涙の理由

後編

(続・伝えたい思い)

written by かつみぱぱ様















ACT1


初夏を思わせるような日曜日・・・
紅天女試演を大都芸能がプロモートする事になってから1週間が経った。

ある新聞の芸能記事欄・・・
かつて、紅天女の記事が掲載された事もあった。
また、稽古場で涙するマヤの写真が掲載された事もあった・・・
しかし、今日の記事は過去のどの内容とも違っていた。




北島マヤは、スタジオのスケジュールから、今日の稽古は休みだった。
白百合荘の麗と二人で暮らす部屋のダイニングのテーブル・・・
麗が見た新聞が開いたままになっていた。

「・・・麗・・・ベランダかな」

そうつぶやいたマヤは、何気に新聞を見た。

「・・・えっ!」

マヤは、掲載されている短い記事に、目がくぎ付けになった・・・

”大都芸能の速水社長、過労で倒れるが、入院せず明日仕事復帰”
”旧汐門水駅跡地をどう描くのか、その辣腕を業界が注目”


「速水さんが病気って・・・どうしたの・・大丈夫なのかしら・・・」

マヤはうつろな表情で、宙を見つめた・・・

”大都芸能に電話をすれば・・・思い切って水城さんを・・・”

「マヤ、おはよう!・・・今日は稽古は休みだろ」
「あっ、麗・・・おはよう・・・」

不意に声を掛けられて、マヤは少し驚いた。
気のせいか、いつもより麗の声が大きかった。

「・・・その記事読んだのかい?」
「え、ええ・・・速水さんが・・・」

「マヤ・・・変な事考えていないだろうね」
「えっ、変な事って、な、何も、わたしは」

「もう、マヤは嘘がつけないね。顔に思いっきり出てるよ、考えていたってね」
「・・・そ、そんな・・・」

マヤは、麗の言葉で、思わずうつむいてしまった。

「・・・マヤ、いいかい、記事には明日から仕事って書いてあるだろ。だから大丈夫だよ」

「そう、そうよね、きっと・・・うん、そうよね」

マヤは、気を取り直したようだった。

「あっ、まだ着替えもまだだわ、着替えなきゃね」

気にしていない素振りを見せるが、麗にはわかっていた。

”マヤ、あんたにとって、速水真澄が全てになってしまっているようだね・・・
でもねマヤ、少しの間だけ、速水真澄の事は忘れて私の話を聞いてよ”

麗はマヤに続けた。

「マヤ、今日は暇だろ?」

「・・・ええ、特に何もないわ」

「じゃあ、一緒に出かけようか」

意外な麗の誘いだった。

「えっ?買い物なら、いつも麗に頼みっぱなしだから、たまには、私が行ってくるけど」

「そうじゃないよ。今日だけは演劇の事は忘れて、どこかに遊びに行かないかい?」

「本当に?一緒に・・・ええ、行くわ、麗、連れて行ってくれる?」

マヤは、久しぶりに笑顔を麗に見せた。

「ようし、決まった。私をデート相手だと思って、目いっぱいおしゃれしてごらん」
「ええ、そうする!」

元来、切り替えが早いのがマヤの特徴でもある。
マヤは、早速布団をあげて、顔を洗い、部屋着に着替えた。
そして、朝食を済ませると、鏡に向かった。

「さあ、どんな服にしようかな・・・」

マヤは鏡を見ながら、服をイメージした。

”デートだと思って”

麗の言葉を思い出し一瞬マヤの顔が曇ったが

「そうだ、アカデミー芸術祭の時の服にしよう・・・」

マヤは、暗い気持ちを払うように、着替える服を手早く決めた。
そして、行く時間には早いが、着替えてしまった。


着替えが終わった姿・・・
鏡で自分を見つめた。

やがて、ある思いが浮かんできた・・・

「・・・この時もらったメッセージカード・・・
初めて紫の薔薇の人が速水さんだと思った・・・」

そう、思わずつぶやいたが、マヤは首を横に振った。

「さあ、次はどれかな」

過去を振り払ったあと、今度はバッグを選び始めた。
無数のバッグや、化粧セットが並んだ引き出し・・・

「これ・・・いえ、こっちのバッグに・・・」

しかし、マヤは、また動きが止まってしまった。

「・・・そうだわ、このバッグ・・・
アルディスの時、紫の薔薇の人からプレゼントしてもらった・・・」

やがて、マヤはの思考はある一点に定まってしまった・・・

「・・・みんな、みんな、紫の薔薇の人・・・速水さんからの贈り物・・・」

マヤは、涙を流し始めてしまった・・・

最近のマヤは、ほんの些細なきっかけで、まるで貝が口を閉じるように
その心が急に現世から遠ざかり、暗く閉じてしまう事が多かった・・・


「・・・マヤっ」
「・・・麗・・・」

マヤは不意に声を掛けられ、涙をぬぐう事もできず、ただ麗を見た。

「マヤ、出かけるのに駄目じゃないか、泣いたりしちゃあ」

「えっ、あっ、そんな、泣いてないわ・・・」

「無理しなくていいんだよ・・・誤魔化しようがないよ。
マヤがベスを演った時から大事にしている人・・・あっ・・・」

「ううん、いいの麗、いつもごめんね麗、いつも・・・でも服装は決まったわ」

マヤは、右手の甲で涙をぬぐいながら答えた。

「よし、じゃあ、少し早いけど、私もすぐに着替えるから、出発しよう・・・
さあ、涙をふいておいで・・・」

「うん、ありがとう、麗」

マヤは、もう一度鏡を見ながらほんの軽く微笑んだ。

「よーし、今日は電車に乗るとするよ」

麗は、もう一度、軽くお化粧をしているマヤに向かって言った。

「えっ、電車?」

「そう、歩いて駅に着いたら、そのまま切符を買って、電車で3つ先の駅まで行こう」

いつもはバスなのに、今日は駅まで徒歩。
そして、いつもは駅周辺で買い物なのに、今日は電車で出かける。

普通の女性と全く違う生活を送るマヤにとって、こんな予定は新鮮に思えた。
マヤは嬉しそうな表情を浮かべて麗の説明を聞いていた。

「マヤは行った事はないと思うけど、その駅のまわりには、オムレツ専門店にアイスクリーム専門店、
映画館もあるんだよ」

「へえ、そうなんだ。わたし、もうずっとそんな場所に行った事ないわ」

「駄目だな、そんなんじゃあ演技に幅が出ないよ。今日は、社会見学だね。目一杯遊ぼう」

「ええ、楽しみだわ」

「あっ、そうそう、大きなテーマパークや、プラネタリウムまであるんだよ」

「うん・・・」

マヤの顔がまた曇った・・・
急に、嬉しさが過去形になった。
その理由は、プラネタリウムがあると聞いた瞬間に
真澄と初めて行ったプラネタリウムを思い出したからだった。

麗は、マヤが一瞬垣間見せた陰りを感じて、思わずつぶやいた。

”マヤ、いいかい、今日、マヤは変わるんだよ・・・”








