、そうだったな。あの時は驚いた。」
「あの頃はまだ速水さんが紫のバラのひとだって知らないでいたわ…」
「きみの芝居にかける情熱、俺はそれに惹かれていた。」
「きみの芝居に出逢って、俺はそれまでの自分をつくづく省みたものだった。」
「誰より早く、速水さんが私を見い出してくれていたんだわ。」
「速水さんがいてくれなければ、私、ここまで来られなかった。」
「きみのヘレンか…何度観ても感動的だったよ。」
「あれから、いろいろなことがあったわ…。」
「ああ。過ぎてしまえば、皆いい思い出だ。」
「あたし、速水さんに逢えてよかった。」
「俺もだ。ずっとマヤ、きみとこうしていたい…。」
「速水さん…」
ふたりはひととき見つめ合い、どちらからともなく微笑み合った。


「少し歩くか。マヤ、外に出よう。」
真澄はマヤを伴って、湖畔の遊歩道へ向かった。
女神湖は蓼科山からの豊かな湧き水をたたえ、山影を映して美しかった。
遊歩道を、手を繋いでふたりはゆっくりと歩く。
道にはとりどりの高山植物が咲き誇っていた。
澄み渡る大空に鳥たちは歌い、高原の風は爽やかに吹き渡る。
白樺並木の白い色彩も、周囲の緑に映えて鮮やかだった。
「ああ、いい気持ち!いいところね。」
蓼科山は日本百名山に数えられる。女の神山(めのかみやま)と賞されて、その優雅な山容は白樺高原のシンボルである。
「ここの林、ヘレンになったつもりで、目をつぶって歩いたのよ。さんざん転んで、傷だらけになっちゃって。」
「きみも無茶をするからな。」
サイクリングを楽しむ一団とすれ違う。
「こうしていると、あのヘレンの稽古、つい昨日のことみたい。」
晩夏の遅い黄昏が近づき、湖水は夕焼けの空を映し出した。
西陽を背中に浴びて、ふたりの長い影法師が歩道に映る。
真澄は遊歩道を外れて、林の中に散策の歩を進めた。
森林の神秘な息吹が、ふたりを包む。
真澄はマヤをひときわ大きな白樺の樹に寄りかからせると、ゆっくりマヤに口づけた。
「ん…」
情熱的な、真澄の深い口づけ。それは巧みにマヤを誘う。
抗いがたい誘惑にときめき、マヤも夢中で口づけを返した。
ここは、ふたりだけの世界。
天地自然、世界のただ中で、彼らはふたりきり。
真澄はマヤを抱く腕に力を込めた。マヤも真澄に取り縋る。
しんと静まった黄昏のなか、ふたりを包む空気はふわりと甘く、涼風が肌に優しかった。
ひとしきりくちづけを交わすと、真澄はくちびるを離した。
うっとりとマヤが瞼を開く。
マヤを見つめる真澄の瞳が、眩しかった。
「行くか。夕食ができているだろう。」
「うん…」
マヤは真澄の腕に凭れ、真澄もマヤの背を抱いて、ひぐらしの声に送られ、暮れゆく夕闇の中ゆっくり別荘に戻った。


「お帰りなさいませ。お夕飯ができていますよ。」
山下夫婦が、ダイニングにふたりの夕食の支度をしていた。
「マヤちゃん、久しぶりだね。」
「はい、おばさん、あの時はお世話になりました。」
「ほんとに、すっかりいい娘さんになって。真澄さま、ようございましたわね。」
「ああ。」
真澄は肩をそびやかして、照れ隠しをした。
「いただこう、マヤ。」
「はい。いただきます。」
ふたりは夕餉の食卓についた。山下夫婦の心尽くしの晩餐だった。
ミートローフが舌にとろけるように美味で、野菜も新鮮である。
他愛のない会話を交わして、ふたりは食も弾み、綺麗に食事をたいらげた。
山下がコーヒーを運んでくる。
真澄は煙草に火を点けた。
「ご馳走様。美味かった。明日は起きたら呼ぶから、朝食はそれからでいい。」
「はい、真澄さま。では私どもはこれで。」
「ああ、ご苦労。」
山下夫婦はダイニングを片づけると、自宅へ戻っていった。



