真夏、きみと
かえで様イラストに寄せて
ShortShort By 紫苑








夏空が遥かに高い。
いつのまにか。
日常に追われる日々から束の間脱けだして
きみと、ふたり。
燦めく陽差しが肌を焦がす。
この皮膚に突き刺さる熱感は、巡る季節の記憶を呼び覚ます。
今年もまた、真夏が巡ってきたのだ。
見慣れた浜辺に吹き渡る熱風がどうしてか今日は
ひとしきり胸狂おしく、
しぜん水平線への視線を誘う。
数え切れない夜々に、日々に、目にしてきたこの砂浜だが
きみの笑い声が響けば
初めて訪れた異国の砂浜のようにもふと錯覚する。



「速水さん、早く!何してるの?泳ごう!」

「きみが泳げるとは初耳だが?」

「うそ。そんなこと、あたし1回も言ったことない。」


海遊びに興じる。
きみと。


きみは浮き輪が流されたと騒いで追いかけてと笑う。
あいにくだが、きみの浮き輪でもいいが、今は少し思い切り泳ぎたい。
ひと呼吸ついて、勢いをつけて遠泳に飛び出した。


波飛沫。
陽光。
塩の味。


生きている。
生きている。
この世に、確かに。


それがどれほどかけがえのないことか、きみが教えてくれた。



息が上がったので泳ぎを止める。
浜辺近くのきみは
陽炎にゆらいで
小さな浜木綿の花のようだ。


何も考えず、しばらく海を背にして漂った。

瞼を閉じても視界は明るかった。




「ずるい、速水さん。ひとりだけ遠くまで行っちゃって。」
「あたしは足が届くところまでしか行けないの!」

「たまにはひとりで泳いだっていいだろう?」
「お嬢さん、機嫌を直してくれ。写真を撮ってやるから。」
「タイトルは“夏のお嬢さん”にするからな。」
「なにそれ?」


凪いだ浅瀬。
マヤの長い髪から水滴が滴る。
若々しい肢体。
瑞々しい素肌。
華奢な肩も携帯の液晶画面には今日は晴れ晴れと大きく映るのは
気のせいか。


「よし、撮れた。見てみろ。どうだ?」

「へえ。けっこうカッコ良く映るんだ」

「被写体への愛があるからだろう?」

「もー…。そういうことって、…ふつう言う?」

「ふつうはどうかは知らん。ほら、ジュースだ」


クーラーボックスからオレンジスカッシュを手渡す。
シートに並んで腰を下ろし、南中した太陽とその創り出す影をふたり、
黙って見つめる。
言葉はいらない。



波に濡れたマヤのくっきりとくびれたウエストは指先に心地よく滑る。
背筋に愛撫の指を這わせれば、熱砂の上でもぞくりとマヤは戦いた。



「そろそろ戻るか。続きは部屋でゆっくりな。」

「続きって…」

「きみをお持ち帰りするに決まっているだろう。」


横抱きにして、マヤを抱き上げた。


















繰り返す、愛撫、吐息、熱
囁く睦言
寄せては返す快楽の波
海のように


我々のこの命を生み出した、海のように



このために、生まれてきたのだ
この営みを営むために



命に対して人がもう二度と誤ってはならぬように
誤るまいとして真実を見誤る過ちはもう犯さない



きみこそが、この命のすべて
きみこそが、この魂の片割れ



知っているか
男は精神でこそこうして営むということを

知っているか
その狂喜が、どれほど深い満足をもたらすか




いや、今はいい
もう何も


いっさいを、この胸に
この腕の中に
押し流してしまえ

さあ

もういいから




















「何を泣く…」

「…嬉しくて…」

「そうか」


何も言わず抱き直す。
腕の中のこの温もりの確かさ。
この嫩くしなやかな身体。
事の後の生気に耀く表情もまた。




「いつか、な…」

「…?」

「きみに俺の子を産んでほしい」

「きちんと結婚してからだぞ」

謎めいた光がマヤの瞳に宿った。
その意味は今は問うまい。
今はただ気怠いだけでいい。






「明日、もう一日海で遊べる。夜、月が出たらまた浜に行こうか」

「うん…」

「少し眠れ」

「うん…」


















真夏の陽光はあまねく地の上に濃い緑の影を落とす。
命与えられし緑は求め求めて高くその背を伸ばす。
盛りの夏。
その緑と同じものとして命をことほぎ、
飽かずきみを抱く。
そして月の浜辺を今宵、きみと過ごそう。
空と海の境を臨んで、明日、またきみと過ごそう。
遠く離れていても、いつもきみの心にこの思いが届くように、
あの夏空の彼方、真白い雲のうえで
ひとつのものとなった魂は
永遠の渚を流離っていくだろう。




この真夏の日、楽しく過ごそう、きみと。


今は。
今だけは。




















終わり









2007/8/5
最後になりましたが
<献辞>
この掌編を私の健康のためにお祈りくださっている全ての皆様に
謹んで捧げます





皆様、暑中(残暑)お見舞い申しあげます。
今年も夏本番になりましたね。
夏休みのお母様がた誠にお疲れさまです。
えー、今朝ほどサキさんのサイトさまで発見しましたかえで様のイラストを拝見した勢いでつい、手が滑ってしまいました〜。
手が滑った、ってなんやねんと自己ツッコミ。
おかげさまで今日は本当に良い気晴らしが出来ました。
ま、たまにはこういうこともある、程度にかる〜く流してやって下さいませ。(^◇^;)

かえで様への拍手・メッセージは
イラストご贈呈先のサキ様のサイト様→にてお願い致します。
かえで様、サキ様、このたびはこ〜んなお遊びをご快諾くださり誠にありがとうございました!
これに懲りずまた遊んでやって下さいね(特大はあと)

















































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