ACT2


日曜でも、午前10時台は、電車はガラガラだった。
特に、この電車は、都心へのベッドタウンとして栄えている街が多いせいか
休日の座席は半分以上空いていた。

「あっ、麗、あの煙突みたいなものはなあに?」

「自動車と並んで走っているわ、あの車速いわ!」

「あの子、座席に正座して窓の外見てるわ・・・」

マヤは、次々と見えるものを、いちいち麗に報告してくる。


「マヤ、いいんだよ、隣でわたしも見えてるよ」

「あっ、そうよね、ごめん、麗。なんか、わたし、ウキウキしちゃって」

「ははは、いいよ、いいよ、私はあんたの保護者だから、なんでも言っていいよ」

そう言うと、麗は優しく微笑んだ・・・

”そう、昔からマヤの保護者・・・人生不思議なもんだ・・・
あんたを見ていると、なんだか守りたくなるよ・・・
でも、正反対に、信じられない素晴らしい演技の数々・・・
いい勉強をさせてもらっているよ・・・”


やがて、電車は3つ目の駅についた。

「さあ、降りるよ」

腕時計を、ちらりと見た麗はそう言うと、座席を立ち上がった。

「うん」

マヤも立ち上がり、二人は電車からホームへ降り立った。
ホームから地下へ降り、そのまま改札へと向かった。
ホームの方が高い構造なので、そのまま地上へと出られた。

マヤは、麗に続いて、自動改札の手前まで歩いた。
そして、麗が切符を自動改札に入れるのを目で追っていた。

”次はわたし・・・そうしたら、麗の言うとおり、つらい事やお芝居の事は
全部忘れて、今日は遊んでしまおう”

そう思ったマヤは、突然驚いた。

「・・えっ?」

切符を自動改札に入れると思っていた麗が、突然、立ち止まったからだ。
更に後ろから来る人に道を譲るように、横にどいたのだ。
そして、マヤの腕をつかみ、同じように、横に立たせた・・・
改札から出ないで、二人は立ち止まってしまった・・・

「・・・どうしたの、麗・・・?」

一瞬、マヤは不安になった。

確かに、マヤは演技をしていないときは、平凡な子に見えた。
とても紅天女候補のマヤとは気づかれない。
しかし、流石に、どこかの記者にわかってしまったのだろうか・・・


”今日は中止・・・?”

マヤは、頭の中で嫌な事を思いを浮かべた。

”せっかく来たのに・・・”


「・・・マヤ、ごめんね」

「・・・どうしたの麗?」

麗の言葉に、マヤはますます不安が大きくなった・・・

「ごめん、私、嘘をついていたんだ・・・」

「・・・えっ、どういう事?」

「・・・良く聞いてね、マヤ・・・」

「・・・ええ」

「私は、改札を出ないで帰るよ・・・」

「えっ・・・ど、どうして?」

「・・・マヤ、落ちついて良くお聞き・・・私はね、ずっと、あんたを見てきた」

「何を言うの、麗・・・」

「デビューから、今日まで・・・あんたは本当に一人でがんばってきた」

「・・・わたしが、ここまで来れたのは・・・
紫の薔薇の人だけでなく、麗、あなたがずっと支えてくれたからだわ!」

「ああ、そう言ってくれると嬉しいよ・・・でも、私はね、マヤ、逆に感謝しているんだよ」

「えっ?」

「マヤと出会えたおかげで、本当の演劇、本物の世界に連れていってもらえたと思っているよ。
そのおかげで、私なんかにさえ、テレビドラマの話が来ているよ」

「本当!こんなところで、そんなすごい話!・・・でも良かったね、麗!」

マヤは、自分の置かれている不安な立場を忘れて、本当に嬉しそうな表情をした。

「そう、それだよ、マヤ・・・あんたはね、心に嘘がないんだよ・・・いつでも本心・・・
打算のない愛で包まれている・・・それこそが、たぶん、月影先生が求めているもの・・・
紅天女の資質・・・いや、みんな誰でも、本当は一番大事にしているもの・・・
そんな気が、ずっと、ずっとしていた」

「・・・麗」

「いいかい、マヤ、私はここまで、保護者みたいに暮らしてきて、本当に良かったんだよ・・・
ただね、この1年間、あんたの苦しむ姿・・・ホント、私も苦しいんだよ、もうつらくて・・・」

「そんな・・・わたしのために・・・」

「夜、一人泣いて朝まで起きて、稽古に行って、また泣いているだろ・・・
普通の女の子は、そんな事にはならないで、もっと早く自分の好きな人を見つけて告白し
もっと有意義な人生を送っている子が多いと思う・・・」

「・・・何を言っているの、麗?」

「マヤ、この改札まで来た理由、それはね、本当に来てくれるのか心配だから・・・
だから、ここまでついて来たんだよ」

麗はそういうと、マヤを改札の方に押しやった・・・
一瞬、マヤはよろめき、そのまま改札の外を無意識に見た・・・

「・・・!」

マヤの瞳に、信じられない人が映った・・・

自動改札を出たところに、少しうつむきかげんの速水真澄が立っていた・・・!

「私はね、あの人に送り届けるために、ここまであんたを連れてきたんだよ!」

そう言った麗の声は、真澄から目が離せなくなってしまったマヤには、もう届かなかった。








ACT3


麗は、先週、”聖”という男から電話を貰った。
その男は、紫の薔薇の使いだと名乗った。

マヤが紫の薔薇の人の正体を知っている事は勿論、
麗も、紫の薔薇の正体をマヤから聞いている事など
その聖と名乗る男は、まだわかっていないようだった・・・

聖は、紫の薔薇の人が、麗に会って、頼みたい事があると伝えてきた。
麗は、直感で、電話の向こうに、もう一人誰かいると思った・・・

”きっと、紫の薔薇の人・・・いるに違いない”

麗は、思い切った行動に出た・・・

「聖さんとか言ったね・・・その話、本当かどうか・・・あなたは、いつからマヤの前に現れたんだい」

「・・・それは・・・一つ星学園際・・・作品ナンバー707愛しのオランピア、です」

電話口の向こうの男は即座に答えた。

「・・・!」
麗は驚いた。
あっている・・・以前、マヤから伊豆で聞いた話だったのに・・・

「・・・もうひとつ、聞いていいかい」

「・・・はい、何でしょうか」

「・・・そこに、紫の薔薇の人・・・いるんだろう?」

「・・・いえ、ここいは、いらっしゃいません。非常に多忙なお方で・・・」

「そうかい・・・なら、違う質問をしよう・・・一度も会った事のない人間を信用するほど
わたしは、お人よしではないんで、先に聞きたい・・・その人は、私に告白でもするのかい?
それとも、やっと姿を現して、マヤに会いたいのかい・・・聞いて欲しいんだよ」

「・・・それは・・・いいでしょう、はっきりとお願いします。
紫の薔薇のお方は、今のマヤ様の状態をとても心配されております。
そこで、是非紅天女のヒントを、ある方とお会いして受け取って欲しいとのお願いなのです」

「ある方?・・・それは、速水真澄かい?」

「えっ・・・!」

聖は絶句した・・・まさか、麗は、紫の薔薇の人の正体を知っているのではと・・・



真澄は、電話をかけている聖の隣の部屋にいた。
一見、何も動じないような顔でタバコをくわえていた。
しかし、そのタバコには火がついていなかった。
真澄は、そんな事には気が付いていなかった・・・