 寝室は真澄の指示で、ダブルベッドに替えさせていた。
「マヤ、先にシャワーを使っておいで。俺は後からでいい。」
「そう?じゃあお先に。」
「ああ、ゆっくりしておいで。」
マヤは荷物から着替えを取り出すと、浴室に消えた。
タオルで髪を纏め、バスタブに湯を張ると、マヤはゆっくり湯に浸かった。
久しぶりに真澄と過ごす夜を思うと、マヤは自然、頬が火照った。
念入りにシャワーで肌を洗うと、マヤは湯から上がった。
髪をとかし、コットンのネグリジェに袖を通す。下着も、新品を持ってきていた。
マヤが寝室続きの浴室から出ると、真澄はベランダで煙草を吸っていた。
「ああ、いいお湯だった。お先でした。速水さんもどうぞ。」
「よし、交替だ。」
真澄は湯上がりのマヤが醸し出すほんのりとした色気を目聡く見つめると、身軽に身を翻した。
マヤは階下に降りて、冷蔵庫から氷とジュースを取り出した。真澄のためにはビールとスコッチの水割りを用意した。
盆を持ってベランダに上がると、湯上がりで火照る身体に夜風が爽やかに心地よかった。マヤはテーブルに飲み物を置いた。
じきに真澄がバスローブを羽織り、髪をタオルで拭きながら、浴室から出てきた。
「速水さん、ビール飲む?」
「お、ありがとう。」
真澄はビールグラスの半分ほど、一息に飲み干した。
「ああ、美味い。」
ふたりは並んでカウチに腰を下ろし、夜空を見あげた。
「はい、水割り。」
「気が利くな。ありがとう。」
真澄はマヤからグラスを受け取ると、くい、とグラスを傾けた。
「うん、美味い。きみも飲むか?」
「ん、じゃあ少しだけ。」
マヤは真澄からグラスを受け取ると、ひとくち、ふたくち、口にした。
「星が綺麗ね。」
「プラネタリウムほどではないがな。」
「ブラネタ…速水さんったら、悪戯するから、ちゃんと上映が観られなかったわよ。」
マヤが繰り言を言う。
「また近いうちに行くさ。もう、いつ行っても構わない身分だからな。」
真澄はマヤを抱き寄せた。
「きみと初めてプラネタリウムを観た時には、まさか今こうしていられるとは夢にも考えなかった。見合いを控えていて…」
「あたしもだわ。速水さんのことが好きって気がついても、もう速水さんは婚約しちゃってた。」
「いろいろ、あったな…」
マヤとともに重ねた年月の重みが、真澄に深い感慨をもたらした。巡る日々、としつき。マヤとともに過ごした。
「ほんとに…。今は、あたしは幸せよ。恐いくらい。」
そのマヤの物言いが真澄にはいかにも愛おしく、真澄はマヤの耳朶にくちびるを寄せた。
「俺も、マヤ、幸せだよ…」
囁いて真澄はマヤの耳にほおっと熱い吐息を吹きかけた。ゾクリとマヤの総身に戦慄が奔る。
「あ…っ、速水さん…」
真澄はカウチにマヤを押し倒すと、上半身でマヤに覆い被さった。
マヤの髪に、額に、頬に、耳朶に、真澄は羽根のように軽い口づけの雨を降らせる。
そして、深々とマヤに接吻した。
湯上がりの真澄の唇は、アルコールも含んで、マヤの冷えかけたくちびるに、心地よく熱かった。
口づけながら夜着の上から、真澄はマヤの胸を揉みしだいた。