”聖、何を話しているのだ・・・”



麗は続けた・・・

「・・・どうやら、図星のようだね・・・適当に言ったんだけど・・・
いいかい、逆に良く聞いて欲しい。
マヤは今、どん底だ・・・演劇に一番乗ってなきゃいけないのに・・・
舞台嵐の騒動や嫉妬、たった一人の家族のお母さんの死、芸術大賞のプレッシャーとか
いろんな壁を一人で乗り越えてきた・・・
そして、待ち望んでいた紅天女の試演直前・・・
それなのに、あの子は悩んでしまっている・・・
私にはわかる・・・あの二人には運命的なものがあると思う・・・
だから、周りでとやかく言っても仕方ない・・・誰が紫の薔薇かは知らないが
とにかく、二人は今、会うべきだと思う」

「・・・はい、同感です」

聖は、内心、麗が自分と全く同じ考えを持っているので、驚くと同時に、なぜマヤと
ずっと一緒に生活しているか理解できそうな気がした・・・

また、麗も、聖の受け答えから、今までなぜマヤと速水真澄の橋渡しをこの男がしていたのか
理解できそうな感じがしていた。

「聖さん、二人を端から見てきて思うのは、紫の薔薇の人・・・何か深い訳があると思う。
部外者は、決して立ち入ってはいけないと思う・・・
だから、私は、北島マヤと速水真澄をただひき合せるだけにした方がいいと思う」

「・・・はい、そうですね・・・あなたは、とても聡明な方でいらっしゃいます」

「それは、どうもありがとう・・・」

「・・・では、後ほど場所を連絡します」

「ちょっと待って、うちの周りは、車で記者がちょくちょくいる・・・悪いがどこか近くの駅にしたいんだ」

「了解いたしました。・・・あなたとお話ができて良かった」

「ああ、こちらもね。連絡を待っているよ」

麗はそう言って、電話を切った・・・





「真澄様、青木麗様が、直接マヤ様を連れてきてくれるそうです」

「・・・そうか・・・彼女には、どこまで話をしたのだ・・・」

「・・・紅天女の重要なヒントを、真澄様からお話をしたいので
本人にも内緒で連れ出して欲しいとだけお伝えしまました・・・
場所は3日以内に決めます。水城様から予定を転送させてください」

聖は、要点だけを真澄に伝えた。

「・・・そうか・・・よろしく頼む・・・」

そう言った真澄は、やっと火をつけたタバコの煙を吐き出すと、窓に映る自分の顔を見た・・・
その顔は、仕事の鬼、辣腕、日本芸能プロナンバー1などと言われる面影は全くなかった。
まるで最終判決を待つように青ざめていた。
そして、全てを天に委ねたようでもあった・・・


3日後、なぜかマヤがいない時間で、麗が家にいる時に聖から連絡があった。
白百合荘に一番近い駅から、3つ先の駅の改札口にマヤを連れていく事になった。

「真澄様、聖です・・・決まりました。桜ヶ丘駅です。改札は一つしかございません。
改札の出口に、日曜日の午前11時に・・・」

「・・・ああ、わかった。いつもすまない・・・」

「いえ、とんでもございません・・・幸運を祈っております」

「・・・わかった」

真澄は頷くと、受話器を置いて、そのまま夜のオフィスからネオン街を見つめた・・・
聖の電話をうけながら、だんだんと地に足が着かなくなり、自分の体が
何か別の存在になってしまったような錯覚におちいってしまった・・・
そして、思いをつぶやいた・・・

”俺は、早く・・・君に会いたい・・・
1日だけ全てを忘れて君と一緒に歩きたい・・・
君にもう一度、ちゃんと謝罪したい・・・
そして、もし・・・もしも、許してもらえたら・・・
俺は・・・俺は・・・君への思いを伝えたい・・・!

俺の星空への願い・・・
たった1日だけなら・・・
叶えてもらっても罪にはならないと思う・・・
そして、君の涙の理由を聞いてあげたい・・・”

そうつぶやいた真澄は、ガラスごしの自分の顔に驚いた。
顔色は蒼白だが、何かを感じる鋭い瞳が映っていた・・・

”俺は、マヤの事だけは、これほどまでに情熱を傾けられる”

マヤと会う決意を固めた真澄は、もはや冷血漢などではなかった。
マヤへの熱い思いを秘めた、ただの一人の男だった・・・
しかし、その直後、真澄の脳裏に”紫織”の事が浮かんだ・・・

”俺は・・・思い出を胸に、偽りの人生を生きるしかない・・・”

真澄は、暗くなった瞳で、そうつぶやくと、またタバコに火をつけた・・・








ACT4


改札の内側にマヤと麗はいた・・・

そして、改札の外には、速水真澄が立っていた・・・

「・・・ここから先は、あの人にバトンを渡すよ・・・」

「・・・じゃあ、今日は・・・その為に・・・」

マヤは、やっと麗が、真澄と会わせてくれた事に気がついた。

真澄は、明らかにかなりの長時間マヤを待っていたにも関わらず
なんの淀みもなく、ただマヤを見つめた。
真澄の瞳は、マヤから視線がずれる事など全くなかった。

”マヤ・・・梅の里の夢に見たマヤ・・・
俺の思いは、もう堰き止める事ができなくなっている・・・
マヤ、君の本心を・・・思いを知りたい・・・
君の涙の理由を聞きたい・・・”

真澄は、万感の思いを込めて、マヤをただ見つめていた・・・
そんな真澄の視線は、マヤを痛いほど射抜いていた・・・
そして、マヤの瞳も、磁石のように真澄の顔を見つめたまま動かなかった。

”は、速水さん・・・なんで、どうして、ここにいるの?
なんで、一人でわたしを待っているのですか?
速水さん、そんな、優しくて、でも、悲しそうな目で
わたしを見つめているのですか?
わたし、わたし・・・困ります・・・
あなたの顔から視線をそらせられない・・・
わたし、何か、何か、へん・・・
身体が・・・熱い・・・!”

二人とも、完全にただ、突っ立ってしまい、何も切り出せないでいた。
その姿は、まるで、初めてデートをするカップルそのものだった。

「さあ、マヤ、切符を入れて!」

見かねた麗は、そっとマヤの背中を押し、切符を持つマヤの右手を触った。

「・・・あっ」

反射的にマヤは、改札機に切符を入れて、そのまま改札を通過してしまった。
そして、改札出口にいる真澄の目前に立った。

「・・・やあ、ちびちゃん・・・今日は、突然で、すまない・・・」

真澄は、いつもの歯切れの良い話し方には程遠い、何かぎこちない挨拶をした。

「え、ええ、あっ、いえ・・・でも」

対するマヤも、急に緊張して、訳のわかない受け答えで上目遣いになった。
そして、よく見ると、その頬は赤く紅潮していた。

”そうだ!”
マヤは、ふと、さっき読んだ朝刊の事を思い出した。

「あの、あの、お身体の具合は・・・」

「・・・!・・・ああ、大丈夫だ・・・心配してくれて嬉しいよ」

そう言った真澄の顔は、誰にも見せた事のない、優しい微笑みを浮かべた。
マヤが心配してくれた事に対して、本当に心の底から嬉しそうだった。


その二人のやりとりを、すぐ横で見ている麗は驚いた。

”速水真澄・・・なんて嬉しそうな顔・・・会いたいってのは本当なんだね・・・
そしてマヤ、なんて可愛い表情・・・ああ、この二人はお似合いだよ・・・
歳の差なんて、全く関係ないよ・・・連れて来て良かった・・・
このあと、どうするかは、二人で決める事だね・・・”

そう内心呟きながら、麗は二人に改札の内側から声をかけた。

「今日は、大都芸能と紅天女の休日だよ。天女さまと社長さんにも息抜きが必要だ」

「麗!」

割と大きく良い発声で麗が言ったので
マヤと真澄は顔を見合わせ思わず笑ってしまった。
そして、やっと肩の力を抜いた真澄が麗に声をかけた。

「麗さん、ちびちゃんを1日借りるよ」

「ええ。ただ、いくら大都の社長でもマヤを泣かせたら、承知しないからね」

「麗!泣かないわ、こんなところで」

マヤも、やっといつものマヤに戻ったようだった。

真澄は、マヤにあたらめて向き合った。

「・・・ちびちゃん、今日1日だけ、社長の休日に付き合ってくれるか?」

マヤは、驚くべき急展開で頭の中がぐちゃぐちゃになったが、それと反対に
身体の奥の方から、何かが生まれてくる感じがしていた。
そして、思いもよらない感情が、自然にマヤの心をいっぱいにした。

”速水さん・・・今日は、絶対・・・あなたと、一緒にいる・・・!”

しかし、マヤの口からは、心の中とは違う言葉が出てしまった。

「・・・いいですけど・・・ただ、速水さん、いつも言うとおり、わたしは、
もう、ちびちゃんではありません!」

そう言うと、マヤはまっすぐ早足でどんどん歩き出した・・・

いつもなら、そのまますれ違って、別れてしまう二人だった。

しかし、今日は違った・・・
そう、改札の外側には、マヤと真澄二人だけ・・・

「マヤっ」

マヤは真澄が呼び止めても、そのまま振り向かないで足早に歩いていった。



マヤは、怒っているわけではなかった。

”いきなり二人きり・・・恥ずかしい!・・・でも、でもなんだろう、凄く嬉しい!”

マヤは、頭の中が真っ白になっていた。



真澄は、麗に目で礼を言うと、マヤを小走りに追いかけていった。

「ちびちゃん、どこへ行く気だ」

しかし真澄は、言葉とは裏腹に、マヤの後姿を追いかけながら小さく笑みが浮かんでいた。

”ああ、夢のようだ”

真澄は、遠い昔に忘れてしまった感情を思い出した。
あの暗い海で捨て去った感情・・・

麗は、二人がモール街に消えていくのを見届けると、またホームへ戻っていった・・・

人通りが多くなってきた綺麗なショップが並ぶモール街の入口で
真澄はマヤに追いつき、もう一度声を掛けた。

「ちびちゃん、転んだりしたら、危ないぞ」

その言葉と同時に、マヤは、急に立ち止まった。

”マヤ?”

マヤは、急に手をうしろにまわして、腰のあたりで組んでから、くるっと振り向いた。
その顔を見た真澄は思わず絶句した。



マヤは、演技とか、紅天女の事など、完全に忘れてしまっていた。

元々が、本能的ともいえる演技のマヤであるから、きっかけ一つで変わってしまう・・・

この1年以上、毎日、真澄が紫の薔薇の人と名乗ってくれない事や、紫織の事で悩んできた。

紅天女の稽古中、もう何度泣いたか覚えていないほどだった。

しかし、たった今、本当の悩みの原因が今わかったのだった。

”速水さん、今日は泣いたりしなくていい!だって、だって・・・”

本当の悩み・・・

それは、愛する真澄に二人だけで会いたい・・・

それこそがマヤを涙させた原因だった。

全く予想していなかった、麗からもらったプレゼント・・・
そして真澄と二人きり・・・

マヤは思い悩んでいた事が、嘘のように小さい事に思えた。



真澄に振り向いたマヤの顔・・・
それは、あたり一面が花開くような満面の笑顔だった。
春の日差しを受けて、まぶしいばかりの笑顔だった。

「ちびちゃん・・・!」

真澄は足が止まった・・・

今まで、思い悩んで来た事・・・
それが全て洗い流されるような、満面の笑み・・・

”マヤ、君のその笑顔・・・何年振りだろう・・・
いや、違う、今まで、そんな笑顔はなかった。
その笑顔、俺に、この俺に向けてくれるのか!
ああ、なんて可愛い笑顔なんだ、マヤ!”

真澄は、昼間だというのに駆け寄って、抱きしめたい衝動に襲われた。
本当にそうする寸前だった。

しかし、辛うじて理性が戻ったのは、マヤの一声だった。

「速水さん!もうわたしは、ちびちゃんじゃあ、ありません!」

マヤは、表情は怒っているが、口元はかすかに笑みを浮かべて
少し離れた真澄に怒鳴った。

”はっ”

真澄は、一瞬、あたりの雰囲気が変化し、マヤに視線が集まっている感じを察知し
急に自分を取り戻した。

”紅天女候補・・・!”

いくら平凡と言われていても、今のマヤは、信じられないほど光輝き始めていた。
男性なら、誰でも振り向く愛くるしい魅力に溢れていた。
マヤの全身から、真澄に向かって長い間押さえられていた愛情が発せられたからであった。
そして、その光は、大人の男性だけではなく、ついに、女性にも、子供にも、年配者にも
降り注ぎ始めた。

「・・・あれって、もしかして、紅天女の北島マヤじゃない?」

まわりの数人がマヤに気が付き、声を出した。

万人の中でも、ただ笑うだけで、秀でてしまう不思議な魅力・・・
マヤは大衆の中でも、自然と注目を集める不思議な魅力を身につけていた・・・

「まずい、マヤ、行くぞ、手をしっかり握れ」

真澄は、マヤの右手を、大きな自分の手で、しっかりと掴んだ。
そして強引にマヤの手をひっぱって、その場から駆け出した。

「あっ、速水さん」

二人は、人で溢れる中央通りまで走った・・・



やがて、二人とも息が荒くなっていた。

メイン通りは、人がかなり多く、派手な服装の人も多いので、やっとマヤは目立たなくなった。

やがて、中央広場の憩いの場にあるベンチで二人は足を止めた。


「・・・と、とりあえず・・このベンチに・・・座ろう」

久しぶりのマラソンで、二人とも息が荒くなっていた。

「・・・はあ、はあ、はや、みさん、急に走らないでください」

「・・・あ、ああ、危なかった・・な」

「・・・何がですか?」

マヤは、よくわかっていないようで、本気でむくれた。

しかし、その表情に、真澄は、また愛しさを感じてしまった。

”ああ、マヤ、今度は、なんて可愛い顔をするんだ、君は・・・”

真澄は、もうマヤの虜だった・・・








ACT5


「・・・速水さん、速水さん、聞いているんですか?」

「えっ、ああ、聞いているよ」

「本当ですか、何か上の空って感じ・・・今わたしが言った事わかりました?」

「・・・・?」

「ほら、聞いていないですね。もう一度言いますよ。

だから、もうちびちゃんって呼ぶのはやめてくださいってお願いです」



”ああ、そうか”