想いを交わす恋人同士に、遥かな夜空の星影が瞬いて、幽かな光を投げかけていた。

真澄はマヤのネグリジェのボタンを外し、肩と胸を露わにした。
マヤの感じ易い左の首筋に、真澄はくちびるを這わす。マヤの口から熱い溜め息が漏れた。
ベランダの薄暗がりに、マヤの真白い乳房が、ぼうっと浮かび上がる。
「綺麗だ…マヤ…」
真澄はマヤのまろやかな肩を愛撫し、豊かなマヤの胸に顔をうずめた。
夜風にしだいに冷えていくマヤの肌は、真澄に触れられた部分だけ熱して熱かった。
真澄の頬を押し返す、マヤの乳房の滑らかな若々しい弾力。久々に触れる、マヤの素肌。
真澄の欲情に火がついた。
「あ…あぁ…はやみ、さん…」
真澄はマヤの乳房を強く吸い上げ、点々と紅色の刻印を施していく。
吸われるたび、痺れるような、むずがゆいような鋭い快感が、マヤを襲う。
「あぁ…」
マヤは真澄の身体の下で身をうねらせた。
真澄は再び、マヤに口づけた。2度、3度、交わす口づけは、ますますその甘さを増していくようだ。
真澄に上体を組み敷かれて、マヤは幽かに震えた。
「…うん、寒いか?」
「少し…」
「よし、ベッドに行こう。」


真澄はマヤを軽々と抱き上げると、寝室に入り、後ろ手でベランダの扉を閉めた。
羽布団を捲りマヤをベッドに横たえると、真澄は寝室の灯りを消した。ベッドサイドランプの明かりも絞る。
真澄はマヤのネグリジェをすっかり脱がせると、自分もバスローブを脱ぎ捨て、裸体の素肌でマヤの身体を包み込んだ。
「速水さん、暖かい…」
肌と肌、触れ合う感触も久しぶりで、ふたりの心を熱くした。
求め、求めてやまなかった、互いの素肌。
今、ふたりは互いに求め合い、与え合う。
真澄は想いこめて入念にマヤの全身を愛撫していく。マヤの呼吸が妖しく乱れた。
愛撫の手は次第にマヤの身体の下に下がり、真新しい下着の上から真澄は掌ですっぽりとマヤの秘所を覆った。
マヤが幽かに呻く。
真澄はその下着を手早く脱がせた。
全裸となったマヤに再び真澄は身体を重ね、マヤの躰の中心に愛撫の手を進めた。
マヤの内股のすべらかで柔らかい皮膚の感触。触れれば真澄の指に蕩けてしまいそうだ。
真澄は軽く爪を立てて、その柔肌を撫でた。
マヤはあえかな喘ぎを漏らした。
「マヤ…」
真澄はマヤの大腿を大きく広げさせると、マヤの秘められた聖域に愛撫の指を進めた。
十分感じさせられ、マヤのそこは熱く潤っていた。感じ易い外側の珊瑚は愛らしく立ち上がり、震えて愛撫を待ち受けていた。
真澄はそっと指先で、それを繰り返し撫でさすった。
怺えきれず、マヤが甘い喘ぎを上げる。
滾々と熱い泉が、マヤの躰から湧きいでた。
「ああ、いや…」
濡れそぼる躰が、マヤ自身にも判る。マヤは恥じらった。
そんなマヤが、真澄にはいじらしく、愛おしくてならなかった。
高ぶる感情のまま、真澄はマヤに躰を重ねると、マヤの片脚を持ち上げ、熱く巨きく、一気にマヤを差し貫いた。
「あぁっ!」
「マヤ!」
真澄に躰で征服される目眩く快感。マヤは夢中で真澄に縋りついた。
マヤの躰の奥深く、真澄は進入した。そして、烈しい勢いで、腰を突き上げマヤを責め立てた。
「あぁ…はやみ、さん…」
「感じるか?」
荒い呼吸を乱して、真澄は言わずもがなの証を求める。
彼方に押しやられる危うい意識で、マヤは快感を訴えた。
真澄は存分にマヤを蹂躙した。
美しく、そして妖しく、マヤは真澄に応えた。
やがてふたりに、快楽の頂点が見えてくる。
真澄はいっそう思いの丈こめて、マヤを翻弄した。
「はやみさん…ああっ…」
真澄はマヤに達することを告げた。
「マヤ、一緒に!」
「ああああっ…」
ふたりともに、目眩く快楽の大波が訪れた。マヤの躰の奥深く、真澄はその逞しい精気を迸らせた。