真澄は、やっと、マヤの顔から視線をはずし
耳をマヤの言葉に振り向ける事ができた・・・
久しぶりに見るマヤの笑顔・・・そして、昔と違う愛らしい表情・・・

”・・・”
真澄は、ある考えが浮かんだ。

軽く睨むマヤの耳元に、突然、真澄は口を近づけた。

真澄の思わぬ大胆な行動に、マヤの心臓は激しく鼓動した。

「このまま動かないで・・・」

「・・・?」

真澄は、マヤの耳元で囁いた。

「ちびちゃんが駄目なら・・・今日は、マヤって呼ばせて欲しい」

「・・・えっ?」

マヤは、真澄の以外な行為と、熱い吐息と、全く予想しなかった言葉で、顔が真っ赤になった。

「頼む。いいな・・」

「・・・は、はいっ!」

マヤは、いつもの真澄の調子に加えて、何か真剣さを感じて、思わず返事をした。


”速水さん・・速水さんが・・・こんな・・・”

マヤは、心臓の動悸がどんどん早くなるのを感じた・・・

「マヤ・・・いろんな事があったな・・・いろんな事が・・・」

真澄は、横でそう呟くと、マヤを真っ直ぐに見つめた。

”速水さん、どうしたのですか?一体あなたは・・・”

マヤは不意に思った。

”・・・速水さん・・・わたしの・・・手を握って欲しい・・・!”



二人とも、言葉が少なくなった・・・

それは、まるで、初恋同士が、始めてデートをする様によく似ていた。

「・・・さあ、どうしようか・・・どこか好きなお店にでも行こうか」

「・・・どこでも、どこへでも、いいです」

「えっ・・」

真澄は少し驚いた・・・マヤの態度が変わって来た事に・・・

言葉に力がない事に・・・

「どうした・・・そうだ、まずは食事だな・・・すまない、すっかりお昼は過ぎていた」

時計はもう、午後1時を回っていた。

「好きなお店はあるかい?」

「・・・えー、どこでも・・・」

「・・・困ったな・・・」

困った顔をした真澄に、マヤは、パッと反応した。

「・・・どうしたんですか!速水さん!」

そう、マヤは、自分のあやふやな言い方が真澄を困らせたのかと思い
バッタのように反応した。

実は、マヤは、もっと違う事で、どうしたら良いのか悩んでいので
返事もあやふやだったのだ・・・

”速水さん、あたし、どうしたんだろう・・・体が熱いの・・・
会話が頭に入らない・・・あたしは、ご飯も、飲み物も、何もいらない・・・
ただ、あなたの顔を見ていたいの・・・手を握ってもらったまま・・・
それだけ、それだけしか、頭に浮かばない・・・どうしたんだろう、わたし・・・
速水さん・・・立ってられないかも・・・しれない・・・”


「・・・実は、俺は、女の子と二人でお昼ご飯を食べた事などないんだ」

「・・・あっ、そう、そうなんですか!」

マヤは、真澄が困っている原因は、本当に店を決められない事だと感じた。

”そうなんだ”

マヤは、急に真澄を愛しいと感じ、落ち着きを取り戻してきた。

”それなら、わたしが決めてあげる”

11歳も歳が離れているのに、マヤは平気で言った。

「しょうがない社長さんね、じゃあ、今日はマヤの普通の女の子のブランチにご招待します」

「・・・ふっ、かなわないなあ、でも、是非頼むよ」


やがて、二人は、ハンバーガーショップで食事をとっていた。

「マヤのブランチはこれかい?」

「そうですよ、何かお気に召しませんでしょうか、速水社長」

「そんな事はないよ、うん、おいしいよ・・・」

「そうでしょっ!最後に追加でアップルパイ行きますよ」

「はは、全くマヤ、君は・・・」

「おかしかったですか?」

「・・・いや、マヤ・・・君と二人でこんな風に食事をできて、本当に嬉しいよ・・・」

「えっ!・・・は、速水さん・・・」

マヤは、文字通り顔が真っ赤になってしまった。

周りから見ると、二人は、どう見ても恋人同士だった。
しかも、付き合いの長い恋人同士に見えた・・・
なだめたり、すかしたり、怒ったり、優しく語ったり・・・・

そして、二人の瞳には、熱い思いが伝わっていた・・・
特に、マヤの真澄を見つめる瞳には、かすかな潤いと、期待と不安の入り混じった
それでいて熱い視線だった・・・
そして真澄の方も、熱い思いを秘めていた・・・

”マヤ、今日こそ、君に伝えたい・・・
君のお母さんの事で俺をどう思っているのか・・・
また、この抑える事ができない気持ち・・・
そして、君の涙の理由を・・・”


しかし、きっかけが無かった。

午後の街を、二人は、ただ散歩した・・・







ACT6


フリーマーケットを見たり、CDショップを見たり
二人はこのうえない時間を共に過ごしていた・・・

ゲームセンターにも入って、マヤは初めてUFOキャッチャーをやった。
マヤは10回やっても何もとれなかった。
店員が泣きそうなマヤを見て配置を変えようとしてくれたが
それを制した真澄が1回でキティの人形をとってくれた・・・
しかし真澄は、景品をくれなかった。

「最後までいてくれたら、帰りに渡すよ」

と、昔みたいにおどけて見せた。
大都芸能の社長ともあろう人が、キティのぬいぐるみをを持ち歩いていた。

楽しい、夢のような時間だった・・・
しかし、時折、真澄が何か話しをしたいような顔をした・・・

「・・・速水さん・・・どうしたの?」

歩きながらマヤが尋ねた・・・

「・・・いや・・・なんでもない・・・」

少しづつ真澄はあせってきた。

もう、5時近くになっていた・・・

”いくら何でも、夜までマヤを連れて歩く事は・・・
俺の思いを伝えたいだけなのに・・・
なんて勇気がないのだ・・・
速水真澄ともあろうものが・・・”


真澄は、マヤの前で、思うようにいかない歯がゆさを感じていた。

ふとその時、右手に高層のオフィスビルがあった。

その案内に、こう掲載されていた・・・「高層プラネタリウム」・・・

思わず足が止まる。

”プラネタリウム”

そして、マヤを振り向くと、マヤはまっすぐに真澄を見つめていた。


”速水さん、まだ帰りたくない・・・!
わたしになにか言おうとしてますよね、速水さん・・・
良い事でも、悪い事でもいいから
今日はあなたの思いを教えてください・・・!”

マヤは心の中で叫んだ・・・



「・・・マヤ、見ていこうか?」

「・・・ええ、速水さん」

二人の思いは同じだった・・・


”まだ、帰りたくない・・・”




最上階近くに、そのプラネタリウムはあった。

「大人2枚」

真澄がチケットを購入した・・・

”大人・・・2枚か”

真澄は一瞬不思議な感じがした。

”マヤも、もう大人だ・・・”


やがて、上映が始まった。

”広大な宇宙空間”

”ちっぽけな存在に思える自分”

二人は、昔二人で見たプラネタリウムを思い出していた。



マヤは心の中でつぶやいた

  ”満天の星”  

真澄も心の中でつぶやいた

  ”満天の星”  


やがてプラネタリウムが終焉を迎えた。
まだ薄暗い中、お互いを見つめた・・・

マヤと真澄は同時につぶやいた・・・

「満天の星・・・」


観客が、順番に席をたっていく・・・
数人は、まだ席にいた・・・
マヤと真澄も、まだ席を立っていなかった・・・

「マヤ」

「・・・あっ、は、はいっ」

「ひとつ、頼みがある・・・」

「・・・な、何でしょう・・・」

「・・・握ってくれないか・・・俺の手を」

「・・・!」

「・・・頼む、いいな」

”速水さん、本当に、どうしたのですか!”