真澄はマヤの乱れて頬にかかる髪を、指先で梳いてやった。
ようようマヤの呼吸の整う頃、真澄は軽くマヤに口づけた。
行為で、愛し合うこと、その喜びはマヤの心に満ちて、マヤの顔を生き生きと生気溢れる妖艶な表情に変えた。
真澄はこの、行為の後のマヤの表情、その魅力に、いつも心惹かれた。
俺が、こんなにしたのだ。その満足感も深かった。
真澄の腕枕に頬を寄せて、マヤはぐったりと真澄に凭れかかった。そしていつしか、マヤは浅い眠りに落ちていった。
真澄もまた、深い心身の満足のうちに、眠りについていった。



 翌朝。マヤが目を覚ますと、真澄がすでに起きていて、枕に頬杖をつき、たとえようもない慈顔でマヤの顔を覗き込んでいた。
「おはよう。」
「ん…おはよう。速水さん…」
真澄はベッドから身を起こすと、遮光のカーテンをさっと開いた。
朝日が眩しく、遠くに湖が望めた。マヤは眩しげに、真澄の均整のとれた逞しい裸体の後ろ姿を見あげた。
マヤは部屋の明るさに恥じらって、羽布団を襟元まで引き上げた。
真澄は悪戯っぽく目を光らせると、掛布団をさっと捲り、マヤの裸体を露わにした。
「きゃっ!イヤ…」
「見せてごらん。」
真澄は再びベッドに戻って、マヤの傍らに横になった。
両腕で胸を覆い隠すマヤの脇腹を、真澄はすい、と愛撫する。
真澄はマヤの両腕をほどいて押さえつけると、朝日を浴びるマヤの乳房を眺めやった。
「綺麗だ、マヤ…」
マヤの肌は臈長けて白く、瑞々しかった。
いくら愛しても、愛し足りない想いが、真澄にはした。
過ぎ行く時を惜しんで、真澄は朝日の中で、ふたたびマヤを抱いた。
貴重な朝の戯れと睦み合いの一刻が、過ぎていった。


マヤの熱い溜め息とともに、真澄はベッドに身を投げ出した。
時刻は10時を回っていた。
「そろそろ起きるか。腹は減っていないか?」
まだ愛戯の余韻に朦朧として、マヤは曖昧に答えた。
「う…ん、あんまり…」
真澄は枕元の電話で山下を呼んだ。
「起きれば食欲も出るだろう。シャワーを浴びてくる。」
真澄は言うと、浴室に消えた。
マヤは思い切り背伸びをして、ベッドに起き直った。躰のあちこちが、自分の躰ではないような気がした。
真澄が浴室から出てきた。
「交替だ。さっぱりしておいで。」
「うん。」
マヤもシャワーを浴び、丁寧にほつれた髪をとかして、浴室から出た。真澄はすでに着替え、ベランダで煙草を吸っていた。
マヤは落ちていた下着を拾い、荷物から着替えを出して手早く着替えると、真澄の傍に歩み寄った。
高原の透明な陽差しがベランダ一杯に広がっていた。
寝室のドアがノックされる。
「真澄さま、お食事の用意ができました。」
「ああ。ありがとう。今行く。」

真澄はマヤを促して、階下に降りた。ダイニングでは軽食の支度が整っていた。揚げたベーコンの香りが芳ばしく香った。
食べてみると、マヤの食も進み、ふたりは食事をきれいにたいらげた。
山下の煎れたコーヒーを啜りながら、真澄は旨そうに煙草を燻らす。
「真澄さま、今日はお出かけで?」
「ああ。美ヶ原に行って来る。」
「それはそれは結構ですな。今日はいいお天気で。お気をつけていってらっしゃいませ。」
「夕飯は松本でとってくるから、支度は結構だ。」
「かしこまりました。」
「さて、行こうか、マヤ。靴は大丈夫だな?」
「大丈夫よ。歩くんでしょ?」
「ああ。結構な距離だからな。」
「じゃあ、行ってくる。あとは頼んだ。」
「はい、いってらっしゃいませ。」



 山下に見送られて、マヤを乗せ、真澄は車を出した。
蓼科・八ヶ岳中信国定公園をビーナスラインで駆け抜け、2時間も走ると、美ヶ原に着く。
美ヶ原。アルプスの展望台。日本一高く、広く、美しい花の高原。
駐車場に車を停めると、ふたりは高原に出た。
広大な草原に、風が渡ってゆく。マヤは歓声を上げた。
ゆるやかな登山道を、真澄はマヤの歩調に合わせて、ゆっくりと歩く。
駆け抜けてゆく夏の終わりは、薄れてゆく、マヤの匂い。
尾根づたいに歩いて、王ヶ鼻から王ヶ頭山頂まで、約20分。高山植物が豊富で日本有数の山岳が眺望できる。
その日はよく晴れていて、標高2008メートルの高原から、八ヶ岳、遥か遠くに富士山も望めた。
「わあ、凄い山…」
「八ヶ岳だ。いつか、登ろうか。」
「速水さんが登山?社長室で書類に埋もれている人が?」
「こう見えても、スポーツはひと通り得意なんだぞ。スキーだって登山だって。」
マヤが明るくその言質を笑い飛ばす。笑い声は高い澄みきった空に吸いこまれていった。
美しの塔を通り過ぎて、ふたりは美ヶ原高原美術館に向かった。もう2時間は歩いただろうか。
美術館は、緑あふれる草原の屋外展示場に現代彫刻を中心に常設展示する、ユニークでスケールの大きい野外彫刻美術館である。
付属のビーナスの城からは、高原の反対側、浅間山も望めた。
標高約2,000メートルの牛伏山の東側斜面に広がる広大な敷地に、400点を越す彫刻が常設展示されている、贅沢な展示場。
光も風も刻々と姿を変える大自然の中で、彫刻たちは一瞬一瞬、新しい表情をみせてくれる。
美術館のレストランでひと休みし、ふたりは来た時とは反対側の登山道を降りた。
ヤナギラン、ノコギリソウなど美ヶ原高原全体ではおよそ200種類もの高山植物が咲き競うといわれている。
道々、咲き誇る高山植物を楽しみながら、ふたりはゆっくりと歩いた。
やがて黄昏も近づいてくる。思い出の丘駐車場付近では、雲海に浮かぶ、夕焼けの八ヶ岳が臨めた。
「わあ、素敵…」
真澄はマヤを後ろから抱きすくめて、その雄大な光景に見入った。
ふたりは絶景の山の自然を満喫した。

下山して駐車場に着くと、すでに日はとっぷりと暮れて、宵闇が忍び寄っていた。
真澄は車を飛ばし、松本市内に入った。
ライトアップされた松本城をぐるりと車で巡りると、松本駅近くのホテルに車を停め、ホテルのレストランで夕食をとった。
「すっかり遊んじゃったわね。」
「疲れたか?」
「ううん、大丈夫。山、素敵だった。また思い出が増えたわ。」
「いつもは伊豆の海だったけど、山の信州って、素敵ね。来て良かった。」
「明日は軽井沢を回って東京に帰ろう。軽井沢もいいぞ。」
「ほんと?嬉しい。」
食事を終えると、真澄は松本インターから中央道に入り、高速を飛ばして女神湖畔の別荘への道を戻った。