マヤはそう心の中でつぶやいた。

そして、大きく息を吸ってから、つぶやいた。

”速水さん、わたしも握って欲しかったの!”

「・・・はいっ」

心臓がもの凄い勢いでドキドキしながら、真澄の右手をマヤはなんと両手で握り締めた。

”速水さん!夢ならもう少し覚めないで!”

「マヤ・・・!」

真澄は、拒否されるかもしれない覚悟をこめて言い放ったのに
逆に熱く両手で握り返すマヤに驚いた。
思わず、真澄も力をこめて手を握り、マヤの瞳を見た。

”マヤ、どうしたんだ、拒否しないのか・・・!”

真澄の心の中にマヤの温もりが、手から大きく広がっていった。
そして、マヤの無垢な瞳は、真澄を凝視していた。

”なんて可憐な・・・”

マヤの視線は、まっすぐに真澄の瞳にすいこまれ
反対に真澄の視線はマヤの瞳に吸い込まれていくのを感じた。

真澄の心の中にマヤが大きく、大きく満たされていった・・・
真澄はもう、全ての事を忘れた・・全て大した事ではない事を悟った・・・

今、夢にまで見たマヤがここにいて、真澄の手を握ってくれている。
そう思った瞬間、真澄はなんとも言えない幸福感に包まれた。

そう、ここにいるのは、アルバムの中のマヤではなかった。
本当にマヤがいるのだった・・・

真澄は、思いを告白する決心を固めた・・・








ACT7


マヤと真澄は、駅に隣接する公園に来ていた・・・

ポツンポツンと何台かあるベンチに
少しカップルが見えるだけだった・・・

そして、そのひとつにマヤと真澄が寄り添っていた・・・

ベンチに腰掛けた真澄はずっと無言だった。
二人の手はしっかりとつないだままだった。


どのくらい時間がたっただろう・・・
長い時間沈黙が支配した・・・
しかし、ついにその時が訪れた・・・

”俺は、ずっと思ってきた君への思い・・・
伝えたい思いを・・・今こそ話そう!”



「マヤ、そのまま聞いてくれ・・・」

「・・今日は、お母さんの事・・もう一度謝りたい・・・
俺は、君のお母さんを・・・」

真澄が、そういいかけた瞬間、マヤがさえぎった。

「速水さん、違うわ・・・
ずっと、母の事で、伝えたいと思っていた事があるの」

出会って10年・・・最初は憎んだ。会いたくなかった・・・・
でも、もうとっくに許してあげていた・・・
母親との別れを受け止め、きちんと話をしなければいけないと思っていた。

「お母さんは、わたしに会いに来て事故にあったの・・・
もっと早く、自分の手でお母さんを探していればよかったの・・・
お母さんを一人ぼっちにした事が一番の原因だと思うの・・・
わたしにも責任があります・・・速水さんだけのせいではないわ・・・
だから、速水さん、自分を責めているのなら、もうやめてください・・・!」

マヤは、真澄の腕をつかむと、激しく真澄を見つめ返し、そう告げた。

「・・・それは、本当か?本当にそう思うのか・・・」

「ええ、ええ、そうです、速水さん。どうか信じて!」

初めて、マヤは伝えたい思いを真澄に直接言う事ができたのだった。

”そして、知っているわ、紫の薔薇として、毎年お墓参りをしてくれていた・・・”

「・・・・・・」

真澄は、暫く声が出なかった・・・

”これは幻・・あの時の夢・・・?・・・いや、そうではない・・・”

真澄は、マヤの真剣なまなざしを見つめ返した・・・

マヤは、真澄の瞳から母親の事は故意ではない事を確信した。
そして、伝えたい事が、それだけではない事も感じていた。

”速水さん・・・あなたは一体何を・・・”

”マヤ・・・このまま返したら、俺は気がおかしくなるかもしれない・・・
もう駄目だ・・・今こそ、勇気を・・・!”


「マヤ、もうひとつ君に伝えたい事がある・・・
俺は、自分の思いを君に伝えたい・・・」


マヤの瞳は大きく真澄を見つめたままだった。


「俺は、君にお母さんの事でいくら憎まれようと、いくら喧嘩をしようと
いくら歳が離れていても・・・マヤ、君にずっと昔から惹かれていた・・・
小さな身体に秘められた無限の情熱・・本当にまぶしかった・・」

「・・・?」

「マヤ、これだけは信じて欲しい・・・
俺は、紫織さんとは何もない・・・
ただ彼女を深く傷つけたのは俺だ・・・
もっと早く自分の気持ちに素直になればよかった・・・
あの人の心をゆがめてしまったのは、俺のせいなのだ・・・」


「・・・なぜ、なぜ、そんな事をあたしに言うのですか・・・」


「それは・・・それは・・・」


突然真澄は、マヤの右手首をつかむと、そのまま引き寄せて、マヤを抱きしめた。

マヤの顔は、真澄のあごの下でしっかりと抱えられた・・・

「はっ、速水さん!?」

「・・・俺は君が好きだ・・・ずっと前から愛している!」

「・・・・!」

マヤは、まさに体に電気でも走ったような衝撃を感じた・・・

「歳が離れている事など忘れて君を心から愛した・・・

満天の星空への願い・・絶対に叶う事のない願い・・・

それは、この恋が実を結ぶ事だったんだ・・・!」

「・・・そんな・・・そんな・・・」

「マヤっ、いいから聞いてくれ」

「・・・そんな、信じられない」

「マヤ、今だけ、いや、数分でいい。俺を抱きしめて欲しい!」

マヤは信じられなった・・・
嘘かもしれない・・・紅天女のため、嘘かもしれない・・・
紫織さんは、一体・・・


マヤは残っている理性で様々な事を考えていた・・・・
しかし、真澄の厚い胸は、マヤの胸をどんどん強く圧迫してきた。
そして、その抱きしめられた身体がどんどん熱くなり
マヤは頭の中が真っ白になった。


”速水さん、信じていんですね・・・いえ、信じます・・・信じさせてください!”

やがて、全ての音が聞こえなくなってしまった。

真澄の声だけしか聞こえなくなってしまった。

やがて、何も見えなくなってしまった。

真澄だけしか見えなくなってしまった。

自分が1Mくらい地面から浮いたような錯覚・・・

そして全てのものが同じに思えた・・・

全てを受け入れる事ができる感じがした・・・

この日、この時のために自分が生きてきたような感じがした。



「・・・速水さん・・・」

マヤはそう言うと、マヤは、細い両方の腕を真澄の背中にまわして
包み込むように抱きしめた。

「・・・!」

真澄は驚いた。

「・・・まさか・・・こんな」


マヤの顔に幸福の色が宿った・・・
そのマヤの瞳から涙が零れ落ちた。
そして真澄を情熱的な眼差しで下から思い切り見上げた・・・

しかし、真澄はまだ、マヤの大きな愛に気がついていなかなかった。

「マヤ、君の涙の理由を教えて欲しい・・・
俺にできる事なら何でもしてあげたい・・・!」

真澄は、そうつぶやいたのだった・・・








ACT8


マヤは、紫の薔薇の人の思い出を浮かべていた・・・
紫の薔薇がマヤに与えてくれたものは、お金を出せば手に入るものだけではなく
受けたマヤにしか感じる事のできない、深い愛情も与えてくれた・・・
マヤは、その愛情を一身に受けてここまでやってきた・・・




”・・・速水さん、わかってしまったんです・・・
あなたが・・あなたが紫の薔薇の人という事・・・
わたしの涙の理由・・・それは、紫の薔薇であるあなたと
共にすごしたい・・・それだけ・・・
一緒にあるいて、一緒に生きて生きたい・・・
ひとつの人生を歩きたい・・・
こんな思い初めて・・・

今、速水真澄さんとして、信じられない事をプレゼントしてくれた・・・
あと、あと、もうひとつ、紫の薔薇の人からプレゼントをもらえたら・・・!
わたし、わたし・・・どうなってもいい・・・!

でも、でも、あなたは・・・
紫の薔薇だと言えない理由があるのでしょうか・・・
でも、どうか一度だけ言ってください・・・
あなたこそが紫の薔薇の人だという事を・・・速水さん!”




マヤは、この苦しい思いを真澄に伝える決心をした。

マヤは、真澄の腕の中で話を始めた・・・

「わたしは、ベスの時から、今日までの長い間に渡って
紫の薔薇の人の暖かい支援を受けてきました。
どんな時でも紫の薔薇の人は、わたしを見捨てないで支えてくれました・・・
平凡だったわたしが、月影先生の指導にめげず紅天女までやって来れたのは
紫の薔薇の人のおかげなんです、速水さん!」

「・・・ああ、そうだ・・ね」

「紫の薔薇がわたしに与えてくれたものは、バッグや洋服だけではありません。
わたしにしか感じる事のできない、深い愛情も与えてくれました・・・
身寄りの無くなったわたしにとって、それはすごく嬉しい事でした!」

マヤは、真澄の腕を掴み、下から見上げるように、真澄の瞳を見つめた。

「だから、演劇を続けてこれたのです、速水さん!」

真澄は、マヤの瞳に真剣勝負に似たものを感じた・・・

「マヤ、君は一体・・・」

もう、二人は、マヤを、呼び捨てで呼ぶ事も、呼ばれる事も意識の外だった。
魂と魂が触れ合わん、ぎりぎりの状態に来ているようだった。

「・・・わたしは、わたしは、紫の薔薇の人を、心から愛してます。
そして、その人が、どんな人でも平気です。
例え、例え、紫の薔薇の人が、速水さん、あなたであっても!」

「・・・・!」

真澄はマヤの真剣な表情と、意表を突いた言葉に驚いた。

”まさか、マヤ、紫の薔薇の正体を知っているのか・・・”

「速水さん!」

「マヤ・・・マヤ、君は・・・
俺を・・・さっきお母さんの事を・・・許してくれた・・・
そして、俺をこうやって抱きしめてくれた・・・
それだけで俺は嬉しい・・・
嫌われていない事がわかって、俺は幸せだ」

「・・・速水・・・さん」

マヤは泣きそうな表情になっていた。

”速水さん、そうじゃないわ・・・そんなんじゃあない!わたしも、わたしも・・・
一言、紫の薔薇だと言ってください!そうしたら、わたしも言います!
あなたを愛していると・・・!”

下から見上げるまなざしは、もう涙が今にも溢れそうで、きらきらしていた・・・


”今、この腕の中にいる少女が、俺を変えようとしている・・・
あんな残酷な事をした俺を受け入れてくれようとしている・・・
きっと、この子なら、俺の全てを受け入れてくれる・・・
紫の薔薇の真実・・・今こそ・・・”

真澄は、一瞬、マヤを抱える左腕をはずし、何かを探そうとした・・・
と、その時、真澄の脳裏に、あの紅天女の額が燃え尽きるシーンが浮かんだ。

”紅天女・・・!
あの打ち掛けに秘められた母の恨み・・・
紅天女に秘められた義父との闘い・・・
俺はあの暗い海で愛を捨てた・・・
あの日、暗い海から助かったとき、俺の心は死んでしまった・・・
あの日、俺はもう愛はいらない事にしたのだ・・・”


真澄は必死に己の心と対峙していた。


”一度捨てた愛を甦らせてくれたマヤ・・・
しかし、紅天女に、母の復讐まで負わす事は絶対にできない・・・
そう、これは、俺と英介の問題なのだ・・・
この思いがある限り、俺は紫の薔薇を名乗る事はできない・・・
マヤ・・・マヤ、すまない・・・”

何かを探していた手の動きが止まった・・・


真澄は、母の復讐と紫の薔薇に翻弄され
告白しそうになった薔薇の真実を、暗い胸のうちに秘めてしまったのだった・・・
マヤの気持ちは、汲み取れそうになかった・・・


激しく燃え上がった気持ちを、つぶらな瞳で、精一杯伝えようとするマヤ・・・
一旦、火がついた恋の炎はもう消えそうになかった。

「速水さん、わたしの気持ちを聞いてください・・・」

「マヤ、すまない、先に聞いて欲しい事がまだある・・・俺には・・・!」

そう言いかけて、真澄は急に黙ってしまった。

「・・・・?」

マヤは、真澄の態度が急におかしいと感じた。
真澄の表情が激変したのだった。
氷のような冷たい表情・・・
まるで・・・冷血漢の表情・・・
まるで・・・氷の仮面をつけたようだった・・・

”速水さん、一体何が・・・”

マヤは、本能的に、真澄の身を案じてしまうほどだった。



真澄の視界・・・

数百メートル先の交差点の隅に見える女性・・・こちらに歩いてきた・・・

紫織だった!

まだ遠いため、こちらには気がついていないようだ・・・

その後方には、エージェントも来ていた・・・恐らく水城も・・・

”しまった・・・”

紫織は、行方不明の真澄の居場所を、あらゆる手段を使って調べ上げたのだった。


”絶対、今日のマヤに紫織を会わせる訳には行かない!
会わせたくない、今日のマヤは、特別なマヤなのだ!”