 その夜、旅の疲れも忘れて、ふたりは愛戯に熱中した。
真澄の腕の中で、マヤは何度も絶頂を迎え、烈しい愛の交歓に我を忘れた。
ふたりは熱した眼差しを交わし、睦言を交わし、口づけを交わした。
蓼科の静謐な夜の星空が、愛を交わすふたりを見おろしていた。
やがて、ふたりは、深い眠りに落ちていった。



 翌朝、また遅い朝食を山下に用意させると、ふたりは荷物をまとめて階下に降りた。
「今日はこれで軽井沢を回って帰る。世話になったな。」
「いえいえ、真澄さま。たまにはまた信州にもお越し下さいよ。」
「ああ、そうだな。ありがとう。」
食事を終えて、真澄の煙草とコーヒーで一息つくと、ふたりは車に向かった。
「山下のおじさん、おばさん、お世話さまでした。」
マヤはペコリと頭を下げた。
「おお、マヤちゃん、またおいで。」
「元気でね。」
「はい、おじさん達も。」
「それじゃ。行くぞ。」
山下夫婦に見送られて、真澄は車を発進させた。



 真澄は国道を北上し、軽井沢を目指して車を飛ばす。
蓼科山は、はるか後方に去って行った。
約2時間ほどで、車は軽井沢に到着した。

市街地を避けて通り、真澄は白糸の滝、万座の鬼押し出し園、翻って碓氷峠展望台と、午後一杯かけて名所旧跡へマヤを連れ歩いた。
いずれもマヤには初めて訪れる観光名所であり、連日の旅の喜びに、マヤの笑顔もひときわ輝いた。
車で走るどの道からも、浅間山が見えていた。
陽差しは透き通り、風は爽やかで、マヤが愛しい。真澄はひととき、幸福感に包まれた。


「締めくくりは万平ホテル、と行きたいところだが、今日はお忍びだからな。食事は中軽井沢のペンションにしよう。」
「お任せします。」
真澄は人通りの少ない道を選んで、中軽井沢の瀟洒なペンションに車を停めた。
レストランに入り、その日のディナーを注文する。
やがて彩りも鮮やかなフランス料理が運ばれてきた。
「軽井沢もいいところだが、マヤ、きみと連れだって歩くには人目に立ちすぎるな。」
「サイクリングも楽しいぞ。」
「サイクリングかぁ。あたし、ほんとにお芝居ばっかりやってきたんだなって、つくづく思うわ。」
「人生の楽しみはまだまだいろいろだ。マヤは俺についてくればいい。」
「うん、速水さん。ステキな夏休み、どうもありがとう!」
車なのでワインは控えめにして、真澄はマヤと杯を合わせた。


食事を終えて、ふたりは車に乗り込んだ。
「さて、東京へ帰るか。」
「ああ、楽しかったわ。」
碓氷軽井沢インターから上信越道に入り、藤岡JCTで関越に乗り換える。
あとは都内まで一本道だった。
真澄は眠気覚ましに華麗な管弦楽を鳴らしながら、とっぷりと暮れた関越道をひた走った。
マヤは、ウトウトと軽い眠りに落ちていた。



――思えば遠くに来たものだ。
マヤと出逢い、長のとしつき様々な事情、状況を経験し、艱難辛苦も乗り越え、今、ここにふたりこうしている。
巡るときつき、日々、ありったけの心ひとつで、どんなにマヤを愛したか。
日々はまた、巡るだろう。季節の訪なうたび、尽きせぬ思い出は、ふたりの間で語られることだろう。
巡る日々。
マヤと過ごそう。これからもずっと。いつまでも。



 車はマヤのマンションに着いた。
「速水さん、ありがと。」
「またしばらく逢えないが、身体に気をつけて無茶をするんじゃないぞ。」
暗がりの道路で、運転席から身体を伸ばし、真澄は素早くマヤにくちづけた。
「じゃあな。おやすみ。早く休むんだぞ。」
「うん。速水さんもね。おやすみなさい。」
真澄は手を振って、車を発進させた。
マヤは車が見えなくなるまで、佇み、真澄を見送った。






終わり






2002/10/13

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