真澄は、腕にすがるマヤを守るため
緊迫した様子を悟られないように
今までに見せた事のない優しい表情で
まだ腕の中にいるマヤに優しく語った・・・

「マヤ、今日は楽しかった・・・今日は、ここでお別れだ・・・」

「速水さん・・・」

「マヤ、これだけは約束して欲しい・・・何があっても紅天女を諦めないで欲しい・・・

そうすれば、俺とお前はずっと繋がっていけるはずだ・・・そうだろう?」

「・・・・・・」

「マヤ、返事をするんだ、いいな?」

「速水さん、わたし、もっと話をしたいの・・・」

「マヤ、今日は、俺の気持ちを聞いてもらった。偽りはない。
俺は、いつ、どこに、誰といても、お前に対する気持ちは絶対変わらない・・・」

この言葉を聞いて、マヤの表情に穏やかさが戻った・・・

断腸の思いで、真澄は続けた・・・

「いいか、絶対に紅天女を諦めるな、今が駄目でも、来年、再来年と諦めるな」

「・・・速水さん・・・」

「例え、俺がいなくなっても、だ」

マヤは、別れの時が来た事を悟った・・・

「マヤ、返事をするんだ、いいね?」

「・・ええ」

「声が小さい」

「ええ・・・はい、速水さん」

「それじゃあ・・・」

「・・・また・・・」

真澄は、優しくマヤの手を腕から離すと、最後に力強く握った。

そして、マヤも力強く握り返した・・・

紫織たちがアベックを探しているだろうから、もう危険だった。

つらい、つらい一瞬だった・・・

身体を・・・離した。

そして、万感の思いで見つめるマヤを残し、最後に熱くマヤのまなざしを見つめ返した。

”マヤ!”
”速水さん!”

一瞬ひとつになった、魂の片割れは
こうして、また離れ離れになってしまった・・・・

真澄は、踵を返し、足早に駅とは反対方向に歩き始めた。

”マヤ、お前を巻き込ませない・・・今日は絶対に、良い思い出にするのだ”

真澄は、静かに熱くつぶやいた・・・








ACT9


マヤは、暫く放心状態だった・・・

真澄が去ったあとも、ベンチを立てないでいた。

涙がぽろぽろと、落ち始めたマヤは、悟った。


”わたしの涙の理由・・・あなたに会いたいから泣いていた。

わたしの本当の涙の理由・・・今日は伝えられなかった・・・

でも、今日、わたしに言ってくれた言葉・・・

わたしを愛していると言ってくれた言葉・・・

信じて良いのですね・・・

嬉しい、本当に嬉しい・・・

昨日までの自分に比べたら・・・

もう恐いものなんて、なんにも無い!”




”紫の薔薇の人の事は、否定も肯定もしなかった・・・

それは、きっと、いつか話してくれますよね、速水さん・・・

わたしは、いつまでも、いつまでも待ちます・・・

紅天女を演じながら、あなたが、紫の薔薇の人であると言ってくれる日まで・・・

1年でも2年でも、いえ、10年でも20年でも!”




マヤは、星が見え始めた都会の空を見上げた・・・

その時、マヤは小さく叫んだ。

「忘れ物・・・!」

”いけない、わたしって・・・”

マヤは、真澄がとってくれたぬいぐるみを、真澄が持っている事に気がついた・・・

”まだ、そんなに遠くに行っていないはず・・・

確か迎えの車を待つって・・・”

マヤは、真澄が歩いて行った方角へ走った。


”笑われるかもしれないけど、今日の思い出に・・・!”



「あっ、いた!速水さん」

マヤがいる、神殿風の階段の上から見下ろせる下の交差点に、速水真澄がいた。

マヤは、ひまわりのような笑顔を見せ、そのまま真澄の元へ駆け下り始めた。

走りながら真澄を見ると、歩道を歩きながら、途中にあったダストボックスに何かを捨てた・・・

「・・・?」

そして真澄は、そのまま歩き続き、歩道の端にある、交差点手前の外灯の下にあるベンチに座った・・・


マヤは、かなり近くまで追いついていたが、もう薄暗くなってきたのと、
平面状態の公園にいる真澄には、まだわからない距離であった。



やがて下まで降りたマヤは、真澄が何かを捨てたダストボックスを、おそるおそる覗いた。


そこには、紫の封筒にはいった手紙が捨ててあった。


”紫の薔薇の人!”


しかし、その封筒は、真っ二つに破られていた・・・


明らかに、自ら破ったものだった・・・


マヤは一瞬躊躇したが、2つの破片から、やはり2つに破れてしまっているカードを取り出した。


暫く、その2つを見ていたが、意を決して、2つのカードを手の上であわせていった。


”・・・君の・・紅天女を・・・早く・・・みたい・・・あなたの・・・ファンより・・・”


「・・・!・・・なぜ、どうして・・・速水さん・・・このカードを・・・

・・・さっき、わたしに・・・くれないのですか・・・どうしてなんですか!速水さん!」

ここから少し駆け足をすれば、速水さんのところへ行ける・・・

マヤは、紫の薔薇の手紙を握り締め、更に真澄に向かって走った。

そして、あと数十メートルまで近づいたとき、真澄の様子がおかしい事に気がついた。

「・・・!」

マヤは、思わず、そばに設置されていた看板に身を隠した。

真澄は、交差点横の公園の一番隅にあるベンチにただ一人腰掛けているが

たが、肩が微かに震えていたのだった・・・

「・・・速水さんが・・あの速水さんが・・・泣いている・・・!」

マヤにとって、絶対に涙を流すような人ではない、速水真澄・・・

一瞬ではあるが、涙が頬を伝っていたのが見えた・・・



真澄は、独白していた・・・

「マヤ・・・

渡せなかった紫の薔薇のカード・・・

君の涙の理由はきけなかった・・・

やはり、俺は、あの暗い海で死んでしまったのだ・・・」






突然、公園の向こう側の交差点に、真澄のジャガーが見えた・・・

水城が降り立ち、真澄を見て、安堵するのがここからでもわかった・・・

エージェントも集まってきて、声は聞こえないが、迎えが来たらしい。

近づけないマヤの視界に、次々と真澄の関係者が集まってくるのが見えた・・・

そして、真澄に向かって、一番遠い交差点から走ってくる一人の女性が見えた・・・

「あれは・・・紫織さん!」

紫織が近づくのを見るや、真澄は手の甲で頬をぬぐった。

やがて、紫織が真澄に抱きつき、水城の待つジャガーへ、真澄は歩いていった。

追いついたエージェントと共にジャガーは去っていった・・・



真澄が去る最後まで、マヤは外灯の陰から見ていた・・・






マヤは、さっきまで真澄と一緒に座っていたベンチに戻った・・・

プラネタリウムがある高層ビルを見上げているうちに、涙が頬を濡らした・・・



「あなたに聞きたい・・・

今流していた、涙の理由・・・

紫の薔薇の人を名乗れない本当の理由・・・

あなたは、紅天女と深いつながりがあるのですね・・・速水さん!」



その時、マヤの頭の中に、真澄の声がこだました。



「マヤ、これだけは約束して欲しい・・・何があっても紅天女をあきらめないで欲しい・・・

そうすれば、俺とお前はずっと繋がっていけるはずだ・・・そうだろう?」


「・・・ええ、そうですよね・・・そう思います、速水さん・・・」


マヤはすっと、立ち上がった・・・


「私の紅天女・・・あなたのその悩む姿を救ってあげたい・・・

私の紅天女は愛する人を求めるだけではないわ・・・

私は、愛する人を救う紅天女になりたいの・・・

今度は、私があなたを助ける番・・・

速水さん、あなたを!」



涙を流してはいたが、その表情は、稽古中のマヤではなかった・・・


どんな時でも、決して希望を捨てない涙・・・


それは、出発の涙だった・・・


新しい紅天女・・・




























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